第5回 KDDI 高橋誠氏──Web 2.0時代の携帯電話サービスとは石川温・神尾寿の「モバイル業界の向かう先」(2/3 ページ)

» 2007年07月30日 09時35分 公開
[房野麻子(聞き手:石川温、神尾寿),ITmedia]

神尾 ところで、もう1つの新機能であるTouch Messageは、まだ私の中では消化しきれていないんですが……。

高橋 あれは響きますよ! 

石川 女性からもらうと響きますよね(笑)

高橋 響きます。僕と石川さんは同じ女性から同じ手を使ってTouch Messageをもらったことがありますが、ググッときましたよ……って何を言っているんでしょうね(笑)

石川 でも、結局そういうことですよ、きっと。

ITmedia 合コンなんかに使えそうですね。

神尾 今回の夏商戦向けのサービスって、全体的に合コン系のネタが多かったように思います(笑)

高橋 それは、ドコモの夏野(剛)さんが「2in1」を合コン系ネタにするからです(笑)。僕は合コンとは言いませんでしたよ。

神尾 でもTouch Messageは合コン系ですよ。妻子持ちにはなかなか活用できません(笑)

高橋 確かにね。利用シーンが分かりやすいですね。

石川 コミュニケーションが根幹にありますから。

高橋 (こういったサービスが出てきたのは)たぶん、みんな任天堂の「Wii」のテレビCMを見て、「あ、そうなんだよな」ともう一度思っているからなんだと思います。作ってから売り方を考えるような、“プロダクトアウト”の形の商品もある中、やはりユーザーさんの利用シーンがCMになるような、そういう商品を作らなくてはいけないという風に頭を回帰させているのは事実だと思います。

石川 それで、ライフスタイルを支援する、ということを掲げられたわけですか?

高橋 そうかもしれないですね。ユーザーさんに、携帯電話をどんな生活空間の中で、どうやって使ってもらうのがおもしろいんだろうな、という風にもう一度考え始めていると思います。というのも、若年層向けに作っていた商品に限界を感じているんですよ

 経営的にいうと、今まではパケット通信料の定額制を導入して、(定額制を利用してくれる)若年層向けに一生懸命いろいろな手を打ってきました。特にauの場合、定額制加入率は約8割なので、この人たちに定額料の上限である4200円まで使ってもらうことを重視してきました。しかし、一方で(定額制に加入していない)残り2割のユーザーさんがいる。そこで今度はもう少し若年層以外の世代にもパケット通信の利用者を広げていかなくてはいけない。そうすると、その人たちに、“どうやったら使えるか”を想起してもらう必要があるわけです。

 例えば、2007年夏モデルでは女性をターゲットにしたワンセグ端末を出しましたが、お風呂の中で携帯を使う需要ってものすごく高くなっているわけですよ。防水携帯については、お2人はプロだから、ある意味“予想通り”だったかもしれませんが、夏モデルの発表会場では、色々質問してこられる女性がすごく多かったんですよ。やっぱり生活サイドに寄って、携帯電話の使い方を提案していくのはすごく大事なことだと思いますね

神尾 着うたのサービスが始まったときは、携帯が牽引する形でライフスタイルを変えるというように動いていましたけれど、今の話ですと、今までの流れで拾いきれていなかったいろいろなライフスタイルや利用スタイルを拾い上げていって、それに適したものを提案していくという形ですか?

高橋 基本的に、今までは事業者本位で作ってしまっていたという気がしますね。もちろん徐々に学んできたわけですよ。例えば、昔は通信会社がコンテンツをすべて垂直統合で提供した時代がありました。でも通信会社のセンスなんて受けない。昔のポケベルの情報通信なんかそうですよね。そこにiモードが出てきて、表現手段のコンテンツをオープンにすることでユーザーさんに一歩近づいたわけです。つまり、ユーザーさんの使うシーンを考えてコンテンツプロバイダさんがコンテンツを作り始めた。

 ただ、オープンになったとは行っても、まだiモードあるいはEZwebという限定された入り口しかなかったわけです。それがWeb 2.0という時代になった今、いろいろな入り口を定義してあげたほうが、ユーザーさんにもっと使ってもらえるだろうと、みんな考え始めたんでしょうね。

 だから僕らは、それに先んずる形で検索エンジンについてもGoogleと提携するという形で導入しました。将来的に来るMVNOみたいな世界についても、みんなそういうことを想像し始めていると思いますよ。MVNOは、例えばKDDIではないブランドでユーザーにアプローチしたい、という思いですよね。どんな会社も、自分たちの顧客を囲い込むために携帯電話というツールを使いたいと思い始めている、と僕は思っています。だから米Disneyは自分たちのお客さんを囲うために、米国でMVNOでディズニー携帯(Disney Mobile)を作ったわけですよね。そういう風な流れになってきている気がします。

石川 では今後は、垂直統合でキャリアが色々準備して市場を盛り上げていくというようなコンテンツやサービスというのは、あまり考えていないということですか?

