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» 2011年03月24日 11時00分 公開

牧ノブユキの「ワークアラウンド」:業界がチップセットで泣いた! (1/2)

販売店やメーカーに甚大な打撃を与えたIntel 6シリーズチップセットの問題。打撃の本質を“内側”から解説する。

[牧ノブユキ,ITmedia]

お金が回らなくなる恐怖

 Intel 6シリーズのチップセット不具合によるIntel P67 Express、もしくは、Intel H67 Expressを搭載したマザーボードの対応は、PC業界に大きな衝撃を与えた。Sandy Bridgeこと第2世代Coreプロセッサー・ファミリーの評判と期待が高かっただけに、2011年1月上旬の発売から好調に売り上げを伸ばしていただけに、問題が公表されてから最新のマザーボードが店頭から姿を消してしまう事態に、PCパーツを扱う販売店は手の打ちようがないという状況が3月中旬まで続いた。

 こうした、基幹部材の問題で製品のほとんどが出荷されない場合、販売店の「被害」は、大きく分けて2種類ある。1つは売上と利益。今回のケースでは、製品の仕入れが発生して、実際に製品を販売している。ところが、返品と同時に代金を全額返すというわけにはいかない事情がある。月末締めの対応になるとすれば、今回の問題が公表されたのが2月1日なので、支払サイトが30日だったとして、返金されるのは3月31日になる。実際にどのような対応が取られたのかは、販売店によって異なるので定かではないが、運転資金が少ない販売店にとって、これだけの長期間に資金がショートするというのは、とても困ったことになる。

 また、キャッシュフローがなんとかなったとしても、見込めるはずだった売上が立たないということは、予定していた利益も上がらないことを意味する。パーツショップにとって、CPUやマザーボードは売上の主力をなすカテゴリーだ。利益率が高いわけではないが、扱う製品の中では単価が高額なので、利益に占める割合も大きい。PC関連製品全般でも、更新、進入、転入、年度末予算消化などなど、年間で最も需要の多い(だから仕入れに費やした金額も大きい)春商戦期という最悪のタイミングと重なってしまった。運転資金に余裕がない小規模販売店であれば、従業員への給与の支払いも滞っておかしくない。会社自体の存続も危ぶまれてしまう条件がそろっている。

深刻なのは正常なCPUとメモリの長期滞留

 もう1つ、そして、マザーボードそのものの返品や返金処理の問題より深刻なことがある。今回の件で最大の問題といえるのは、マザーボードとセットで売れるはずだったCPUとメモリが、ただの在庫となって店頭や店の倉庫に積み上がっていることだ。

 販売店は限られた仕入れ金額で製品を仕入れて販売し、そこから得た売上を運転資金として次の製品を仕入れるサイクルで動いている。利益が上がればその金額を上乗せしてより多くの製品を仕入れることで、売り上げと利益を増やしていく。これはPC業界に限ったことではなく、小売業すべてに共通する大原則だ。

 ところが、マザーボードの回収と出荷停止によって、セットで購入することが多いCPUやメモリまで、正常であるにもかかわらず、売れ行きが落ち込んでいるという。厄介なことに、CPUやメモリは正常品なので、返品はまず不可能だ。仮に返品できたとしても、それらの代金が返金されるころには対策済み製品の仕入れについて商談することになるので、相手を刺激するようなことはしたくない。相手の感情次第では対策済み製品の数がそろえられず品不足になる事態になりかねない。結局販売店は正常だけど売れないCPUとメモリを2カ月間在庫として抱えておくしかない。

たった1つのチップセットの影響が広範囲に波及

 もともとPC周辺機器業界では、表面化していないものを含めると、「不具合発生→製品回収=リコール」は高い頻度で発生している。ディスプレイやHDD、ACアダプタからの発煙、ルータの通信不良から、ノートPC用バッグの縫製に問題があってショルダーベルトが脱落してしまうといったケースまで、その範囲は多岐にわたる。

 いずれの場合も、代替品があればユーザーからクレームがつく事態になることは少なく、売上への影響もわずかにとどまる。ユーザー対応の手間が増えるレベルだ。不具合の原因がメーカーにある場合は、販売店からメーカーに不具合製品を「押しつける」こともできる。交渉ではトラブルを理由に代替品の値引きも可能だ。製品によっては、問題を起こしたメーカーに競合メーカーの同等品の仕入れを負担させるといったウルトラCもある。

 しかし、今回のように、特定の製品だけが関わる問題なのに、組み合わせで購入することが多いほかの製品が売れない場合は、販売店としてどうにもできない。競合するAMD製品の取り扱いを増やすにしても、そちらは“固定ファンが支えている”市場ゆえ、リスクヘッジとしての効果は(残念ながら)薄い。それ以前に、キャッシュフローが苦しい中でさらに仕入れ金額が増えるわけで、運転資金が少ない販売店は仕入れようとしても「お金がない」ということも起こりうる。数多くのベンダーが存在し、代替品がいくらでも用意できるPC関連業界でも、基幹チップが問題になって、関係するカテゴリーに広く影響した“特異な事件”といえる。

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