「4年縛りは廃止すべき」「MVNOにはeSIMや5Gの開放を」 総務省の有識者会議で挙がった問題点(1/2 ページ)

» 2018年10月22日 11時48分 公開
[佐野正弘ITmedia]

 総務省は2018年10月18日に「モバイル市場の競争環境に関する研究会」の第2回会合を実施した。

 この研究会は、携帯電話事業者(キャリア)の公正な競争を促進し、多様なサービスが低廉な料金で利用できる環境整備を検討する有識者会議。具体的には、2015年の「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」や、2018年初頭に実施された「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」など、これまでの総務省の有識者会議で議論がなされたものの完全な解決に至っていない問題に関して、議論がなされるとみられている。

モバイル市場の競争環境に関する研究会 総務省が実施した「モバイル市場の競争環境に関する研究会」の第2回会合。携帯電話事業者の競争環境改善と料金低廉化実現に向けたヒアリングと議論が進められた

 既に2018年10月10日に第1回の会合が実施されており、有識者らからのヒアリングと議論を実施。具体的には、MVNOがキャリアからネットワークを借りる際に支払う接続料の算定方式の見直しや、いわゆる“縛り”によって高まっているスイッチングコストの低減、利用者の実態に合った料金プランの在り方、端末購入補助の適正化などがテーマとして挙がった。

2年縛りやSIMロックは「役割が終わった商習慣」

 第2回となる今回は有識者の他、消費者団体の代表と、MVNOの代表に対するヒアリングが実施された。最初にヒアリングを実施したのは、モルガン・スタンレーMUFG証券のエグゼクティブディレクターである津坂徹郎氏。通信アナリストとしての立場から日本の携帯電話市場の競争環境に関する問題について説明した。

 津坂氏は最近、日本の携帯電話会社がもうけすぎているのではないかという指摘が多くあることに対して、「グローバルのほぼ全てのキャリアと比べても、日本のキャリアが過剰な利益を得ているわけではない」と話す。その一方で、競争が活性化していない要因として「役割が終わった商習慣が残ってしまっている」こと、具体的には2年縛りなどの期間拘束のある料金プランと、SIMロックの存在を挙げている。

モバイル市場の競争環境に関する研究会 日本のキャリアが、海外と比べて過剰に利益を得ているという事実はない。モルガン・スタンレーMUFG証券作成の資料より

 これらは携帯電話の普及期に、高性能の端末を安く提供して普及させ、加入者を増やすという意味で必要なものだったという。だが市場が成熟期に入り、ほとんどの人が端末を割賦で購入している現状、契約期間を縛ったり、端末にSIMロックをかけたりすること自体「あまり意味がなく、必要がないことだ」と津坂氏は切り捨てる。

 もう1つ、津坂氏が問題点として掲げるのが端末販売であり、その1つの例として「実質価格」の存在を挙げる。実質価格はあくまで2年間契約し、料金を支払った場合の価格であり、途中で解約すると値引きが適用されなくなるのだが、「“実質”という言葉が非常に強いキャンペーンワードとなり、消費者に刺さっている」と、問題点を指摘する。

 最近では通信料金と端末代金を分離した「分離プラン」の導入が進んでいるが、その導入に際してキャリアが用意した、4年間の割賦を契約する代わりに2年経過後に端末を買い替えると残債の支払いが不要になる端末購入プログラム(“4年縛り”などとも呼ばれる)に関しても問題点を指摘。「(端末価格が)実質半額になるとはいえ、端末は取り上げられる。そのリセールバリューが50%以上だとした場合、端末が取り上げられる上にプログラムフィーもかかり、消費者は実質100%以上の料金を負担することになる」と、あくまでキャリア側が有利な内容になっているという。

消費者団体は期間拘束や4年縛りの廃止を要求

 続いて消費者の代表として、全国地域婦人団体連絡協議会 事務局長の長田三紀氏と、全国消費生活相談員協会 IT研究会代表の西村真由美氏が意見を述べた。

 長田氏は携帯電話料金に関して、「(キャリアは)会合のたびにさまざまな対応をしているが、その結果継ぎ足しのようにプランが増え、複雑になった。抜本的に見直してシンプルに分かりやすい料金にするべき」と話す。そして料金を見直す上で、端末代と通信料を完全に分離すること、特定のプランでないと適用できない割引やサービスの組み合わせをなくすこと、そして選択するプランによって通信料に差が出ないことなど、料金を複雑にしている要素を徹底して排除することを求めた。

モバイル市場の競争環境に関する研究会 全国地域婦人団体連絡協議会の長田氏

 特に長田氏が問題視していたのが、期間拘束のあるプランと“4年縛り”について。前者に関しては現状、期間拘束のない料金プランの価格が相当高く設定されており、店頭でも「このプランの契約者はほとんどいない」と説明される場合があることから、「まるで二重価格ではないか」と長田氏は厳しく指摘。一方の4年縛りに関しても、機種変更を条件とすること自体が消費者の通信契約継続につながることから、「機種変更を条件にすること自体をやめるべき」とし、双方共に直ちに廃止すべきとの見解を示した。

モバイル市場の競争環境に関する研究会 全国地域婦人団体連絡協議会が指摘する、4年縛りの問題点

 西村氏は、第1回の会合に参加した慶應義塾大学特任准教授の黒坂達也氏が、「消費者が必ずしも携帯電話料金が高いと感じていないのではないか」と指摘をしたことを受け、サービスに満足している人と不満を抱いている人、それぞれの動向についてヒアリングを実施したとのこと。現状に満足している人の中には、自ら適切なサービスを選ぶ知識を持ち合わせている人がいる一方で、「使わないタブレットを契約しているが、問題だと思っていない」など、不満を無理に納得しようとしている人もいたとのことだ。

 一方で現状の料金に不満を抱いているが、料金を見直すなど“壁”を乗り越えられない人は、期間拘束プランによる縛りがあるためプランやキャリアをすぐ変えられない、自分のニーズに合ったプランがキャリアに適切な料金プランがないことなどが問題点として挙げられた。またMVNOへの移行に不満があるという人の場合、若い世代からは「最新の端末が購入できないこと」、高齢者からは「データの移行や設定などが自分でできず面倒」などの声が挙がったという。

 そうした結果を受け西村氏は、端末の値引きではなく通信料金を引き下げること、期間拘束をなくすこと、各社独自のプランを用意すること、通信料金と端末代の分離を徹底すること、そしてMVNOに対して消費者が抱いている誤解を解くことなどを求めている。

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