高橋 いや、それは当然ありますよ。100人いたら70〜80人まではそれを望んでいるわけですし、それはそれでやっていきます。でも、あとの20〜30%は、プラットフォームはきちんと携帯電話事業者が作り上げるけれど、表の看板は違っていてもいいよね、ということになると思います。

価値観の多様化に応じて“入り口”も多様化する

神尾 Web 2.0の話が出ましたけれど、改めて2.0の定義ってなんだったんだろうと思うんです。Web 2.0という言葉が広まってきたときからいろいろ見てきて振り返ると、根源にあるのは“参加者を増やす”ということが一番重要なところなのかなと思うのですが。

高橋 そうでしょうね。

神尾 ブログも情報発信の参加者を増やしました。今の話ですと参加者を広げることにおいて、MVNOのような形もあるし、今回の防水ワンセグのようなものもある、ということですか?

高橋 ユーザーさんによって価値観は違うじゃないですか。今までは、画一的にEZwebという世界に閉じ込めてきたわけですが、そうではなくて、例えばあるブランドが好きな人たちはそのブランドが入口になっていてもいいだろう、という発想です。Web 1.0の世界ではYahoo!という入口しかありませんでしたが、Web 2.0の世界では価値観が同じ人たちが集まれる場所が作られていったわけじゃないですか。これが例えばブログだったかもしれないし、あるいはブランドでもいいかもしれない。そういうイメージに携帯が変わっていくと想像しているんです。

神尾 去年くらいからずっと、(さまざまな携帯電話サービスの)利用率をどうやって高めるか、というのがテーマだったわけですが、それをどんどん上げていって、いろいろなサービスや携帯コンテンツの参加者を増やしていく、という感じでしょうか。

高橋 そうですね。

神尾 利用率を上げるために、1つは外部のブランドを使って入り口を多様化するという話でしたが、それ以外に参加者を増やす上で重要な要素はあるのでしょうか。

高橋 絶対にユーザーインタフェース(UI)でしょうね。間違いないと思いますよ。

神尾 今、いろいろなUIの技術がありますよね。タッチパッドだったり、「ニューロポインタ」だったり、スクロールホイールだったり、各社とも模索をしています。

高橋 いや、そういう意味でのUIではなくて、例えば、折りたたみ端末を開いたら、画面ががらっと変わっている、というようなイメージです。

神尾 デスクトップのUIということですか?

高橋 この入口(画面)が新しいブランドだったらそれでいいじゃないか、ということです。UIという言葉はふさわしくなかったかもしれませんね。もちろん、ポインティングデバイスとかUIの新しい技術は絶対重要ですよ。それはそれで追いかけていきますが、今言っているのは入り口を多様化するということ。今は、端末を開けたら入口はauでしかないわけじゃないですか。

神尾 操作系のUIだけじゃなくて、ユーザーさんが求めるコンテンツなりサービスなりのアクセスルートの部分全体を指した上でのUIというイメージですね。

高橋 そうです。例えば、将来これをやるかどうかは分かりませんけど、画面がオンになったら全部Googleだったらおもしろいじゃないですか

神尾 それはおもしろいですね。

高橋 折りたたみ端末をパカっと開けて、全部AppleのiTunesだったりしたら、むちゃくちゃおもしろいじゃないですか。そうなってくるんじゃないですか。これはあくまでも“僕が思っている”というだけですからね(笑)。それが先ほどお話しした“UI”です。UIっていう表現はわかりにくいですね。なんて言えばいいでしょう。“ポータル”というのも違いますし……。

 あまりいい例じゃないですが、年配の方だと、着うたといってもなかなか分からないんですよ。でも、入口が「石原裕次郎」で、そこにボタンがあって曲が買えます、ということになったら、石原裕次郎の曲を買ってくれるかもしれない。まあ、そんな意味での“インタフェース”です。

神尾 ユーザーさん向けにトータルコーディネートされた携帯というイメージですね。

高橋 いいと思いませんか?

神尾 断然いいと思います。みんなにとって使いやすいものは絶対に作れませんが、「私にとって使いやすいもの」は作れますから。本質的にケータイは、そこを目指していくべきでしょうね。

高橋 ワンボタンで画面全体を変えられる「EZケータイアレンジ」もそれに近いものがあって、僕個人的には、すごく響いているサービスなんですよ。

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