2008年冬モデルから読み解く、キャリアの携帯戦略――ソフトバンクモバイル編神尾寿のMobile+Views

» 2008年11月06日 19時40分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 KDDIが「au失速」の巻き返しに苦戦する一方で、あいかわらず「攻めの姿勢」なのがソフトバンクモバイルである。携帯電話の端末市場が対前年比で2〜3割も減少する中、合計16モデル(ディズニー・モバイルを含む)を投入。多種多様な端末を用意して、冬商戦に臨む。

Photo ソフトバンクモバイルの冬モデル。上段左から930SC OMNIA、AQUOSケータイ FULLTOUCH 931SH、Touch Diamond X04HT、Touch Pro X05HT、Nokia E71、Nokia N82、下段左から930SH、830P、830CA、fanfun.2 830T、fanfun.petit 831T

 しかし、ソフトバンクモバイルのラインアップを子細に見ると、市場環境の変化と、それによる影響が色濃く出ているのが分かる。

 その顕著な例が、ハイエンドモデルにおけるスマートフォン比率の高さだろう。

ハイエンド市場でスマートフォンの存在感が増す

 同社は今期のフラッグシップとなるハイエンドモデルに、「AQUOSケータイ FULLTOUCH 931SH」(シャープ製)と、「930SC OMNIA」(Samsung電子製)、「Touch Diamond X04HT」(HTC製)、「Touch Pro X05HT」(HTC製)のタッチパネル搭載モデルを取りそろえた。またタッチパネルこそ搭載しないものの、Nokiaの「E71」と「N82」もハイエンド市場をカバーするモデルだ。さらにソフトバンクモバイルが“肝いり”でセールスするAppleの「iPhone 3G」も、新たにワンセグ対応のオプション機器や絵文字対応が発表されて、冬商戦でもラインアップの一角を担う。

 こうして見れば分かるとおり、ソフトバンクモバイルのハイエンド戦略は、“スマートフォン”に軸足を移し始めている。新機軸を多く盛り込み、高価なデバイスを多用するハイエンドモデルは、国内市場だけでコスト回収をするには、複数キャリア展開をし、販売規模も大きい最大手のシャープでさえ難しくなっている。さらにハイエンド市場におけるユーザーニーズの多様化・発展の速さと、新販売モデルによる端末買い換えサイクルの長期化は、本質的に合致しない。

 ソフトバンクモバイルは、ハイエンド市場向けに海外メーカーを中心としたスマートフォンを多く取り入れることで、調達コストや在庫リスクの圧縮と、新販売モデル化でもユーザーニーズの変化に“ソフトウェアやサービスで対応できる体制”を構築しようとしているのだ。

 むろん、現状のスマートフォンが、日本の携帯電話ユーザーのすべてのニーズに1台で応え切れているわけではない。だからこそ、FULLTOUCH 931SHのような日本的なハイエンドモデルが、絞り込まれた形でラインアップの中に用意されている。だが、来年以降は各キャリアともに「2台持ち」をしやすくなるキャリアサービスや料金体系、販売モデルを導入する可能性が高い。ハイエンド市場におけるスマートフォンの拡大は、来年のトレンドの1つになりそうだ。

2009年の「布陣」を先取りしたソフトバンクモバイル

Photo ソフトバンクモバイル 社長の孫正義氏

 一方、販売の主力を担うスタンダードモデルでは、「ロングセラー狙い」が濃厚になった。これもまた市場環境の変化を受けたものだろう。

 すでに発表されていた「NEW PANTONE 830SH」(シャープ製)は言うに及ばず、カシオ参入で何かと話題になった「830CA」(カシオ計算機製)、カメラ機能重視の「930SH」(シャープ製)など、どれも使いやすく必要十分な機能を持った“長く売れそうな”端末だ。おそらくマイナーチェンジなどを経て、2〜3商戦期は第一線を張るモデルになるだろう。

 ハイエンドモデルではスマートフォン比率を高くし、スタンダードモデルはロングセラー狙いに舵を切る――。今回のソフトバンクモバイルのラインアップ構成は投入モデル数の多さから「攻め一辺倒」に見えるが、端末市場の冷え込みに対して、調達コストと在庫リスクを軽減するための腐心が多く見られる。2009年のラインアップ構成を先取りしたような内容だ。

 このような編成になった背景には、ソフトバンクモバイルが流通市場の“空気を読む”ことに長けているという一面は確かにある。しかし、それ以上に大きいのは、コストとリスクをこれ以上は増やせないという、ソフトバンクモバイルの財務事情があるだろう。

 実際、夏商戦以降、多くの業界関係者から「ソフトバンクモバイルの(新端末の)調達条件が、これまでの常識では考えられないほど厳しい」という声を聞く。ソフトバンクモバイルは稼働シェアが小さく、収益が端末売り上げに依存するというビジネスモデルをとっている。だからこそ同社は、端末市場の不振という環境変化に、いち早く“対応せざるを得なかった”のだという見方もできる。

 ソフトバンクモバイルがこの冬商戦をどのように乗り切り、春商戦にどう臨むか。スマートフォンと、ロングセラー狙いのスタンダードモデルをどのように売るのか。これらは2009年の携帯電話ビジネスを見る上で、重要なケーススタディになりそうだ。

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