2008年冬商戦も間近に迫る11月5日、NTTドコモが冬商戦および来春商戦向けの新モデル、計22機種を発表した。詳しくはニュース記事に譲るが、今期のドコモで大きなトピックスは、従来の90xi/70xiというヒエラルキー型のシリーズ構成を廃し、PRIME、STYLE、SMART、PROというセグメント型のラインアップに刷新したことだ。さらにサービス面でも次世代に向けた片鱗が見え始めており、“ドコモの次の一手”が垣間見える内容になっている。
今回はau編、ソフトバンクモバイル編に続いて、新製品発表ラッシュの真打ちともいえる、ドコモの端末ラインアップと戦略について考察する。
周知のとおり、ドコモはiモードが登場した1999年から、高機能・高付加価値な「ハイエンドモデル」と、基本機能重視で廉価な「スタンダードモデル」のヒエラルキー型の2ラインアップを取ってきた。ムーバ時代は50xiシリーズと20xiシリーズ、FOMAの本格普及期以降は90xiシリーズと70xiシリーズという形でヒエラルキーが作られ、この体制が約10年も続いたのだ。
このヒエラルキー型のラインアップは、携帯電話の技術・サービスが右肩上がりに進化し、端末販売も普及拡大が続いていた頃には「分かりやすい」「売りやすい」というメリットがあった。しかし、携帯電話の機能・サービスが成熟し、ユーザーニーズが多様な方向に拡散型の進展をするようになると、“縦方向に区分け”をするヒエラルキー型のラインアップ構成は市場の実態に合わなくなる。さらに従来型のインセンティブ制度が見直され、最大24回の割賦払いシステムを組み込まれた「新販売モデル」においては、ヒエラルキー型のラインアップは、下位グレードの販売不振を招きやすい。これらの背景から、ドコモは90xi/70xiのラインアップ構成を捨てて、セグメント別に4つのシリーズを設定する新たな布陣を敷いたのだ。
新シリーズでは、各モデルをPRIME、STYLE、SMART、PROの4つのシリーズに編成。ターゲットとするセグメント層に合った機能・サービス・デザインを実装するほか、シリーズ内で各モデルの販売価格レンジを広げることで、“シリーズごとのヒエラルキー感が生じないように”腐心されている。90xi/70xiシリーズの時代にあったヒエラルキー感はほとんどない。バリエーションの広がりが感じられるラインアップになっている。
今回の4シリーズ制への移行は、当初は販売現場やユーザーの間に多少の混乱を招くだろう。「X-00X」(メーカー名 - 発売順の通番 年度)という新たな型番ルールはシンボル性に乏しく、かつての90xi/70xiシリーズと比べると、“型番で対応機能・サービスを類推する”のは難しい。PRIME、STYLE、SMART、PROが持つシリーズコンセプトがユーザーに浸透するまでは、「以前より分かりにくい」という批判がでるのは避けられないだろう。
しかし、今回の4シリーズ制への移行は、将来に向けた取り組みとして重要な意味を持つと、筆者は見ている。なぜなら、ハイエンドとスタンダードという「区分け」を取り払ったことで、4シリーズ全体でカバーできる市場やユーザーニーズの範囲が確実に広がるからだ。実際、今回の22機種のシリーズ編成で見ても、新たに創設されたPROシリーズは、スマートフォンの可能性を模索する新ジャンルであるし、スタンダードモデルの領域をSTYLEとSMARTに分けたことは、それぞれのシリーズ内でのバリエーション感や価格差を作ることで両分野の可能性を広げることに貢献している。今期のドコモが、冬商戦/春商戦向けに用意した端末数は2007年冬モデル(905i 10機種、705i 13機種)とほぼ同数だが、そこでカバーできる市場の範囲が確実に広がっているのだ。
4シリーズ制への移行により、ドコモはモデル数を大幅に増やさずに「全方位に布石」が打てる体制を構築する。これは成熟市場に向けたアプローチとして効果的なだけでなく、次世代インフラの需要喚起も含めた「次の10年」に向けた準備が効果的にできるという点でも、重要な意味を持つ。ドコモがブランド化をした「90xi/70xiシリーズ」を捨てて新体制に臨むことは、意義のある英断だと思う。
