「テレビの向こうに同級生がおる!」――児童はわずか数人、山間地域の小学校で「遠隔教育」が実現したわけ

» 2018年08月13日 10時00分 公開
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 少子化により、日本全国の小中学校のクラス数は年々減少傾向にある。地方の山間部などではそれに過疎化が加わり、輪をかけて難しい状況が生まれている。「極小規模校」という存在もその1つだ。

 極小規模校とは、極端に児童が少なく、複式学級(2つの学年で1クラスを編成)式などを採用せざるを得ない学校のこと。通常、児童数が減少した学校は統廃合が行われる。しかし、学校間が遠すぎたり、山間部のため離れた場所への通学が難しかったりと、児童が10人以下であっても統廃合できないことがある。そんな学校が極小規模校になるのだ。

 清流・吉田川が市内を流れ、古い町並みが美しく、夏には三十一夜にわたって郡上おどりが繰り広げられる岐阜県郡上市。ここでも22の小学校のうち3つが極小規模校だ。

photo 郡上市の風景

 「授業を一緒に受けられる同級生がいない。そんな状況をなんとかできないかと、模索を続けてきました」――郡上市教育委員会学校教育課の國居正幸課長はこう振り返る。道徳の授業や総合的な学習の時間など、同級生がいなければ難しい授業もある。そんな課題を乗り越えるべく、郡上市は今までにない手法に注目した。都市部の先進的な学校でもまだ珍しい「ITを活用した合同での遠隔教育」だ。

同級生がいない「極小規模校」ならではの課題とは

 國居さんは最近まで、郡上市立石徹白(いとしろ)小学校の校長として教育現場に立っていた。石徹白小学校に赴任した2015年当時の児童数は7人。離任するときには4人に減っていたという。

 児童数が4人ということは当然、児童が1人もいない学年が存在する。つまり複式学級どころか“飛び複式”(学年を1つ以上空けて2つの学年を1クラスに編成する学級方式)になってしまう。そうすると、児童が会話する相手も、担任の先生か、全く違うことを勉強している歳の離れたクラスメイトしかいない。このことが、ある課題を招いていた。

photo 郡上市教育委員会学校教育課の國居正幸課長

 「子どもが自分の考えを伝えようとするとき、それがどんなにつたない言葉や表現であっても、大人であればくみ取れます。子ども同士の場合も、みんなが幼なじみのため、言ってみれば“ツーカーの仲”。全部言わなくても、言いたいことが伝わります。そうすると、コミュニケーション力が不足してくる。同じくらいの年齢の他者に対し、自分の思いを上手に伝えることができない、苦手になる、という問題が生じてくるんです」(國居さん)

 こうした課題を解消すべく、市内にある別の小学校と姉妹校ネットワークを築き、同学年の児童同士で交流してきたという。だが、それでも課題は解決しなかった。「十数人いる向こうの学級に、石徹白小学校から1人が混ざる。すると、来たばかりの転校生のような、お客さまのような、そんな扱いになってしまうんですよね」と國居さん。「そのため、年に3回共同授業を行っても、対等な会話ができない状況だったんです」

 子どもたちが対等に会話できる同級生がいない。郡上市教育委員会では、この課題に早急に取り組む必要があった。そこで目につけたのが遠隔コミュニケーションツールだ。

いざWeb会議ツール導入……そこでぶち当たった“壁”

 他の極小規模校とITを使ってつなぎ、同学年同士のコミュニケーションを取れるようにする――石徹白小学校がそんな案に着手したのは2015年のこと。IT推進校となり、まずはタブレットと大型モニターを導入した。授業の様子をタブレットで録画して児童の家族に見てもらったり、他校の児童とWeb会議ツールで意見交換できるようにしたりするためだ。

 録画に関してはうまくいったが、問題はWeb会議ツールでの接続だった。教職員の多くはITに詳しくない。初年度はITに詳しい人がいたため辛うじて使用できたが、翌年は接続に手間取った。石徹白小学校の教職員はわずか4人。ただでさえ時間が足りないのに、その準備に数時間を費やさねばならなかった。

 別の問題も見つかった。郡上市内には光回線が敷設されているが、学校内のプロキシサーバがネックになり、回線速度が思うように出なかったのだ。そのため、長い時間をかけて準備し、ようやくつながったと思っても途中で切断されてしまうなどトラブルが続出。画像の乱れも発生していた。

 何かもっとよいシステムはないものか――そう考えていたときに、國居さんが出合ったのが「V-CUBE Box」だった。

「テレビの向こうに同級生がおる!」

 V-CUBE Boxは、簡単にテレビ会議ができる会議室設置型のシステム。複雑なPC操作の必要はなく、専用のシンプルなリモコンを操作するだけで離れた場所とつなぐことができる。ITに詳しくなくても、誰でも扱えるのが売りだ。

