2006年は、久しぶりにマイクロソフトから新しいWindows、Windows Vistaがリリースされる予定の年だ。現在使われているWindows XPのリリースが2001年11月だから、同社がいうように、たとえボリュームライセンスを持つ大企業向けだけになるとしても、11月にWindows Vistaをリリースできれば、ちょうど5年ぶりのメジャーバージョンアップとなる(一般向けのリリースは2007年1月とされている)。
通常、企業ユーザーは、新版のソフトウェアが正式リリースされたからといって、すぐに導入することはない。さまざまな評価を行い、その評価が良好であれば、具体的な導入計画をたて、順次導入を始める、という段階的なステップを踏む。11月にリリースされても、それは正式版による評価のスタートであり、必ずしも実使用を意味するものではない。にもかかわらず、同社が11月のリリースにこだわるのは、5年という歳月の重みを知っているからなのだろうか。
1985年11月(これまた11月なのだが)にリリースされた最初のWinodws 1.0以降、同社はおおむね1年から4年程度で、Windowsのメジャーバージョンアップを行ってきた。5年も間隔が空くというのは、異例のことである。同社自身、サーバOSのリリース戦略として、4年サイクルのメジャーバージョンアップと、その中間でのリリースアップデートを公言しているくらいだ。
なぜ間隔を空けすぎると良くないのか。間隔が空くと、それだけ対応せざるを得ない技術進歩が増えるし、市場の変化も激しくなる。必然的に、OSに盛り込む新しい機能が増え、開発とテストを困難にする。Windows Vistaもその例外ではない。
同時にこれは、古いプラットフォームと新しいプラットフォーム間で機能や性能の乖離(かいり)が大きくなるということでもある。5年前、Windows XPをプリインストールして販売されたPCと、2007年1月にWindows Vistaをプリインストールされて販売されるであろうPCの差が大きくなればなるほど、新しいPCが売りやすくなる一方で、アップグレード市場は縮小していく。
この問題を回避するため、MicrosoftはWindows Vistaで機能差を設けた複数のパッケージを用意しようとしている。たとえばコンシューマー向けであればHome Basic、Home Premium、Ultimateの3ランクが用意される見込みだ。それぞれのパッケージ間には、機能差だけでなく価格差も設けられる。
最も低価格のパッケージとなるHome Basicには、喧伝されるWindows Vistaの新機能の1つ、新ユーザーインタフェースのWindows Aeroは実装されない。これを「廉価版では必要な機能さえ削るMicrosoftはひどい」とか、「一貫性に欠ける」と批判するのはたやすい。が、おそらく5年前にWindows XPがプリインストールされて販売したPCにAeroを無理矢理インストールしても、良好なユーザー体験は得られないだろう。それだけAeroをはじめとするWindows Vistaの新機能の負荷は高い。それどころか、現状のベータリリースを前提にすると、昨年のPCですら危ないと感じるほどだ。
Windows Vistaの各Editionとサポートする機能表 | |||||
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機能 | Home Basic | Home Premium | Ultimate | Business | Enterprise |
IE7+ | ● | ● | ● | ● | ● |
WMP11 | ● | ● | ● | ● | ● |
Aero Glass | − | ● | ● | ● | ● |
Remote Desktop | − | − | ● | − | ● |
Virtual PC Express | − | − | ● | − | ● |
BitLocker | − | − | ● | − | ● |
Domain Logon | − | − | ● | ● | ● |
Media Center | − | ● | ● | − | − |
Tablet PC | − | ● | ● | ● | ● |
古いPCにメモリを増設し、プロセッサのアップグレードを行い、グラフィックスカードを最新のものに交換する、といった作業を行うくらいなら、新しいVistaプリインストールPCを購入した方が安くつきかねない。そういう意味では、機能を落としたパッケージの存在は、安価な「今」のPC向けという側面だけでなく、高価だった「過去」のPC向け、という意味合いもあるのだと思う。
前回、Windows XPにおいてはHomeとProfessionalの2つが展開された。Home EditionはProfessionalの単純な機能削減版ではあったが、特別な性能面での差異はなかった。Windows 2000のリリースから1年8カ月の間隔で出されたWindows XPには、性能的に劣る古いPCへ配慮する必要は、それほどなかったからだ。しかし、Windows Vistaは5年の間隔が生じてしまったがゆえに、OS的にはわずか1世代前であるにもかかわらず、古いPCにおいてWindows Vistaの全機能をサポートすることができない状況になってしまった。
1つのポリシーとして、最新版OSへのアップグレードは行わない、という考え方もできなくはない。しかしそれでは5年前のPCの人はまだしも、この夏に新しいPCを買う人は納得できないに違いない。夏モデルには、Windows Vista Capable PCというVistaが動くむねのロゴシールさえ貼ってあるのだ。また、そうした措置を行わなければ、メーカーは買い控えの心配をしなければならないハメとなる。結局、Vistaの全機能が利用できなかろうと、初期のWindows XPマシンにも導入できそうなパッケージを用意するしかない。Microsoftとしては、新規プリインストールはHome Premium/Business以上にして欲しい、というのが本音で、Home Basicはサンキュッパ(3万9800円)の激安PCや過去のPCのアップグレード用だと思っているのだろう。
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