働く人々のライフステージや事情に合わせ、いつでもどこでも効率的に仕事できるようにする。そんな「働き方改革」に取り組もうとしている企業は数多い。だが、思うように進んでいないケースが多数を占めるようだ。
ITmedia NEWSの読者調査によると「勤務先の働き方に満足していない」と答えた人は58%に上る。課題は「オフィス外で働けない・働きづらい」(56%)、「残業が多い」、(50%)「メンバー間で情報共有しにくい」(44%)などが挙がった。他方で、人事部側も課題を抱えているようだ。日本企業の人事担当者向けに行われたあるアンケートによると、テレワークの導入が難しい理由のトップ2に「テレワーク社員の時間管理」「テレワーク時の業務ルールの設定」が挙げられている。
一方で、そうした悩みをすでに解決している企業もある。「テレワークの導入・浸透に向けて課題があるのは確かですが、乗り越えることはできます」――こう話すのは、Web会議、テレビ会議などのビジュアルコミュニケーションサービスを提供するブイキューブで人事部門マネジャーを勤めている今村亮さんだ。
同社が本格的にテレワークなどの働き方改革に取り組み始めたのは2010年のこと。まずルールを定めることで浸透は進んだものの、あるときまでは一部社員の利用にとどまっていた。その状況を変えたのが、2017年に策定した「ORANGE」(オレンジ)と呼ぶ新しいワークスタイルにあるという。
多くの日本企業が抱える課題は、どのように解決していけるのか。いまや社員の約8割がテレワークを実践しているという同社の取り組みから、働き方改革への“正しいアプローチ”を考えてみたい。
「当社が働き方改革としてテレワークに着手したのは2010年です。その年にテレワーク規定をつくりました」(今村さん)
当初のテレワーク規定はいたってシンプルなものだった。「オフィスで働くことがベースにあったので、ルールも『週に1回程度、家で仕事してもいいよ』という程度。あとは『テレワーク中も出社しているような応答、対応、業務をする』といった服務規律で運用していました」と今村さんは振り返る。
だが、社員の年齢が上がるにつれ、ライフステージも変わる。配偶者の転勤、出産、親の介護などさまざまな理由で「週に1回」のテレワークでは足りなくなり、そのたびに“例外扱い”として対応してきた。そのため、テレワーク規程の見直しが必要だと感じていたという。
規定の見直しが迫られたのには別の理由もある。それは、テレワーク制度の利用者が、全体の3割程度にとどまっていたことだ。
「在宅勤務をしている人は『心苦しい』と感じていたようです。会社からは認められていても、(例外的に在宅勤務している自分に対して)不公平に感じる人がいるんじゃないか、と」(今村さん)
こうして2017年4月、社内横断的な「働き方改革推進プロジェクト」が、社内のさまざまな部署から集まったメンバーによって発足した。
目指したのは、テレワークの活用で「いつでも、どこでも、自分らしく」「自己実現を目指せる働き方」だ。新しい規程では、テレワークの回数と場所の無制限にし、利用対象を全社員に拡大。さらに、柔軟な勤務時間(スーパーフレックス制度)を採用した。
制度が形になったのは半年後の10月のこと。ブイキューブでは、自社で実践する新しいワークスタイルをコーポレートカラーにちなんで「orange」(オレンジ)と名付けた。「open」「rewarding」「anytime and anywhere」「network」「growing」「effecient and effective」の頭文字を取ったものだ。
orangeワークスタイルの実践により、テレワーク利用者数はぐっと伸び、改正後わずか4カ月で8割近くにもなった。大雪により都内の交通機関がマヒした日には、出社以外の働き方を自然と選べたという。
とはいえ、ここまで読んだ読者には疑問も残るはずだ。1つは、人事担当者向けアンケートでも上がっていた「テレワーク中の時間管理をどうするのか」――という課題だ。これらの課題をどう解消しているのか、ここからは、一般企業の不安に対応する形で同社の取り組みを見ていこう。
フレキシブルな働き方に憧れを抱く企業にとって「労務管理」は切実な課題だ。時間管理ができなければ、効率的に仕事が行われなかったり、はたまた所定の労働時間を大きく超えて働いてしまったり……そんな事態に見舞われるのではと思う経営者や管理者は多いだろう。
今村さんは「当社では、働く時間は人それぞれ異なります」と話す。「人によって出社しているときと同じような時間帯で働いていたり、細切れに働いていたりします」
こうしたタイムマネジメントを可能にしているのが、Webアプリケーションによる細やかなスケジュール共有の仕組みだ。
在宅勤務中の社員のケースを例にとろう。在宅中もずっと業務をしているわけではなく、親の介護や子どもの世話などで仕事を離れるときもある。そのような場合、業務開始と中抜けの「打刻」が複数になる。
「こうなってくると、これまでのスタートとエンドだけの仕組みでは、時間管理が難しくなりますよね」と今村さん。「当社では、そのような働き方にも柔軟に対応できるよう、SalesforceをプラットフォームとするTeamspiritという勤怠システムを活用しています」
実際に同社でそのような働き方をしている人の勤怠表を見てみると、横に伸びたバーの上方にくさび形の印が入っている。「これが業務を開始したとか、中抜けした、戻ってきたというときに打刻した印ですね」と今村さんは説明する。このシステムはPCのみならず、スマートフォンからでも簡単に「業務開始・中断・終了」を打刻できるようになっている。
