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ITmedia 続いて「5ボタンクリックパッド」を採用した理由を教えてください。5ボタンクリックパッドはタッチパッド部全面がボタンにもなり、トラックポイントのボタンも兼ねる仕様となりましたね。
伊藤氏 Windows 8が普及するにつれ、指を使うジェスチャー操作を行うユーザーが増えてくると考えています。そうしたニーズに対し、まずはより広い面積のタッチパッドを実装したいと考えました。しかし、従来のUltraNavはトラックポイントのための左右・中央のボタンを別に用意する必要があるため、面積をさほど大きくできない課題がありました。Helixのようにコンパクトなモデルではその制限はさらにきついものです。ThinkPadのアイデンティティであるトラックポイントは当然残しつつ、タッチパッドの操作面を広くする方法はないかと考えたのが、全面がボタンにもなるクリックパッドです。
ITmedia トラックポイント操作時は、指が触れた位置とタッチパッドのクリックでトラックポイントの左右・中央ボタンを識別する仕様で、さらに誤操作を防ぐためにトラックポイントに触れていればトラックパッドの機能を自動オフする──といった制御は非常に工夫されているのがいいですね。
ただ、使いはじめて1カ月ほどですが、トラックポイントの左右クリックにおいて、誤って中央ボタンを誤って押してしまう(中央ボタンと誤認識される)例がまだあります。どれだけの距離、指を動かしたらいいのかという感覚をつかむのが、ハードウェアとしてボタンが明確に分かれていたこれまでのトラックポイントと違う操作性となっている印象です。
伊藤氏 その点は、開発において調整が大変難しかったところです。指の面積から認識位置・範囲を決めたのですが、例えば欧米人と日本人で手のサイズはかなり異なりますし、もちろん個人個人もサイズが違います。開発初期段階で、日本人の大和研究所チームは正常に動作するのに同じ個体なのに米国チームではなぜかうまく反応しないことがありました。「親指の太さの違い」が起因していたのです。この時の米国チームに聞くと、太い人が多いと。太いと言ってもそれは数ミリの差なのですが、ワールドワイドで販売する製品だけに、その微妙な差の範囲でしきい値を決めるところから苦労がありました。なお、認識範囲は標準/大で調整できるようにしています。
ITmedia 5ボタンクリックパッドは、下段/上段、どこを押してもクリック感がほぼ一緒ですが、これはどんな構造になっているのでしょう。
機構技術・第二機構システムの野口弘幸氏(以下、野口氏) パッドの中央にタクタイルスイッチを配置し、その周りを4本の板バネで支える構造になっています。トラックパッド操作時にカチカチ押せてしまうほどユルくては当然使いものになりませんし、押す位置によって感触が異なっても使いにくいものになることでしょう。どこを押しても同じクリック感を出せるまでの調整はとても苦労しましたが、この完成度には自信があります。
ITmedia このクリック感は絶対に必要だったわけですね。
伊藤氏 はい。トラックポイントはThinkPadのアイデンティティの1つ。その上で、ハードウェアクリック/センターボタンを採用した従来ThinkPadシリーズに劣らない操作性を実現したかったのです。
ITmedia ところで、ThinkPad Helixのトラックポイントキャップは、従来のThinkPadシリーズ用とは異なる独自のもの(ThinkPad Helix ロープロファイル・トラックポイント・キャップ)が採用されています。こちらはなぜでしょうか。
伊藤氏 ThinkPad Helixは、本体、特にキーボードドックをできるだけ薄く設計する必要がありました。このため高さを抑えた専用設計としました。高さを抑えつつ、内部の固定用突起の形状、キーボードG、H、Bのキーに当たる部分のえぐり方も従来ThinkPadとは異なる設計となっています。
ITmedia なるほど。逆に、ThinkPad Helixで薄型化したこの仕様によって、今後、後のThinkPadもこちらを採用し、より薄くなる──というようなこともあるのでしょうか。
伊藤氏 例えば同じく薄型を推進するThinkPad X1 Carbonでは、従来と同じキャップ/設計で実現していますが、ThinkPad X1 Carbonのキーボード/トラックパッドは非常に高い評価をいただいております。そのときにThinkPadとして最適な仕様を選択することになると思います。
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