今期のドコモは、端末ラインアップの刷新だけでなく、サービス面でも未来志向だ。
その中で最も注目されているのが、レコメンド型サービスの「iコンシェル」だろう。これは端末側に常駐し、さまざまなコンテンツ/サービスとの連携とインタフェース役を勤めるプラットフォームだ。ユーザーの属性や利用傾向を分析・学習して最適な情報提供を行うエージェントサービスを目指しており、携帯電話キャリアならではのパーソナライズサービスおよびビジネスの可能性を秘めている。ユーザーに最適な情報を“レコメンド”することで、これまでより幅広い層にコンテンツ/サービスの利用を促す「素地」としても期待である。まだ提供コンテンツ数や、パーソナライズ/レコメンドのクオリティに不満はあるが、しっかりと成長させれば、携帯電話ビジネスの底上げにつながるだろう。
「iウィジェット」は近ごろ流行の携帯電話向けウィジェットサービス。常に起動・常駐するのではなく、専用ボタンですばやく起動するもので、イメージとしてはMac OSの「Dashbordウィジェット」に近い。起動がすばやく、多様なオンライン情報を取得できるだけでなく、iアプリと連携できる。これを応用すると、「おサイフケータイ機能との連携も可能。電子マネー残額確認用ウィジェットや、電子クーポン、(航空機の)電子チケット情報をiウィジェットで確認するといった使い方ができる」(説明員)という。さらにiウィジェット対応端末発売後に仕様が公開されるので、公式コンテンツプロバイダでなくてもさまざまなウィジェットを作成・公開する「勝手 iウィジェットのエコシステムが生まれる可能性もある」(説明員)という。
また、サービス関連で筆者が特に可能性を感じたのが、ドコモが用意する「地図アプリ」向けの新機能「地図トーク」だ。これは最大5人まで同時に互いの場所を確認しながら、メッセージをやり取りできるもの。IM(インスタントメッセンジャー)の要素と、地図サービス、さらに位置情報を組み合わせたものである。今後の地図サービスの活用として、“位置情報の共有”をどのように使うかというのは、コンシューマー市場だけでなく、法人市場向けのサービスとしてもさまざまな可能性がある。ユーザーニーズがどれだけ掘り起こせるかは現時点で不分明だが、地図トークの取り組みは今後に注目したいところだ。
ドコモの冬・春商戦向けラインアップ、そして新サービスを見ると、同社の市場提案力や商品訴求力が着実に向上していることが分かる。FOMAのサービスエリア拡大や、顧客満足度向上への地道な取り組みなども奏功し、今年の冬商戦におけるドコモの魅力や競争力はかなり高いと見る。かつてのライバルであったauはもとより、端末市場緊縮や景況悪化の影響を受けて“息切れ”の可能性が出てきたソフトバンクモバイルに対しても、ドコモは有利なポジションを取れそうだ。
また、2009年を見越しても、端末市場の冷え込みは「新規需要が縮み、全体の市場流動性が低くなれば、(機種変更需要の)母数の大きいドコモについた方が有利」(メーカー幹部)という流れになりやすい。5日の新商品・新サービス発表後、筆者は複数の携帯電話販売会社幹部と意見交換をしたが、その席でも「2009年はドコモの時代になりそうだ」という声が相次いだ。
端末ラインアップ構成を刷新し、端末・サービスの両方で着実に「将来の布石」を打つドコモ。直近のTCAの発表数値を見ても、ドコモの競争力は確実にかつての勢いを取り戻している。
"ひとり負けから"、再び"携帯電話市場の牽引役"に。
今年の冬商戦と春商戦の情勢によっては、ドコモが2009年以降の「主導権を握る」シナリオが考えられそうだ。
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