「そして、このシステムには位置情報も一緒に登録されるんです。これは、労務的に時間を管理するためだけでなく、管理職がテレワーカーのいる場所を把握するのにも役立つんです。リアルタイムで反映されるので、お互いの安心につながっています」と今村さんは話す。
テレワーク導入企業の人事部門が上げた課題で3番目に多かったのが「テレワーク社員とのコミュニケーションロス」だった。社内にいなければチーム内での綿密な情報共有が行われず、非効率になってしまうと考える人は多いだろう。
ここでは、ブイキューブで始業から終業までフルで在宅勤務を行っているインサイドセールスチームの女性、及川さんのケースを見てみよう。
及川さんの自宅はオフィスまで片道1時間半のところにある。本社勤務時のスケジュールを見ると、午前6時半ごろから午後6時半ごろまで予定で埋め尽くされている。ところが、テレワークによって通勤にかかる往復3時間がなくなり、それだけで余裕のあるものへと変化しているのが分かる。
彼女は週5日、在宅でのテレワークを行っているが、その作業環境にあるのはPCとタブレットだ。PCはメイン業務に利用する。ではタブレットは――というと、オフィスの上司とWeb会議システムで常時接続するためのものなのだ。
もちろんオフィス内にいる上司からも、タブレットの内蔵カメラを通じて及川さんの姿が見える。これによって同じ空間を共有することができるのだ。
こうした取り組みは現場の社員だけにとどまらない。同社では以前、マーケティング本部長が岐阜県郡上市にあるサテライトオフィスで約4カ月にわたってテレワークをしたこともある。そのときにもコミュニケーションを支えていたのが、オフィスと常時接続のWeb会議システムだった。
マーケティング本部長は何人もの部下たちを抱え、重要な経営会議に参加する必要もある立場だ。それでもコミュニケーションロスに陥ったり、情報のキャッチアップが遅れたりすることはなかったという。3台のディスプレイを使って本社オフィスと常時接続し、会議にも遠隔で参加していたからだ。
「お互いの姿が見えていれば、話しかけづらさの大部分は解消できます」と今村さん。「むしろ、同じ空間にいても話しかけづらいと感じることはありますよね。当社の場合、オフィス内でも話しかける前に『今、話しかけていい?』と事前に尋ねる文化があるから、遠隔地にいても不自由さを感じなかったのかもしれません」
情報共有の抜け漏れ解消に役立っているのは、会議へのリモート参加だけではない。会議のアジェンダや議議事はすべてGoogleドキュメントで共有されており、リアルタイムで同じものを見ながら会議に参加できるという。全社的な情報共有には、Web会議システムを用いたオンラインセミナーの仕組みを活用。リアルタイムまたはオンデマンドで視聴でき、リモートワークや在宅勤務に取り組んでいる人のみならず、オフィス内で働く人にも役立っている。
「当社はそもそも社長が東京本社にいることがなく、常に国外から会議に参加しています。今は確かマレーシアでしたっけ。しかも、オフィスからではなく、車の中から参加することもあるくらいです。どこからでも会議に参加でき、コミュニケーションが取れ、情報が得られることが当たり前になっているんです」(今村さん)
これまでテレワーク導入企業の課題を取り上げてきたが、まだ導入していない企業の不安についても見てみたい。導入しない理由の上位になったものの1つが「業績評価が難しい」(27%)というものだ。
テレワーク中心になると、上司が部下を評価する基準があいまいになるのでは――という疑問に対し、今村さんは「当社では職種ごとに目標管理(MBO)をしっかり行っています。期初・期中・期末に個別面談を行い、上長は部下との目標をしっかりと握っておきます」と話す。
それ以外にも、上司と部下の1対1の面談(テレワークの場合はWeb面談)を定期的に実施するなど、社員一人一人が「自分の仕事ぶりが会社の期待に合っているか」を確認できる場を用意しているという。「それらを習慣化しているおかげで、テレワークがうまく成り立っているのだと思います」(今村さん)
現在、働き方改革の名のもとで、労働時間削減に向けた取り組みを進めている企業もある。労働時間が長い企業を「ブラック」、短い企業を「ホワイト」と評する向きもあるが、今村さんの考えはそれとは異なる。
「労働時間や働く場所よりも、働く一人一人が『自分が何を目的にして仕事をしているか』をわきまえ、それを成し遂げるため自律性を持って働くこと。自分で時間配分すること。そのための場所を選ぶこと。それらができるように、自分で選べるようにすることが真の働き方改革なのではないでしょうか」
自分を律しながら成果を上げつつ、自由度や満足度の高い仕事をすること。今村さんはそんな働き方を「orange」(オレンジ)と表現する。テレワークも「そうした働き方を実現するための方法の1つでしかない」という。
「大切なのは『柔軟性』と『自律性』です。規律の中で柔軟さを持ちつつ、自分の働き方を自分で考えていくことができれば、自分に合った働き方が見つかります。当社の場合、その中の1つにテレワークがあればいいという考えなのです」
「テレワーク自体が目的になってしまうと、それを実践しようとする際、大ごとに挑戦しているような気になってしまう。でも、実際はそうではありません。もし大変だというイメージがあるなら、まずは管理職の人が試してみるといいと思います。そうすれば、柔軟な働き方によるメリットを実感できるはずですから」(今村さん)
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