PC同士のペアリング山田祥平の「こんなノートを使ってみたい」

» 2006年08月07日 11時00分 公開
[山田祥平,ITmedia]

自宅作業の続きを出先でやりたい

 さっきまでの自宅で行っていた作業の続きを、電車で座席を確保できた瞬間から再開できればどんなに便利だろう。

 例えばPDFの書類を読んでいたとしよう。出かける時間がきた時点で、そこまで読んだ印としてテンポラリブックマークを作成してAcrobatを閉じる。そして、充電中だったノートPCから電源アダプタのプラグを抜き取りスタンバイ状態に移行させる。そのノートPCをカバンに入れて外出すれば、出先でノートPCを開いたときに書きかけや読みかけの書類など、自宅で行っていた作業内容がそっくりそのまま再現されてすぐに作業を再開できる。さっきつけたPDFのテンポラリブックマークも反映されている。

 自宅に戻り、充電のためにノートPCに電源アダプタを接続し、スタンバイを解除して、でもノートPCはそのままにしておいて、自宅に常駐しているPCに向かうと、持ち歩いていたノートPCを使って出先で行っていた作業の続きをすぐに再開できる。

 こうしたことが、ファイルのコピーや転送といったことを意識せずにできれば、2台めのPCの価値はグッと高まるはずだ。

 何しろ、複数のPCで、特定のフォルダにあるファイルが完全に同期するのだから、「あのファイルを持ってくるのを忘れた!」といったことは起こりえない。グループで共有しているフォルダとは違い、ひとりで使うPCである以上、出先で作業した結果に複数のバージョンができてしまうということもない。さらに、どれかがクラッシュするようなことがあっても、同期している手持ちのPCの数だけバックアップが存在するので被害は最小限に抑えられる。すなわち、バックアップの煩わしさからも解放されるわけだ。

Vistaがもたらす同期ソリューション

 Windows XPでは実装が中途半端で、今ひとつうまく機能していなかった同期やオフラインフォルダ、移動プロファイルの機能だが、Windows Vistaでは、かなり使いやすくなりそうだ。

 XPでは「マイドキュメント」の下に、マイミュージックやマイビデオ、マイピクチャなどが配置されていて、それはそれで理にかなったものだったが、Vistaではユーザーの「ホームディレクトリ」の下に、デスクトップやミュージック、ビデオ、ピクチャ、ドキュメント、お気に入りといった主要フォルダが配されている。さらに、これらのフォルダはリダイレクトフォルダとして、プロパティで別の場所を設定できる。ちょうど、Windows XPのマイドキュメントがターゲットフォルダを変更できるのと同じイメージだ。

 マイドキュメントを十把一絡げにするのではなく、コンテンツの種類に応じてフォルダを分散させたのは、ファイルサイズが大きくなりがちな画像や音楽、動画などを独立させようという意図があるのだろう。

 Windows Vistaの環境で同期ソリューションを実現するには、まず、メインに使うPCを1台決める。ほとんどの場合、それは自宅に据え置いたPCになるだろう。そのPCで、自分のホームディレクトリを丸ごと共有設定しておく。あるいは、ビデオ、ピクチャ、ドキュメント、お気に入りなどを個別に共有してもかまわない。

 次に、2台めのPCで、それぞれのフォルダをメインPCで共有した各フォルダにリダイレクトし、さらにそれらをオフラインで使えるように設定しておく。すると、設定直後に同期が始まり、1台めと2台めのPCの各フォルダの内容は同じになる。3台め、4台めのPCがある場合も同様の設定をしておけば、どのPCでも、特定フォルダの内容が同一に保たれる。

 ちなみに、オフラインフォルダが使用するディスク容量には上限を設定できる。この上限が小さいと、あるはずのファイルがないということになりかねないのでこの設定は「100%」にしておくといいだろう。

 同期のタイミングとしてトリガーやスケジュールを設定できるが、現段階のビルドでは、何も指定しなくてもそれなりにうまく動いているようだ。経験的に、冒頭に書いたような使い方をする限りは、とくに意識することなく自動同期が行われている。ノートPCのネットワーク接続は、内蔵する無線LANを使っているので、ネットワーク接続のためにイーサネットケーブルをつなぐというわずらわしさもない。本当に充電のためだけにプラグを差し込めばそれでいいという感覚だ。

 また、ほとんどのユーザーの場合、外部からインターネット経由で自宅のLANにアクセスできるようにはなっていないだろうから、ノートPCを外出先で使い始めたときにいきなり同期が始まってわずらわしく感じることもない。必要ならばVPNなどで自宅のLANに接続してメインPCのフォルダと同期できるが、ホットスポットのように比較的高速なネットワークならともかく、携帯電話を使った接続などではちょっともどかしい。Windows Vistaでは、低速ネットワークが検出された場合、自動同期を行わないのが既定の設定となっている。

持ち歩きたいのは作業環境とその内容

 データファイルのほかに、同期してほしい情報にメールとスケジュールがある。Windows Vistaでは、新しくなった「Windowsメール」に加えて管理アプリケーションとして「Windowsカレンダー」が添付される。

 Windowsメールのデータ保存先は、ホームディレクトリ下の「AppData\Local\Microsoft\Windows Mail\ローカルフォルダ」にあって、送受信したメールは「1つのメールが1つのファイル」として蓄積されていく。

 Windowsカレンダーのデータは、ホームディレクトリ下の「AppData\Local\Microsoft\Windows Calendar\Calendars」にあって、複数のスケジュールが「iCalendarファイル」としてひとつのファイルに蓄積される。

 これらのデータを同期すれば、メールやスケジュールも複数のPCでうまく扱えるようになるだろう。また、Windowsカレンダーにはカレンダーの共有機能も用意されている。単純にiCalendarファイルをストレージに置き、自動的に変更を反映するというものだが、この機能を使ってもうまくいくかもしれない。

 WindowsメールとWindowsカレンダーには不可思議な仕様がまだ散見されるので、本格的に評価運用してみてはいないが、きっと何らかのソリューションを見つけることができると思う。

 モバイルPCを持ち歩くということは、読み書きのための道具を持ち歩くことだけを目的とするものではない。作業環境のみならず、作業内容も持ち歩き、いつでもどこでも、どんなデバイスでも作業を再開できることを望みたいのだ。ブロードバンドの普及は、ネットワークを介して離れたところにあるストレージの内容を参照することを可能にしたが、オフラインでPCを使わざるをえない状況はまだまだ多い。これまでのWindowsは、2台め以降のPCとしてノートPCを持ち歩くという行為に対して便利な環境を用意するということには、あまり熱心ではなかったように思う。それがWindows Vistaで一歩踏み込んだ。

 理想的には「あのPCとペアにする」といったワンストップのソリューションを用意して、ボタンのクリックひとつですべての設定が完了してほしいものだが、こうしたニーズは開発チームの中にないのだろうか。

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