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» 2013年09月20日 11時00分 UPDATE

牧ノブユキの「ワークアラウンド」:「コンセプトモデル」が発売に至らない3つの理由 (1/2)

コンセプトモデルと称してイベントでお披露目される新製品。これらはさまざまな思惑で会場に持ち込まれ、そもそも発売を前提としていないケースもあるのだとか。

[牧ノブユキ,ITmedia]

リスクの高い未発表製品をあえて公開する裏事情

 いまだ完成には至っていない新製品のモックアップが、コンセプトモデルなどと称してショウなどの発表会でお披露目されることはよくある。ショウまで行かなくとも、報道陣向けの内覧会や、あるいはビジネス見本市のような場で、細かい仕様がまだはっきりと固まっていないモデルにお目にかかる機会は多い。最近であれば、3Dプリンタでの出力見本に色を付けただけの場合もある。

 製品として未完成であるにもかかわらず世間にお披露目するというのは、よく考えてみればリスクの高い話である。先走って新製品の存在を明かしてしまえば、競合他社の追従を招く危険もあるし、最終的に発売に至らなければ、それがたとえコンセプトモデルという名目で公開されたものであっても、各方面に事情を説明して回る必要は少なからず出てくるからだ。

 しかし、こうした製品はまったく別の目的をもって発表会の場に持ち込まれることもしばしばで、最終的にコンシューマー向けに販売されるか否かは、あまり重要視されていないことも少なくない。そればかりか、そもそも発売を前提としていないケースすらあり、すべてが織り込み済みであることもしばしばだ。今回はこうしたコンセプトモデルのお披露目にまつわる舞台裏をのぞいてみる。

対外アピールやマーケ目的、さらに競合他社つぶしの意図も

 製品がまったくの未完成であるにもかかわらずお披露目されるのには、さまざまな理由がある。まずは基本的なところから見ていこう。

 1つは言うまでもなく、対外的なアピールを目的とするケースだ。「あの会社は面白い新製品を準備している」とうわさになれば、それは会社への期待値となり、販売店やユーザーからの評価は高まる。

 あまり未確定すぎる情報を出してしまうと「あの新製品はどうなったんだ」と後々責められる要因になるので痛しかゆしだが、それを差し引いても自社の営業マンや販売店を鼓舞する効果は大きく、新たな販売店との取引口座を作るきっかけになる可能性もある。また株主からも評価され、株価の上昇も期待できる。

 もう一歩踏み込んで、マーケティングリサーチを目的としている場合もある。たとえ未完成の製品でも、それがニュースとして取り上げられれば、ユーザーの反応を見ることができる。ここで得られた反響の大きさを過去の事例と照らし合わせれば、どの程度の販売台数が見込めるかを逆算することも可能になるので、ロット数を決める際の有力な根拠となりうる。また、ニュースを見たユーザーの声を取り入れて、決めかねていた最終的な仕様を決定することも可能になる。

 これらの前提となるのは、「いち早く発表しても競合他社に抜かれる心配がない」ということだ。もしこれらの発表を見て競合他社が突貫で類似製品を作り、自社の製品よりも早く投入するようなことがあれば、話題になったぶんだけ競合他社に売上をかっさらわれることになり、とんだお笑い種となってしまう。

 そのため、こうした新製品発表会では、他社の開発期間を逆算し、決して追いつかれないスケジュールで発表する。言い換えると、これができないようであれば、発表会に出すこと自体が難しいわけだが、とにかく注目を浴びたいがゆえにうっかり愚を犯すメーカーはまれにある。

 競合他社を意識するという点でよく似ているのが、競合他社の新製品発売が間近なタイミングで、一歩先を行く次世代製品を発表するという技だ。実際には製品がまだ発売できる段階になくても、ある程度の具体性を帯びていれば、競合他社の製品は一瞬にして陳腐化して見られるようになり、売上に与える打撃は絶大なものとなる。

 ここまでやると逆にやり返される可能性もあるので、家電・AV関連はともかくPC周辺機器メーカーくらいであれば、あまりこうした技をろうするケースは聞かない。最近は電子書籍の専用端末で、これに近い事例が見られるくらいだ。

意外と多い、社内の駆け引きが絡むケース

 比較的よく起こりうるケースを紹介したが、その裏側にはかなり深いメーカーの社内事情が絡んでいる場合もある。

 1つは、新製品発売にまつわる社内の駆け引きを有利に進めるため、こうした発表会を利用するというパターンだ。社内では発売に反対されているが、担当者はなんとかして発売にこぎ着けたい場合、発表会でいち早くお披露目をすることで既成事実を作るとともに、あわよくばユーザーの支持を取り付けてしまおうという魂胆だ。

 発表会でその製品に興味を持ったユーザーが「発表会に出ていたあの製品はいつ発売ですか」などと販売店に問い合わせたり、Webで話題にしてくれれば、それは巡り巡って何かしらの形で現場に届く。そうすると、それまで発売に反対していた現場としても、「実際にユーザーから要望も来ているみたいだし……」と、発売賛成に票を投じざるを得なくなるというわけだ。

 冷静になれば、よほどの大人数が話題にしていない限り、こうした声が売れ行きに決定的な影響を与えることは考えにくいのだが、意外とこうした要因が判断をひっくり返すことがあるのが面白い。最近は多品種少量の傾向が強くなり、一定数のニーズがあれば製品化される確率が高まってきているのも、こうした状況を後押ししている(もちろんメーカーにもよるが)。もっとも、こうした発表会で反応がまったくなく、結果としてお蔵入りが確定するきっかけになる場合もあるので、担当者にとっても1つの賭けではある。

 こうした「開発部vs社内」というケースのほかに、開発部内の「企画担当者vsデザイナー」というケースもある。デザイン優先か機能優先か、また複数あるデザインのどれを選ぶかで意見が割れてしまい、こうした発表会で客の意見を聞くことで、判断材料にするというものだ。先に述べたマーケティング目的での出展が会社単位で行われているのと異なり、こちらはあくまで開発部が主導しており、いわばグループインタビューの代替のようなものだ。

 意思決定能力に乏しいメーカーでは、社内だけでは方向性が定まらずにこうした外部の声に判断を委ねることがあり、どちらかというと後ろ向きな姿勢によるものなのだが、外部から見ると自由闊達(かったつ)に新製品が開発され、ユーザーへのフィードバックが積極的なように見えることもあって面白い。

 もう1つ、例外的なケースとしてまれにあるのが、こうしたリサーチをはじめとする意図がまるでなく、たんに空きスペースに適当なモックを置いたら思わぬ反響があったというパターンだ。発表会を仕切る広報や販促から「展示場所も余っていることですし、なにか飾る物はないですか」と言われて、お蔵入りがほぼ確定していたモックを置いたら質問攻めにあい、いつのまにか期待の新製品に仕立て上げられてしまうというケースだ。

 こうした発表会を取材するメディアは、なるべく斬新な、これまで手あかがついていない製品を紹介して、読者の目を引こうとする。それゆえ、発売される見込みがほとんどない製品であるにもかかわらず、意図がうまく伝わらずに面白がられて記事化されてしまうことがある。事情を知る人員が昼食で席を外しているときにたまたま訪れたメディアが、よく理解していない担当者からヒアリングをして記事化……というパターンである。冗談のようだが、意外にある話なので侮れない。

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