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» 2010年03月11日 20時43分 UPDATE

「インタフェースとしての初音ミク」と、ニコ動“祭り”の進化論

初音ミクの“N次創作”にまつわる著作権問題や、ブームを支えたニコニコ動画の“祭り”について、情報処理学会でキーパーソンが議論した。

[岡田有花,ITmedia]
画像 700席の会場がほぼ満席に

 2007年8月31日の「初音ミク」発売から2年半あまり。ミクの“N次創作”は脈々と続いている。創作のサイクルを支えるのは、発表の場としての「ニコニコ動画」の人気や、「ピアプロ」など共有を前提としたコンテンツプラットフォーム、日本独特のIT・オタク文化だ。

 3月10日、東京大学で開かれた情報処理学会に、ミクやニコ動のキーパーソンが集まり、人気の背景や、N次創作に関わる著作権問題への取り組み、世界展開の可能性などについて語った。

インタフェースとしての初音ミク

画像 伊藤さん

 初音ミクはキャラクターでありながら、創作者誰もが使える「インタフェース」であり、著作権法の概念とは矛盾すると、クリプトン・フューチャー・メディア社長の伊藤博之さんは話す。

 著作物は、作られたその時から著作権法で保護され、一部を除いては無断で利用できない。だがそれを、誰もが使える「インタフェース」として提供しようと考えると矛盾が噴出。「どう整合するかという難問に直面してきた」(伊藤さん)

 解決策として編み出したのが、2次創作を前提にしたコンテンツ置き場「ピアプロ」や、一定のルールのもと、キャラクターの2次創作を認める「ピアプロ・キャラクター・ライセンス」、有償の同人活動でもキャラの利用を許諾する「ピアプロリンク」だ。

 こういったルール整備により、ミクなど同社が管理するキャラについては、2次創作、3次創作……N次創作作品を、著作権法上問題のない形で発表できるようになっているという。

ミク動画も盛り上げた、ニコ動“祭り”の構造

画像 戀塚さん

 ミクの創作が盛り上がったのは、ニコ動があってこそだ。ニコ動開発総指揮の戀塚昭彦さんは、ニコ動と「ニコニコ生放送」など周辺サービスを、「時系列を持つコンテンツにコメントを同期再生することで、祭りに参加できるWebサービス群」と定義する。

 ニコ動の祭りは、当初はコメントで起きていた。いわゆる「弾幕」や、“職人”による「コメントアート」がその例だ。ユーザー各自はまったく違う時間帯に動画を見、ばらばらにコメントを書いているが、まるで同じ時間を共有しているかのように見え、盛り上がる。「擬似同期型」のアーキテクチャだと、日本技芸リサーチャーの濱野智史さんは指摘する(なぜ「ニコ動」は盛り上がり、「Second Life」は過疎化するのか)。

 タグ機能導入に伴い、タグも祭りの場となった。一般的にはタグは、ユーザーが1人で編集し、個数制限なしで付けられるのものだが、「ニコ動のタグは特異」(濱野さん)。1動画につき10個までという制限がある上、動画投稿者以外のユーザーも編集できるため「タグ戦争」と呼ばれる、タグのネタ合戦や淘汰が起き、ムーブメントの形成や動画のコミュニティー作りに貢献した(「ニコニコ動画≒ゲーム」説 “ネタ勝負”でレベルを上げろ)。

 ミク関連では、「初音ミクが来ない?来た?」が例の1つ。ミクが発売日に届かなかったユーザーがその思いをうたった曲を投稿したところ、ほかのユーザーが同じタグで、発売日に手に入れたことを伝える楽曲を投稿。呼応してほかのユーザーも、「届いた」「届かない」という曲を投稿し、まとめ動画ができるなど盛り上がった。ミク以外でも「ニコニコ技術部」「先生、何やってんすかシリーズ」など多様なタグが、さまざまな動画をつなげ、ムーブメントを生んだ。

 今後は「未来のネタを祭りにしたい」と戀塚さんは話す。ニコ動が疑似同期の仕組みによって過去を現在に引き寄せて祭り化し、ニコ生で現在をネタにした祭りが可能になっている。「データ分析に基づく未来予測や、予定を立てて人と人とを引き合わせるといった調整なども、祭りに引き寄せられたら」(戀塚さん)

ミク・ニコ動は海外でもイケるのか?

画像 濱野さん

 ミクやニコ動が盛り上がった背景には、ネットや創作のためのツールが一般に普及し、生産する消費者「プロシューマー」が増えたという「時代的必然」に加え、脈々と続いてきたオタク文化という日本の特殊事情があると濱野さんは解説。ミクやニコ動が「海外でも受け入れられるか興味がある」と話す。

 VOCALOIDは英語版もあるが、海外展開はまだまだ難しいようだ。「海外では、ギターとドラムとボーカルの音楽が主流でコンピュータミュージックは少なく、外国の方大多数にダイレクトに受け入れられるのは難しいのでは」(剣持さん)。伊藤さんも「ケーブル1本で音が変わると考えるプロにとって、良さが分かりづらい」と、プロ向けを視野に入れた海外展開には厳しい見方だ。

画像 剣持さん

 ただ、海外でも若い世代には「面白い」と受け入れる人もいるという。「コンテンツはガラパゴスで結構。日本で純度を高めていって海外に認めてもらい、日本で起きていることを知ってもらう努力をしていきたい」(剣持さん)

 ニコ動を日本語以外の言語に広げるにも、課題があるという。画面上に表示する文字数などを日本語に最適化しているため、「一目で読み取れる情報量が得られる画面の面積など工夫が必要になる」(戀塚さん)

 加えて、国内サービスだけでも「かつかつのインフラでやっている」上、海外の動画サイトはYouTubeが席巻しているため、海外版を出してユーザーを拡大するのも難しそうだと戀塚さんはみる。

クリエイターへの還元は「解けない問題かもしれない」

 ミク作品のクリエイターへの還元の方法も難しい課題だ。ニコ動ではお金を払いたいほどすばらしい作品に対して「振り込めない詐欺」というタグが付くこともあるが、実際に支払う仕組みは整備されていない。ピアプロも、創作者にテキストなどで感謝を伝える仕組みはあるが、お金を支払うことはできない。

 伊藤さんはこの種の問題は「芸術論では昔からある」と指摘する。「お金だけがリスペクトのバロメーターなのか。芸術家はお金を取るといやらしいから寄付を募るといったことは昔からある。解けない問題なのかもしれないということを意識しながら考えたほうがいいだろう。どう違和感なくルールが作るか、頭を悩ませている」

CGMはスポーツや料理のように

画像 後藤さん

 「CGMを、スポーツや料理のように誰もが楽しめるようになっていってほしい」――「VocaListener」(ぼかりす)の開発に関わった、産業技術総合研究所の後藤真孝さんは思いを語る。

 「スポーツや料理はプロの世界と両立する。素人の参加者が増えても、プロが自分たちの領分が侵されたとは思わず、すそ野が広がって関心が高まることを喜ぶ。既存のコンテンツ産業の方々にもムーブメントを応援してもらい、みんなですそ野を広げていきたい」

 「歌や踊りはみんな、子どものころは楽しんでいるが、いつしか躊躇(ちゅうちょ)し始める。創作をもっと楽んだり、簡単にできるような技術開発や革新が必要で、コンテンツ学会としても研究していきたい」

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