PCからモバイルへ 時代の変化を象徴する2013年のCESプレキーノート2013 International CES

» 2013年01月09日 21時16分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]
photo 10年以上にわたりMicrosoft関係者が占めてきたCESのプレキーノートの場において、初めて同社以外でプレゼンターとなったQualcommのポール・ジェイコブス氏

 すでにその兆候は少し前からあったのだが、CESが大きな変革の時期に入ったことを象徴するのが、今年のプレキーノートだった。CES開催前日の晩に行われるプレキーノートだが、今年はその登壇者が、10年以上に渡って占められていたMicrosoft関係者ではなく、昨今のスマートフォンブームの立役者ともいえるQualcomm CEOのポール・ジェイコブス(Paul Jacobs)氏だったのだ。

 PCの雄であるMicrosoftだが、同社は2012年を最後にCESからの撤退を表明し、プレキーノートでの登壇ならびに展示会場から姿を消した。振り返ってみると、同社によるプレキーノートは、1999年のCESで当時のCEOだったビル・ゲイツ(Bill Gates)氏が登壇したのをきっかけにスタートし、同氏が2008年に引退を表明するまでCESの顔として注目されてきた。その翌年からは、新たにCEOに就任したスティーブ・バルマー(Steve Ballmer)氏がプレキーノートの顔となり、昨年2012年の完全撤退まで、実に10年以上にわたってMicrosoftのプレキーノートは続いてきた。

 そして2012年。Microsoftが撤退したこの時期は多くのPC系ベンダーがCESへの出展を取り止めており、CESにおけるPCのプレゼンス低下を印象づけた。一方で急速に盛り上がってきたのが昨今のスマートフォンやタブレットに代表されるモバイル業界の興隆。そのモバイル分野における通信技術ならびに主力プロセッサベンダーの1社であるQualcommが今回、プレキーノートの“顔”となったことは、トレンドの変化と今後の家電業界を占う試金石となるだろう。

Qualcommキーノートに見慣れた“あの”人物が登場

 Microsoftが家電業界の最前線を走っていた10年前と大きく異なる点の1つに、インターネットの浸透がある。多くの一般ユーザーがごく自然にネットワークサービスに触れ、モバイル機器を使って「いつでも」「どこでも」これらのサービスを利用しているのだ。テクノロジーの進化にただ驚くばかりだが、2000年より前の時代に、多くの人々が道や電車の中で携帯端末を手ににらめっこをしている風景を想像できただろうか?

 ジェイコブス氏はこうした現象や人々を「Born Mobile」と表現し、モバイルネイティブな世界が広がりつつあることを強調する。モバイルテクノロジーが発達していなかった過去の世界を知らない世代も増えつつあり、そうした中でモバイルインフラを支えるのがQualcommだというのだ。

 昨今の高速携帯ネットワークの基幹技術であるCDMA関連の基本特許を持ち、一昔前はあくまでベースバンドチップの主力ベンダーの1社としての印象が強かったQualcommだが、最近ではスマートフォンとタブレットブームに乗る形でSoC「Snapdragon」シリーズがヒット。一躍半導体メーカーの主力ベンダーへと踊り出た。IHS iSuppliの最新の調査によれば、同社は半導体市場の金額シェアでIntelとSamsungに続く業界3位へと急伸しており、Strategy Analyticsの調査ではベースバンドチップでの同社の業界シェアは約半分を占めるという。これは昨今のトレンドをダイレクトに反映したものといえるだろう。SamsungもまたNANDフラッシュやメモリ、AppleのAxシリーズといった半導体事業の好調を受けての業界2位であり、こちらもまたトレンドを反映している。

 モバイル業界の興隆は、PCライクな機能を持つデバイスを広く身近なものにした。さらに端末のスペックアップにより、1台あれば多くのユーザーにとって必要十分な作業をどこでもこなせるようになった。そしてモバイル端末の性能向上はPC世界にも変化をもたらしている。例えばMicrosoftが開発したOS「Windows RT」は、携帯電話でよく用いられているARMプロセッサをサポートし、PCとほぼ同等の役割をこなしてしまう。QualcommはこのWindows RT向けプロセッサの提供ベンダーの1社であり、実際にSamsungのWindows RT搭載タブレット端末「ATIV Tab」はSnapdragonを採用している。

 プレキーノートでジェイコブス氏は、同社の主力パートナーとしてMicrosoftの名を挙げるとともに、ステージ上にバルマー氏を招待。その関係を強くアピールした。結果として、わずか1年でCESのプレキーノートのステージへと戻ってきたバルマー氏だが、Microsoft製品を前面プッシュするその姿勢は変わらず、Office製品をプリインストールして長時間利用にも耐えるWindows RT、そして最新のWindows Phone 8のメリットを紹介した。Microsoftは過去の存在ではなく、最新トレンドを取り込みつつ変わらず製品を市場投入していく現役のトップランナーであることを示すのが狙いだろう。


photophoto 本当にMicrosoftはいなくなったんだ……と思いきや、彼は戻ってきた。ジェイコブス氏が有力パートナーの1社としてMicrosoftの名を挙げると、バルマー氏は“雄叫び”を上げつつステージに登場し、Windows RTにWindows Phone 8と、ARMプロセッサを搭載した新製品群を次々と紹介。同氏は右手にNokiaのLumia 920、左手にHTC 8Xを持ち、現時点でQualcommのSnapdragonのみをサポートするWindows Phone 8を大々的にアピールした

