―― そうなんですね(笑)。実際にうまく事業化できそうですか?
リービン 無事リリースして、絶大な反響を見てからかなり楽観的になってきたよ。
―― 実際このアプリケーションは、人々の記憶の補助をする、というEvernoteの使命にも合致していますよね。
リービン そうだね。それに、我々はちょうど教育市場に着目しはじめていて、どうやったらもっと教育市場で注目を集められるだろうかと話し合っていたところなので、そういう意味でも、このアプリケーションがいいキッカケを作ってくれると期待している。
実はこのアプリケーションのリリースからさかのぼること2週間前、我々はフラッシュカード(単語帳)アプリケーションを提供するStudy Blueという会社と提携した。この提携の段階ですでに、教育市場向けにフラッシュカードを提供するという発想はあった。Evernote Peekにサンプルとして付いているノートのいくつかもStudy Blueが提供したものになっているんだ。
―― なるほど、わずか3週間で開発したにしては、やけにサンプルが充実していると思ったら、そういうことだったんですね。
リービン もちろん、それだけではつまらないので、私やほかのスタッフでもいくつかサンプルノートを作ったけどね。
私は集合名詞(日本語で言う数詞のようなもの。複数になると呼び方が変わる名詞)についてのノートを作った。例えば蛇は1匹だとSnakeだけれど、数匹いたらなんて呼ぶか分かるかい? (ここでPeekを見せながら)答えは「nest of snake」、とこういった具合だ。
アンドリューはボキャブラリー強化のノートを作った。そしてアレックス・パチコフという社員は寿司のノートを作った。日本食好きで有名なEvernoteとしては、この寿司は非常にいいアイデアだと思ったね。
―― 確かに、新人を寿司屋に連れて行き、CEO自ら好きな寿司ネタを聞くEvernoteでは必須のノートですね(笑)
リービン ただ、この寿司のノートには、ちょっとした「いわく」があってね……実は今回のEvernote Peek開発にあたって、最もお金がかかったのがこのノートなんだ。
Evernote日本法人の会長で、本社ではChief Food Officer(最高食べ物責任者)の愛称で親しまれている外村仁が「どうしてもウニの写真が気に入らない」と言い出してね。そこで最終的には、素材集のウニの写真のために、本物のウニよりもはるかに高い125ドルのライセンス料を支払うことになったんだ。
外村仁 最初にアレックスが採用していた写真はノリがしけっていて、いかにもまずそうだった。日本の食文化を愚弄(ぐろう)しているようで、およそ受け入れることができなかったんだ。その後、1枚いい写真を見つけたが、残念ながらこれはほかの寿司の写真と角度が違っていて、使うことができなかった。
アレクス・パチコフ ぼくはウニというと、やっぱり軍艦巻きというイメージがあるからあの写真を選んだ。確かにノリは“しなしな”だったけど、探したところ、どうしてもあの写真しか見つからなくてね……
外村 でも繊細なウニを出す店では、ノリの味がまさってしまうという理由で、軍艦ではなく握りにして出すんだ。これはいいウニだからこそ可能なこと。逆をいえば、ドロドロしたウニだったら軍艦にするしかない。
話がだいぶ横道にそれるけど、最近塩水ウニが普及したし、ああいうウニは私もノリなしのほうがむしろいいと信じている。いずれにせよ、握りのウニを出す店もそれなりにあるので大丈夫、というのは“Chief Food Officer”としての私のアドバイスだった。
アレックスには「軍艦巻き」を生み出したのは銀座の久兵衛なので、今度連れて行こうと思っている。もっとも、私はちゃんとした寿司を食べるが、アレックスはすでに写真の素材集にお金を使い過ぎたので、食べるのは安いネタだけにしてもらうつもりだ(笑)
リービン ところで、この素材集のためだけに125ドルかかったという話には、非常によかったと思えることが1つあるんだ。それはアレックスが、その決断をする際に、いちいち私に“おうかがい”を立てなかったことだ。
会社も大きくなってくると、トップに一言断ってからからでないと行動に移せない社員が増えてしまいがちだ。でもアレックスは、いちいち私を捕まえようなどとはせずに、自分で判断を下した。
寿司の写真だけのために125ドル? 確かにちょっと高い気はするけれど、自分でこれは必要だと判断した。社員はこれくらい自立して判断するのが理想だと思っている。
いずれにしても、このノートが加わったことで、世界人類の寿司リテラシーが向上すると思うと、それはそれで私にとっても非常にうれしいことだ。これは特に重要なノートの1つなので、ログイン不要で最初からアプリケーションに組み込まれているくらいだ(笑)
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