「MPEG-2至上主義」の間違いわかりたい人のための動画エンコード講座

» 2004年04月23日 20時32分 公開
[姉歯康,ITmedia]

 ちょっと前は、「これからのフォーマットは何?」「次世代ストリーミングの本命はこれ!」といった話題が雑誌などでも取り上げられていた。少なくとも、私は書いていた。だが、最近はあまりそういう議論が活発に行われていない。そしてMPEG-2という、ずいぶんと前の規格がまた注目を浴びているように思える。どういうことなのだろうか? そんなにMPEG-2がエラいのだろうか?

成功をおさめているMPEG-2

 MPEG-2というプロジェクトは、もともと、ISOの下部組織MPEGが、DVDやらデジタル放送やらのためのメディアの標準規格を策定しようということで始まったものである。実際には、MPEG-2においては、MPEG-2ビデオ(動画圧縮の規格)、MPEG-2オーディオ(音声圧縮の規格)、MPEG-2システム(多重化・同期の規格)が策定されている。肝はMPEG-2ビデオの部分なので、圧縮の方式の一つというとしてとらえられていることが多いのではないかと思う(今回の原稿も、このビデオの部分のお話となる)。

 そして、MPEG-2は見事に普及している。今のところ、MPEGの中で最も実績がある規格といえるだろう。そういった意味では、「MPEG-2はエラい」と言うことができる。

 ……と、ここまではいい。だが、MPEG-2のどこがエラいのかというところが、やや間違って伝わっているように思われる。そこで、今回はこのあたりの間違いを軽く検証してみたい。

「MPEG-2だから高画質!」って……

 一番多い誤解がこれだ。「MPEG-2は他のどんなフォーマットよりも高画質である」という誤解。ちょっと知っている人であれば、「オイオイ」ということになるのだが、こう考えている人が実に多いのだ。あらゆるDVDタイトルで活用され、デジタル放送などでも使われているから、こう考えてしまうのだろう。だが、それは間違い。ちょっと復習がてら、基本的なことからお話ししていきたい。

 MPEGという団体は、まずCD-ROMをターゲットとしてMPEG-1ビデオという規格を策定し、次により高品質で汎用的に使えるような規格としてMPEG-2ビデオを考えた。当然、MPEG-1以上に、さまざまな技術要素が取り入れられている。だが、活用範囲が広いだけに、用途によっては不要な要素というのも出てくる。全ての技術要素をフルに活用すると無駄が多くなってしまう。また、機器やソフトウェアの開発者が、自分の使いたい要素を好き勝手に使っていたら、互換性というものが危ぶまれてしまう。

 そこで、MPEGは標準化のために4段階の「レベル」(画像サイズ)と5段階の「プロファイル」(扱われる基本技術)を定めた。

 そこで最もよく扱われているのがMain Profile@Main Level(MP@ML)である。これがDVD-VIDEOやらで活用されているものだ。ビットレートの上限は10Mbps(一層の場合)となっている。

 そして、DVD-VIDEOの規格では、「MPEG-2の場合のビデオ部分の最大ビットレートは9.8Mbps」ということになっているのだが、実際のところは4〜8Mbpsといった値が使われている。そして、このあたりのビットレートでの品質が一般的に「MPEG-2の画質」と認識されているようだ。だが、ちょっと考えればわかるように、そんな品質などというものはビットレートをいじれば変わってくるのだ。

他と比較しても高品質なのか?

 言うまでもなく、動画の圧縮品質を云々する場合には、ビットレートが非常に重要な要素となる。このビットレート──つまり1秒間にどれだけのデータ量を流すか──がデータの品質に影響してくるというのは当たり前の話である。ザックリと言えば、動画圧縮技術は、「いかに品質を落とさずにビットレートを落とすか」ということをテーマに競い合って進化しているワケである。