 総務省の補助を得て、郡上市内の小中学校30校と教育委員会にブイキューブの遠隔会議システムを導入。そのうち、比較的規模の大きい小中学校にはWeb会議サービス「V-CUBE ミーティング」を導入し、PC経由で接続するように。極小規模校の石徹白小学校や小川小学校、西和良小学校など5校と郡上市教育委員会にはV-CUBE Boxを導入し、リモコンだけで接続できるようにした。

 導入後、教室はにぎやかになった。「『テレビの向こうに同級生がおる!』と大はしゃぎでした」と國居さん。「簡単に接続でき、映像品質が高いことが大きかったです。これまで姉妹校に実際におじゃましたときや、別のサービスでつなげたときとは全く違う反応でした」と振り返る。

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photo 石徹白小学校(写真上)と西和良小学校(写真下)をつないだ道徳の授業の様子

 特に活躍したのが、道徳の授業、特別活動、総合的な学習の時間など、同級生との意見交換や交流が必要な場面だ。「それぞれの地域には、その地元だけに伝わる伝統的な文化があります。調べたことを、披露する、自分の学校自慢をする。このシステムで他校とやりとりできるようになってから、学習へのモチベーションが格段に上がりました」(國居さん)

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 教職員たちが課題視していた、児童たちのコミュニケーション能力にも大きな変化があったという。

 校内で接点がなかった同い年の人、しかも、別の地域で生まれ育った人であれば、これまでのようにツーカーでは通じない。「『先生、どういうふうに言えば、これ伝わるかなぁ?』と相談してくるんです。自分で調べた情報を発信したい、伝えたいという思いが強くなり、コミュニケーション能力がどんどん培われていきました」(國居さん)

 総合学習や理科の実験、国語の時間の読書感想など、交流の時間が増えれば増えるほど、距離を超えて“同級生”のつながりは強くなっていった。

 「私が学校にいたときには、昼休みも他校とテレビ会議でつなげていました。そうすると子どもたちが画面の前に集まって、テレビの向こうの同級生たちと会話しているんです。同学年でないとできないような話もしていましたね」

 「極小規模校同士、同級生がほしいという思いがマッチしたんでしょう。水を得た魚のように大喜びで意見交換をするんです。このシステムを取り入れて本当によかったなぁと感じました」(國居さん)

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教職員の課題も解消 将来は学習カリキュラムも“テレビ会議仕様”に?

 極小規模校ならではの課題は、子ども同士のコミュニケーションだけではない。人数が少なく、業務の多い教職員たちもまた、仕事上の悩みを抱えていたという。

 例えば石徹白小学校の教職員は担任が2人、校長が1人、養護教諭が1人の計4人。しかしどの学校でも、他校での打ち合わせや研修は月に1度以上ある。子どもたちを教え、学校生活を見守り、授業の準備をし、そのうえ長距離を移動する――教職員が疲弊する前に、緊急に解決しなければならない課題だった。

 「学校に配属されている教職員は、都市部と異なりとても少人数です。一人ひとりの役割がとても大きいので、長時間学校を空けるのはリスクがありました」と、かつて市内の中学校に赴任していた村土尚さん(郡上市教育委員会学校教育課 主査)は話す。「他の学校との距離があり、移動に1時間以上かかるため、会議や研修に行くのがしんどかった」と振り返る。

 そんな状況も、小中学校へのV-CUBE導入で変わったという。

photo 郡上市教育委員会学校教育課の村土尚主査

 「移動しなくても、それぞれ自分の学校にいながら会議や研修ができる。学校業務が終わってから、時間をかけて移動して会議をし、また時間をかけて帰ってくることがなくなり、負担がかなり減りました」(村土さん)

 今年に入ってからも、V-CUBEを導入している全30校の合同会議をテレビ会議で無事に行えたという。今後は市外の学校の教職員との合同研修なども、テレビ会議を使って行う予定だ。

 さらに、会議や研修などの通常時以外にもテレビ会議システムが役立つケースがあるかもしれないと、國居さんたちは考えている。

 「冬になると、郡上市内の山間部はかなり雪が積もります。地理的に小学校はまだしも、中学校への通学が難しくなることもあるかもしれません」と國居さん。「でも、テレビ会議システムがあれば、中学校で行われている授業を、近場の小学校から受けることができるでしょう」

 将来は、市内での合同授業をさらに増やしていく考えだ。「そのためには、学校ごとに授業の進度を合わせないといけませんし、カリキュラムももっと練らないといけません。やるべきことはまだまだ多いです」と國居さん。郡上市の教育環境は、課題を1つ1つ乗り越えながら、さらに子どもたちにとって価値あるものへと進化を続けている。

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提供:株式会社ブイキューブ
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2018年9月18日

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