新型Snapdragonで4K対応と強力なパフォーマンスをアピール

photo 新製品「Snapdragon 800」を発表。CPUとGPUの両コアがともに大幅強化されているほか、クァッドコアCPUのクロック周波数は最大2.3GHzまで引き上げ可能だという。さらにチップセットではLTE Advancedのほか、Wi-Fiの新規格であるIEEE 802.11acも標準サポート

 今回のプレキーノートで発表された新トピックの1つが「Snapdragon 800/600」シリーズの発表だ。2013年後半をターゲットにしたSnapdragon 800/600は、おそらく同時期に投入されるNVIDIAのTegra 4のほか、「A7」などの名称が予想されるAppleの新プロセッサに対抗する製品となる。Snapdragon 800はハイエンドスマートフォンやPC/タブレット用途などを想定しており、Krait 400ベースのクアッドコアCPUで最大クロック周波数が2.3GHz。従来のSnapdragon S4 Proから75%ほどの性能向上が見込まれるという。非同期SMPサポートによるCPUコアごとの消費電力制御や、最新の28ナノメートルHPmプロセスによるチップ製造など、ハイパフォーマンスと省電力を両立している点をアピールしている。

 だがおそらくSnapdragon 800で最もポイントとして挙げるべきなのがGPU性能で、同シリーズに搭載されるAdreno 330は従来のAdreno 320と比較して2倍のパフォーマンス向上を実現しているという。ジェイコブス氏のステージ上ではグラフィックの動作デモが中心に紹介され、大量のポリゴンと頂点情報を含んだオブジェクト(ドラゴン)を動かしたり、特殊効果を組み合わせても、問題なくアニメーションが動く点がアピールされた。また北米ではUHD(Ultra HD)と呼ばれる「4K」動画の表示もサポートしている点がメリットとして挙げられる。壇上には「パンズ・ラビリンス(Pan's Labyrinth)」や「ヘルボーイ(Hellboy)」のディレクターや特殊クリーチャー技術で知られる映画監督のギレルモ・デル・トロ(Guillermo del Toro)氏が招待され、4Kとクリーチャーを組み合わせた動画デモのほか、2013年夏に公開される3D映画「Pacific Rim」のトレーラーなどが上映された。


photophotophoto GPU強化が1つのポイントになると思われるSnapdragon 800は、ポリゴンアニメーションも従来のものに比べてより複雑で美麗なものをスムーズに動作させることが可能だという。ドラゴンのオブジェクトに加え、口から吐き出す炎には大量の頂点情報やエフェクトが発生していたが動きはスムーズ。さらにアングルを変更すると水面の反射もきちんと処理されていることが分かる

 このほかSnapdragon 800の特徴として、ハイエンドPCクラスのI/O機能に対応している点もある。最大150Mbpsの通信速度をサポートするLTE Advancedへの対応のほか、フルHD動画のストリーミングも可能なWi-Fi新規格のIEEE 802.11acのサポート、USB 3.0/Bluetooth/FMのチップセットへの統合などがそうだ。


photophoto モバイルプロセッサで4Kをサポート。これは端末上のディスプレイでのアニメーションや動画再生だけでなく、外部ディスプレイへの出力などでも効果を発揮する(写真=左)。ジェイコブス氏はステージに、4Kや3Dなど次世代コンテンツ制作に携わる著名人として映画監督のギレルモ・デル・トロ氏を招待し、4Kムービーのサンプルや2013年夏公開予定の新作「Pacific Rim」のトレーラーなどを紹介した

 Snapdragon 600はハイエンドスマートフォンをターゲットにした製品で、こちらもKrait 300をベースにCPUコアが強化されているなど、現行製品のスペックをもう一段ほど向上させることが可能だ。今年の後半から来年初頭にかけてスマートフォン/タブレットの購入を検討しているユーザーは、搭載モデルを楽しみにしているといいかもしれない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2026年07月14日 更新
  1. 誤爆で「ワインが20本も届いちゃう」 押せば注文できる“Amazon Dash Button ”とは何だったのか (2026年07月11日)
  2. スマホをタッチせずに改札もレジも通過 日本で広がる「UWBタッチレス決済」最前線 (2026年07月10日)
  3. ポケモンGOからNianticのロゴが消える 起動画面に「SCOPELY EXPLORE」、10周年の節目に (2026年07月12日)
  4. その使い方、発火リスクあります──モバイルバッテリーで真夏にやってはいけないこと INFORICHが啓発 (2026年07月13日)
  5. JR東日本「分かりにくい」新幹線券売機を改善へ なぜ、スマホではなく「駅での最短1分購入」を実現? (2026年07月04日)
  6. スペックが同じに見えるNothingの「Phone (4a)」と「Phone (4a) Pro」のカメラ 撮り比べて分かった“意外な違い” (2026年07月13日)
  7. スマホは本当に会話を「盗聴」して広告を出しているのか? 専門調査と最新事例から考える (2026年07月13日)
  8. ヨドバシカメラがまた“百貨店に進出” 池袋の次は“旧名鉄百貨店跡地”に、駅直結一等地 (2026年07月11日)
  9. 「060」携帯電話番号の提供延期の原因は? 林総務大臣が改めて説明 (2026年07月10日)
  10. ドコモFGが仕掛ける「グループ連携」と「金融AI構想」 通信との融合でKDDIやソフトバンクに追い付けるか (2026年07月11日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー