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» 2006年01月06日 11時00分 UPDATE

山谷剛史の「アジアン・アイティー」:中国の金型産業の強さとその裏側(後編) (1/3)

前回は、日本の金型産業が抱える構造的な問題と、その問題に業界全体で立ち向かう「町工場同士の連携」と、その1つの具体的な形である「金型熱血集団JAM」を紹介した。今回はそのメンバーである「並木金型」並木正夫氏が分析する中国金型産業の「真実」を紹介しよう。

[山谷剛史,ITmedia]

中国金型産業に伝承される日本「匠の技」

 日本の金型企業へのアジア展開は、中国のほか、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナムなど東南アジアの各国に向かっている。中でも、多くの日本の大企業が移転していった中国は、最大の規模を誇る。

 日本製品と中国製品を比べれば分かるように、一般的に、日本企業は(欧州製品を)真似たうえで、さらに技術的な付加価値がある製品を生み出すが、中国企業は、品質を犠牲にしてでも、より価格を重視する風土がある。金型産業でも同様で、日本の職人が自らの「技能」を向上させる一方で、中国は最新の工作機械を導入する努力はしても、それを使いこなす技能を向上させる努力はしない。

 並木氏は中国の金型企業を「手っ取り早くブランド品のコピーを行ったほうが短期的に儲かるから、目に見えぬ長期的な企業力である研究開発は好まない」と分析する。

「変な話ですが、物真似ばかりやっているので、物真似のセンスは凄くいいですよ。中国で作った“コピー品”を見たとき、ある部品のすべてに同じ傷がついているのですよ。その傷は日本の“オリジナル品”についてしまってたものが、品質には影響なし、と判断して傷がついたまま出荷した、訳ありの部品だったのです。それを中国の金型企業は、“傷の意味”も考えずに、ただ真似するのです」(並木氏)

 しかし、そんな中国の金型産業も、いまや日本の町工場から仕事を奪ってしまうほどに技術を向上させてしまっている。なぜか? 中国の日系金型企業から独立した現地企業が育ってきて、中国でも競争が激しくなってきているからというのが第1の理由だ。

 そして、それは、「親会社の情け容赦ないコスト削減圧力」によって経営が立ち行かなくなった町工場から泣く泣くリストラされた日本の金型職人を、中国の金型企業が日本企業顔負けの高給で一定期間雇い、その間に日本の職人が持つ技術をできる限り吸収していったからというのがもう1つの理由だ。

 リストラされた日本の金型職人が持つ高度な技が短期間に吸収されるため、中国金型企業の技術力は「飛躍的」に向上する。いい金型を作る中国金型企業は多くの場合、社内に日本からの指導者がいる。

 中国金型企業は、「日本の職人を一時的に雇う」という投資に加え、金型加工に必要な機械への投資も惜しまない。日本製の成形機は中国で最も売れていて、さらに最新の高精度金型加工機も中国で売れているという現実がある。一方で日本の金型工場では「設備しなければ仕事がこない、設備すれば支払いで儲けがなくなる」という状況で、なかなか投資ができにくい状況だ。

 日本と中国で商習慣が違うのは、金型産業でも同じ話。日本の金型職人が作り出した図面を元に製作を中国企業に頼んだら、「なぜか」その図面が別の中国企業に渡ってしまった、なんてことは日常茶飯事。

 ただ、そういった秘密事項の漏洩は日本企業同士でも起きていた。例えば日本のメーカーが町工場に金型設計を依頼して、金型職人が図面をデザインした後、日本のメーカーが中国企業に図面データを流して作らせたということもある。

 「これって犯罪ではないか?」

 ところが、それがそうでもないのだ。契約書には「顧客(=発注したメーカー)の守秘義務は守るべし」とは書いてあっても「請負企業(=町工場)の秘密も守るべし」とは書いていないのが普通「だった」。

 「だった」というのは、2005年11月から、「企業が勝手にデータを横流しした場合は、刑事告訴ができるようになる」法律が施行されたためだ。しかし、法律云々以前に、メーカーがコストダウンがため、日本の技術を中国に横流ししたという「製造業者のモラル」は、Made in JAPANの屋台骨である金型産業を大事にしていないことを、如実に示しているともいえる。

「欧州の契約書はしっかりしています。オランダ企業のフィリップスが作る契約書では、“双方の守秘義務を守るべし”と書いてありました。日本は親会社子会社の伝統的な関係があるため、下請けの町工場は文句がいいにくい。文句をいうと、上からは“下請けのクセに生意気な”といった感じでいわれた、という話も聞いています」(並木氏)

kn_china2cad.jpg 金型製作の第一歩はCADによる金型デザインから。以下の作業風景は並木金型の現場である
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