ITmedia NEWS >

大画面テレビのトレンド(2) 大型有機ELの遅れと4Kテレビの関係本田雅一のTV Style

» 2012年10月12日 14時14分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 「IFA 2012」「CEATEC JAPAN 2012」と大きなイベントが終わったので、テレビ関連のトレンドをまとめて……と編集部から依頼されているのだけど、実は報告できることが少ない。もちろん、東芝“REGZA”(レグザ)に採用された「ざんまいプレイ」は要注目。製品版で、どこまでテレビを骨までしゃぶり尽くす楽しみ方を見せてくれるのか、今から注目だ。

東芝が9月27日に発表したREGZA(レグザ)Z7シリーズ。タイムシフトマシンを生かし、“見たいもの”を存分に見られる「ざんまいプレイ」を提案した

 また、4Kテレビも半導体技術の進歩からか、あるいはSD-HDアップコンバートでの経験が生きているのか、各メーカーともなかなか良い絵を見せている。まだ未発表だが、あるメーカーのBlu-ray Discレコーダーが出す4Kアップコンバート映像は「おや? 最初の世代からここまで行けるの?」という驚きを感じさせる映像だった。あと数日もすれば、年末に向けた製品もそろってくるだろう。

 一方、パネル関連では大きな動きが見えてこない。そこで、前回から少し時間が空いてしまったが、CEATECには出展していなかった韓国メーカーの動向を詳しく紹介しつつ、他方で4Kテレビに注目が移りつつある状況を整理してみよう。

韓国メーカー2社の関係悪化も?

 今年1月の「International CES 2012」を振り返ると、テレビ関連でもっとも大きな話題は、有機ELディスプレイ(OLED)採用の55インチテレビが韓国の2社から年内に発売されるというものだった。背景としてあるのは、中国での中大型パネル生産が軌道に乗ってくるという予測で、中国メーカーの採用するパネルが中国産にシフトしていくと、韓国の液晶パネル生産の採算性が悪化してくる。

 そこで、どこよりも早くOLEDの製品化を行い、経験を積み重ねて量産体制に持っていきたいという思いがあったのかもしれない。常識的に考えるなら、OLEDを用いたテレビの量産本格化は2014年以降のことだ。このタイミングで55インチを商品化するとはスゴイ!と話題になったものだ。

今年1月のInternational CESで大きな話題となった大型有機ELテレビ。サムスン(左)とLG(右)は、それぞれのプレスカンファレンスで大々的に発表した

 しかし、どうやら予想よりも歩留まりは厳しいようだ。サムスンとLGのうち、難易度が低いのはLGのタイプ。LGは白色OLEDにカラーフィルターを組み合わせた方式で、サブピクセル(1画素を構成するために配置されるさらに小さい画素)を赤、緑、青に塗り分ける必要がないため生産性が高い。

 そのLGは、韓国と米国で55インチOLEDテレビを先行発売することを決めたが、当初は発売を目指していた日本への出荷を見送った。かなり少量の生産しかできないという。価格は100万円程度といわれており、それでも採算性に疑問があるぐらいだから、そもそもが本格生産というわけではないのだろう。

 RGBの画素を塗り分けて、それぞれ個別に発光させるサムスンの場合、もっとハードルは高くなる。サムスンは、この55インチOLEDテレビを引っさげて日本市場に復帰するといわれていた。量販店幹部との交渉や、店頭において市場調査している様子が観測されていたためである。しかし、北米と韓国だけでも、いくつ出荷できるのか分からないというのが現状のようで、こちらも苦労している。

 さらに事を複雑化させているのが、韓国国内での両社の関係悪化だ。サムスンを依願退職したOLEDのエンジニアが、LGで雇用されたことに端を発し、サムスンがLGを産業スパイおよび技術の盗難で訴えたのだという。LGは退職した技術者を採用しただけで、現在のOLED技術とは無関係な上、違法な採用はしていないと主張している。今後、この問題が拡大していくと、予想もつかない展開が待ち構えているかもしれない。

 と、そんなドラスティックな展開もあるのだが、根底にあるのは中大型OLEDパネル生産の難しさ。各社各様の経緯があって、今年の1月にはオーディエンスに興奮をもたらしたOLEDテレビも、(発売には漕ぎ着けると予想しているが)どこまでの数を生産できるのか全く分からない。年初の予想より生産立ち上げに時間がかかるという観測が業界内にも拡大しており、結果として4Kパネルとアップコンバート技術にスポットライトが当たっているのが現状なのだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.