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» 2004年10月13日 23時22分 UPDATE

孫社長「訴訟には絶対勝つ」

800MHz帯が新規事業者に割り当てられなかったのは、総務省とNTTドコモ、KDDI間で“密室の交渉”が行われたせいではないか――孫社長はこう考え、提訴に踏み切った。

[小林伸也&岡田有花,ITmedia]

 「この世に神というものがいるなら、間違いなく勝てる」――10月13日、総務省を相手取って行政訴訟を起こしたソフトバンクの孫正義社長はこう言い放った。

yu_bank_01.jpg 都内で会見する孫正義社長

 800MHz帯で新たに空く帯域を、既に同帯域で事業を行っているNTTドコモとKDDIに優先的に割り当てるとした総務省の「800MHz帯のIMT-2000周波数の割当方針案」。これが電波法に違反すると孫社長は主張する。

 「電波法では、免許は適正な審査を経て付与すべきと規定しているが、実際は、総務省と各社の担当者数名だけが密室で決めており、新規参入の有無の確認すらしていない。アンフェアだ」(孫社長)。

 背景として孫社長が指摘するのは、NTTグループやKDDIに再就職した元総務官僚。「天下り官僚が、総務省にいる元部下と交渉して周波数帯の割り当てが決まったのではないか」──という。総務省とNTTドコモ、KDDI間での交渉の全記録を保全するよう求める仮処分を申し立てたのも、これを裏付ける証拠を確保するのが目的だという。

 さらに、総務省の割り当て方針は、電波法第1条――電波の公平かつ能率的な利用を確保することによって公共の福祉を増進する――にも違反すると主張する。

 「既存事業者は、既に割り当てられている2GHz帯域をほとんど利用していない。帯域が余っていながら、さらに800MHz帯を追加でもらうのは、電波の能率的な利用とは言えず、公共の福祉にも反する」(孫社長)。

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 「総務省は、800MHz帯の上り・下り通信を入れ替えるため、同帯域を既存事業者に割り当てねばならないと説明しているが、これはウソだ」と孫社長は語気を強める。「一つの端末で複数の周波数帯への対応は可能。800MHz帯だけでなく、1.7GHz帯などを使っても再編できる」(孫社長)。

 審理の長期化は避けられない見通しだが、「数週間のうちに総務省などから何らかの反応があるだろう」(弁護団の牧野二郎弁護士)とした。

yu_sb_03.jpg 総務省案とソフトバンク案の相違点

800MHz帯をめぐる思惑

 孫社長が800MHz帯にこだわるのも、同周波数帯が携帯電話向けに有利な特性を持つからだ。

 一般に、電波は周波数が高いほど飛びにくくなる上、屋内などにも届きにくくなる。総務省は新規事業者には2GHz帯などを割り当てる方針だが、この方針は孫社長にとっては、既存の支配的事業者に有利な周波数帯を優先的に割り当て、新参者には不利な条件を押しつける──という風に映る。

 「800MHz帯は携帯電話事業を行うのに一番有利で、設備投資も安くて済む。これを既存事業者で独占して、新規参入事業者は1.7GHz帯など不利な帯域を割り当てると、寡占状態に拍車をかけ、競争は促進されない。日本の携帯料金は高止まりしたままだ」。これが、孫社長の今回の主張の骨子だ。

 実際、2GHz帯でFOMAを開始したドコモは「自宅でつながらない」といった苦情が相次ぎ、立ち上げ時期に苦労をなめた経験がある。800MHz帯でCDMA 1xを開始したKDDIは切り替えがスムーズに進み、ドコモの立川敬二社長(当時)が「auは少しズルいのでは」と愚痴をもらしたほどだ(関連記事参照)

 ただ一方で、ソフトバンクBBが実施した2GHz帯での実験結果が不調だったため800MHz帯に固執しているのでは、との見方もある。これに対し孫社長は「考えられる最適な方法で参入したい。2GHz帯のCDMA-2000の実験は、大変良好な結果がでているが、800MHz帯のほうが電波特性が有利なため、800MHz帯でも実験がしたい」と説明した。

公取委にも“喝”

 「日本の公正取引委員会は、景品表示法違反など小さなことの指摘は得意だが、大きな正義のなたを振るうのに臆病なのではないか」――孫社長の批判は、総務大臣が所轄する公取委にも及んだ。

 「独占状態では価格は上がり、競争状態だと価格は下がるのは明らか。ソフトバンクはADSLや固定電話サービスでこのことを証明してきた」とし、携帯電話市場の寡占状態を公取委が問題視しないことに憤りをあらわにした。

 新規参入を不当に阻害したとしてドコモやKDDIを独占禁止法違反で提訴することも「視野に入れている」(牧野弁護士)が、「独禁法の対象は民間事業者。総務省を訴えることはできないため今回は見送った」(牧野弁護士)。

 しかし結成した弁護団は完全に“反独占”シフト。

 弁護団にはアドバイザーとして、米司法省がMicrosoftを独禁法違反で訴えた裁判で司法省側の主任弁護士を務めたデビッド・ボイス弁護士や、米国司法省で副長官を務め、AT&Tの解体にかかわったドナルド・ベーカー弁護士など、強大な独占企業を相手にしてきた国際的スターをそろえた。

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 「日本の携帯電話料金は世界中で一番高い。見方を変えれば安いという人もいるのは知っているが、高いものは高い」と話す孫社長。「NTT東西が固定電話の基本料金値下げに踏み切ったように、ソフトバンクが携帯に新規参入すれば、他社よりも安い料金を設定することで対抗値下げせざるを得ないだろう」。電波の割り当てを受ければ、その2−3年後にサービスを開始する計画だ。

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