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» 2008年10月09日 12時00分 UPDATE

神尾寿のMobile+Views:本当にiPhone 3Gは“失敗した”のか (1/2)

「失速」「敗戦」といった報道が続いている日本市場での「iPhone 3G」。しかし発売から3カ月ほどの販売状況で、従来の携帯電話端末と並列で比較し、その立ち上げが失敗だったと断じていいのだろうか。日本でiPhone 3Gが“離陸”する可能性を考察する。

[神尾寿,ITmedia]

 世界中の注目を浴びながら、iPhone 3Gが発売されてからもうすぐ3カ月。発売当初の品不足が解消され、売れ行きが落ち着くと、一転して「iPhone 3Gは失速・失敗した」という声が広がった。特にテレビや新聞など一般メディアでは、わずか1〜2カ月の“戦績”をもとに「iPhone 3Gが失速」と相次いで報道。一部の国内メーカー幹部やアナリストなども、iPhone 3Gの現状に冷ややかな視線を向けている。

 本当にiPhone 3Gは失速・失敗したのか。

 今日のMobile+Viewsでは、iPhone 3Gの現状と今後について考えてみたい。

iPhone 3Gのローンチは「長期戦モデル」

 7月10日、iPhone 3G発売前夜。あるApple関係者が、ソフトバンク表参道の前に並ぶ長蛇の列と、それを取材する報道陣を見て、「我々が想定した以上に騒がれすぎている」と呟いた。ソフトバンクモバイル社長の孫正義氏みずからが“出陣”し、iPhone 3Gの発売は「お祭り騒ぎ」のレベルまでヒートアップしていた。ITやガジェット系の専門メディアだけでなく、一般マスメディアまで巻き込んだ熱狂の渦の中で、その人物がちらりと見せた不安げな表情が、筆者の印象に強く残っている。

 そして発売後、iPhone 3Gは注目度の高さと世界的な在庫不足もあり、一時は日本でも「品薄状態」になった。Appleのファンや、ITリテラシーが高く新しもの好きのイノベーターやアーリーアダプター層がこぞってiPhone 3Gを購入。調査会社の端末販売ランキングでも、これまでの海外メーカー製ケータイと比べて驚異的な販売数をマークした。しかし、9月頃には熱狂的な売れ行きはおさまり「凪」の状態に入っている。着実に売れているが、“勢いは落ちた”のだ。そこから一部のメディアで、「iPhone 3G失速」「戦後処理が必要」といった報道が相次いだ。

 しかし、本当にiPhone 3Gは失速・失敗したと言えるのだろうか。

 まず大前提として、今年の夏商戦は前年比3割減と、端末市場全体が冷え込んでいた。これはメーカーやキャリアを問わずに吹いた「逆風」である。実際、最大手のシャープでさえ2008年度第2四半期の業績予想を下方修正する要因の1つに「携帯電話事業の販売不振」を挙げた。このような携帯電話端末の深刻な販売不況の中で、iPhone 3Gは船出したのだ。

 さらにAppleがとるマーケティング戦略が、2〜3カ月で結果を出すような短期的なモデルではないことも忘れてはならない。日本メーカーの携帯電話は1年で3回のモデルチェンジをする3商戦期制をとるが、Appleの先代iPhoneは約1年のモデルサイクルを取っていた。現行iPhone 3Gも同様に“1年をかけて販売していく”モデルサイクルになるだろう。その中で積極的にファームウェアや周辺サービスを拡張し、“ハードウェアは変えずに、ソフトウェアの連続的な進化で魅力を底上げしていく”。このようにiPhone 3Gのローンチは、長期戦を前提にしているのだ。

 実際、iPhone 3Gが失速したと言われる中でも、「勢いは落ちていますが、着実に売れている。ファームウェアのバージョンアップ後は、少し販売量が増えたりと、売れ方が今までのケータイとはまったく違う」(大手販売会社幹部)という声は多い。

iPhone 3Gは「非連続なイノベーション」

 ここで賢明な読者は、あることに思い至ったかもしれない。

 そう、iPhone 3Gのマーケティング戦略は、「iPodの普及・拡大」の時と同じ手法が用いられている。

 覚えているだろうか。今やデジタル音楽プレーヤーの代名詞となり、世界中を席巻するiPodも、登場直後は一部のユーザーにしか価値や可能性が理解されず、当初はWindowsサポートが脆弱だったこともあり、「MDプレーヤーの時代は崩れない。iPodは一部のAppleマニアしか使わない」と他のオーディオメーカー関係者や多くの一般ユーザーから揶揄された。

 iPodの販売数や成長の推移を振り返ってみると、その様子がよく分かる。2001年に発売された初代iPodは市場でほとんど理解されず、翌年登場した第2世代iPodもWindows版が用意されたものの、販売数で見れば低空飛行で留まっている。筆者もよく覚えているが、当時、iPodの可能性に気づいていたのは、ITリテラシーの高い人か熱烈な音楽ファンであり、一般メディアでの注目度はとても低かった。

 iPodが「離陸」したのは2003年の第4四半期から。その後、順調に高度を上げて、爆発的な普及拡大期に突入したのは2004年第4四半期以降である。今ではマスコミが大々的に取り上げるiPodだが、その歴史を振り返れば、「新たな音楽ライフを創る」ために登場してから成功するまでに約3年の歳月を要したのだ。

Graph 上はワールドワイドでのiPod販売数の推移をグラフにしたもの(Apple公表資料より)。2001年に発売されたiPodは、2003年第4四半期までは「低空飛行」。本格的なヒットは2004年になってからだということが分かる。その後に急激な成長を遂げている
GraphGraph 左は日本市場におけるiPodの販売数の推移、右は日本市場でのポータブルオーディオプレーヤー全体の販売数の推移をグラフにしたもの(2001年の販売台数を100とした場合。アップルストアの実績はのぞく)。こちらも本格的な「離陸」は2004年になってから。しかし、ひとたび離陸したあとは、指数関数的な伸び方をしている
日本市場におけるiPodの成長率とポータブルオーディオプレーヤー市場の成長率
  2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年
Apple 100 444 763 3419 1万6861 2万5826 2万8309
Total 100 91 99 509 3017 3709 3746
※1月〜12月の合算
※それぞれ2001年の販売台数を100とした場合の変化率
※この記事は、調査会社GfK Japan調べによる全国の有力家電量販店のPOSデータを集計したデータを元にしています

 iPodやiPhoneなどは、従来製品とはまったく異なるコンセプトを持ち、ゼロからマーケットを作り上げる。技術進化や商品企画を積み上げる「持続型イノベーション」に対して、その製品が成り立つ市場の在り方そのものを変えてしまう「非連続型イノベーション」だ。こういったプロダクトは、右肩上がりに販売数が増えるという比例的な成長線を描かない。初期にリテラシーが高く限られたユーザー層(理解者と言ってもいい)に浸透した後は、しばらく滑走路を走るような低い成長が続き、一定期間後にふわりと「離陸」してから指数関数的な成長曲線を描く。むろん、離陸できない失敗例も考えられるが、いずれにせよ“市場の反応が得られるのに時間がかかる”のが、非連続型イノベーションの特長だ。

 これは何もApple製品に限った話ではない。日本の携帯電話業界を振り返っても、最初期のiモードはユーザーとメディアにまったく見向きもされず、一大ブームになったのは約10カ月後からだった。また写真付きメールや着うたなども、そのコンセプトが離陸するまで10カ月から1年半程度の時間がかかっている。

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