コンセプトモデルをテーブルに並べて記者を迎えてくれたチャンドラシーカ氏。そのコンセプトモデルはノートPCと、2月に行われたIDFでも披露された17インチ液晶パネル一体型モデル「Florence」だ。
ノートPCのほうは12.1インチ液晶パネルを搭載したTabletPCに似たスタイルで、Florenceより小さいものの、そのサイズは、日本の携帯重視型ノートPCと比べるとやや大きめ。モバイルコンピューティングを進めるチャンドラシーカ氏にとって、日本で主流のB5サイズ(もしくはA4スリム)1キロ前後ノートPCをどのように見えているのか。
「これは、インテルが持っている技術で可能になるPCの姿を披露するコンセプトモデルであって製品ではない。1キロサイズのマシンにも十分搭載できるが、このサイズになったのは市場が求めるサイズを示しているためだ」
市場が求めているのは、携帯性を重視した小さなPCではなく、使い勝手をある程度考慮した12.1インチ液晶パネルを搭載した製品、というのがインテルの主張らしい。それは、ミニノートPCは市場から求められていないとインテルが評価していることを意味するのだろうか。
「このコンセプトモデルは、キーボートユニットを取り外すとスレートタイプに姿を変える。この状態でも完全なPCとして動作する。これならば、B5サイズPCとおなじような使い方も可能になる」
インテルが開発するパーツで実現する機能を具体化したのが、これらコンセプトモデルということだが、インテルのモバイル向けパーツとして今回のIDF 2004 Japan Springで注目されているのが、登場を間近に控えたDothanと、米国のIDFで詳細が明らかにされたSonomaだ。チャンドラシーカ氏は「倍増したキャッシュや改善されたプリフェッチなどの内部の改良によって、Baniasと同じ消費電力で10〜20%アップの高いパワーを発揮する」とDothanのメリットをアピールする。
インテルが考える「モバイルコンピューティングに重要な要素は以下の四つである」とチャンドラシーカ氏は説明する。
(1)性能
(2)バッテリーライフ
(3)フォームファクター
(4)相互接続性
今までも繰り返し述べられてきたこれらの要素であるが、Dothanも「性能」「バッテリーライフ」を向上させるために、90ナノプロセスを採用し、プリフェッチアルゴリズムなどの改良を施して、パフォーマンスを向上させつつも、消費電力を抑えているわけだ。
しかし、Sonomaでは、これらに加え、ホームユースを意識した要素も入り込んでくる。「コンシューマーユーザーは、オーディオとグラフィックスが重要になる」とチャンドラシーカ氏が述べるように、次世代チップセットのSonomaでは高品質のHDオーディオをサポートし、グラフィックス性能を向上させた(そして、消費電力も抑えた)新しいグラフィックコアが統合されることになっている。
昨年のトピックスであったCentrinoは主にビジネスシーンに向けてプロモーションを展開してきたが、DothanとSonomaは「2004年はコンシューマー市場を本気で考えていく」とチャンドラシーカ氏が述べるように、ホームユースを強く意識した機能をカバーする。SonomaでサポートされるHDオーディオ機能は、そのインテルの意思をはっきりと示している。
今回、IDF Japan 2004 Springでインテルが披露したコンセプトモデルは、搭載する液晶パネルのサイズによって、12.1インチモデル、15インチモデル、17インチモデルの3タイプに分類されている。
17インチ搭載モデルは、エンターテイメントコンテンツの利用をメインに考えられており、そのフォルムは日本で販売されている液晶パネル一体型PCとほぼ同じ。12.1インチは携帯利用をメインに想定され、15インチモデルは、その中間に位置付けられている。
では、12.1インチモデルを使った「携帯利用を中心」を考えたノートPCを使う具体的なシーンをどのようにイメージしているのだろうか。携帯電話でネットワークにアクセスするユーザー数が圧倒的に多い日本において、ノートPCを使った「コンシューマーにおけるモバイルコンピューティング」のメリットや利用場面をユーザーに対して具体的にアピールすることは難しい。
Centrinoが想定しているビジネス利用においても、メールのチェックや路線検索、ニュース、地図情報などを実際にやろうとすると、携帯電話で利用できるサービスのほうが「いつでもどこでもアクセスできる」環境が整備され、コンテンツも豊富に用意されているのが日本の現状だ。
チャンドラシーカ氏は「PCは携帯電話に置き換わるものではないし、携帯電話はPCに置き換わるものではない」と、それぞれは完全に分離したデバイスであると答えてくれた。
「携帯電話でデータ集約型のアプリケーションを使おうとするユーザーはいないだろう。しかし、メールやスケジュールなど変化するデータに、逐次アクセスしようとするなら携帯電話のほうが便利だ」と、それぞれの特性で使い分けることで、お互いは競合するものではなく中長期的にはシームレスに扱えるようになると説明する。
「コンセプトモデルにも携帯電話の機能を組み込んでいる。携帯電話で扱うデータがPCでもアクセスできるようになり、将来的には携帯電話でもPCでも同じデータが扱えるようになるだろう。お互いに補完できる関係にしていきたい」
インテルでは、モバイルコンピューティングを考えるときに、日本でよく言われるような「屋外利用」「屋内移動」という使うポジションによる分類ではなく、立って使う場面を想定する「スタンドアップコンピューティング」と、座って使う場面を想定する「シットダウンコンピューティング」という括りで議論すると、チャンドラシーカ氏は教えてくれた。
「ノートPCによるモバイルコンピューティングは、喫茶店や駅のコンコースなどで移動の途中で座って使うシットダウンコンピューティング。携帯電話を利用したネットワークアクセスはスタンドアップコンピューティング」というのがチャンドラシーカ氏の考える共存共栄の姿であるようだ。
ただし、日本では「シットダウンコンピューティング」が可能な喫茶店であっても、携帯電話を使ってネットワークにアクセスするコンシューマーユーザーが圧倒的に多い。もちろん、価格が安い携帯電話が圧倒的に普及しているためであるが、それ以外にも、携帯電話の「いつでもどこでも」(これは、Centrinoの重要なコンセプトでもあるが)ネットワークにアクセスできる「使い勝手のよさ」は無視できないだろう。
日本や欧州にくらべて携帯電話によるネットワーク利用が遅れていた米国でも、最近ではメールやWebアクセスに携帯電話を利用するユーザーが増えてきている。
「いつでもどこでも」をモットーとするCentrinoが、携帯電話との共存する環境でどのような存在理由を見出していくのか。そして、家の中でなく「街中のシットダウンコンピューティング」で、これからユーザーに提供しようとしている高品質のオーディオとグラフィックスを、どのように使わせていくのか。
その答えをコンシューマーユーザーに分かりやすく提示できるかどうかが、「2004年はコンシューマーを本気でやる」インテルのモバイルビジネスの成否を左右するだろう。
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