 そして、一般的にキレイだとされているMPEG-2ビデオは、例えば「720×480ピクセルで6MbpsでMPEG-2圧縮されたデータ」ということになる。

 だが、お気づきのように、6Mbpsも使えば、今時のコーデックであれば、余裕で高画質を出せる。Real Videoにしても、Windows Mediaにしても、MPEG-2ビデオの1/4から1/2程度のビットレートで、同等の画質を生み出すことができる。ネットワーク用途での低いビットレートでの使用が前提とされているだけに、圧縮率の高さという観点から見れば、「MPEG-2より優秀だ」ということができる。ただ、これらは標準フォーマットではなく、MPEG-2のようにチップ型のデコーダーがたくさんあるという状況にはない。高品質のデータがあったとしても、それを再生するにはすさまじいCPUパワーをくってしまうということもある。何より、DVDのような普及メディアでは使われていない。

 また、仮に同じ映像を同じビットレートでエンコードしたとしても、エンコーダの性能や作り手の調整でクオリティに差が出てしまう。本当は、単純に「MPEG-2の品質」などとは言ってしまうことにも問題があるのだ。

「でも、MPEG-2は放送用だから、携帯電話用のMPEG-4よりは画質がいいんでしょ?」

 これも大きな間違い。むしろ、同じビットレートであれば、MPEG-4のほうが高いクオリティを実現することができる。MPEG-4ビデオには、そういうプロファイルもきちんと用意されているのだ。

 MPEG-4ビデオは今ひとつ盛り上がっていないように見えるが、これはMPEG-2よりさらに広い範囲での応用が考えられているせいでもある。ネットワークでの使用からスタジオレベルでのプロファイルの数は半端じゃなく多い。このプロファイルの多さも、今ひとつ盛り上がらない原因となっている。

 アップルのQuickTimeや携帯電話の3GP、3G2がサポートしているMPEG-4は、Simple Profileだ。またDivX networks(国内取り扱いはホロン)のDivXがサポートしているMPEG-4は、Advanced Simple Profileだ。

 それぞれを見ると、特にDivXなどは、盛り上がっているのである。ただ、同じMPEG-4で同じビットレートであっても、圧縮の方法に違いが生じる場合もあり、さらに名称が違っていたりするので、よくわからないというワケだ。

 それに比べて、このMPEG-2というものは、既に標準規格であり、普及しているのだ。普及しているだけに互換性の面でも問題が少ないし、エンコーダー、デコーダーも多数存在する。本当は厳密にいえば、互換性の問題もポロポロ出てくるのだが、もう、世の中としても、「MPEG-2サポートといえば、このあたりをサポートしていれば十分だろう」ことは十分に浸透している。「MPEG-2は標準だからエラい」「MPEG-2は普及しているからエラい」というのが正解である。「品質が高いから」ではないのだ。

これから先の注目は「MPEG-4の」H.264

 さきほどのMPEG-4の話を補足したい。最近、地上デジタル放送の携帯端末向けのフォーマットとして話題となっているH.264というコーデックも、実はMPEG-4の一部である。未だに世の中では勘違いされているが、H.264はITUとMPEGとのジョイント規格となり、MPEG-4の中のAdvanced Video Codingという規格になってしまっているのである。そしてこのH.264はかなり強力な次世代の本命でもある。

 「次世代の本命」といっても、現状でこれだけMPEG-2が普及しているのは事実で、これはこれで継続されていくはずだ。ただ、一方ではH.264を中心としたMPEG-4がいろいろなところで採用されていくだろう。携帯端末はもちろん、DVDなどのエリアでも採用されていくだろう。だが、「MPEG-4仕様DVD」の規格が採用されたとしても、従来のDVDプレイヤーでは再生できない。となると、コンテンツ屋さんも、なかなかそちらに移行していけない。ということで、シフトするには時間がかかってしまう。

 品質のことだけを考えれば、進化は大歓迎である。だが、普及のことを考えれば、それよりも互換性のほうが大切である。となると、簡単に進化させていくわけにはいかない。そして、常にいいものが生き残るというワケでもない。

 デジタルメディアにおいて、このジレンマは永遠に解消されない。だからこそ、いつまでもMPEG-2はエラいものであり続ける可能性も高いのだ。

 逆に言えば、PCでエンコードして個人で楽しむというのが目的であれば、MPEG-2は別に魅力的なコーデックではない。互換性を気にしなくてもよい人たちは、最新の技術の効率や品質を堪能すればいい。DivXが水面下で普及してきたというのは、そういう用途が確実にあるからなのである。

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