新VAIOは“次世代プロセッサ搭載PCの完成形”を目指す――関取社長ロングインタビュー本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/4 ページ)

» 2014年07月23日 17時30分 公開
[本田雅一,ITmedia]

新生VAIO第1弾モデルは「次期プロセッサ搭載PCの完成形」を狙う

―― しばらくVAIO事業とは離れていたわけですが、VAIO株式会社の社長というポストは自ら手を挙げたのでしょうか?

関取氏 ええ、VAIO事業の売却という話を聞いて、とんでもない話だと思いました。私がVAIO事業のオペレーションをやっていた2007年までは、ずっと好調を維持しながら、ユニークな製品を作ることができていました。このまま放っておいていいのか? 再生させなければならないだろう。そう思って、自ら新会社のオペレーションをやりたいと手を挙げました。

―― その時点でVAIO事業再生へのシナリオは思い描けていたのでしょうか?

関取氏 まずは義憤の念があり、それが再生させなければ、というモチベーションにつながっていましたが、VAIO事業が過去最高益を出したのは2007年です。時代が変化しているとはいえ、(モデル数やターゲットなどの)絞り込みをかければ、再生の道はあると考えていました。

 何より社内活動として「安曇野へ集結してよりよい製品を」という体制作りをしたのは自分自身。設計するエンジニア、難しい生産ラインを立ち上げる技術者たちが、どれほどの力を持っているかを把握していましたから、きっとできると思いました。

―― 約7年もの間、VAIO事業を離れていました。目算とは異なる部分もあったのではないでしょうか? 一方で、実際に新会社を組織し始めて実感しているVAIOの強みもあると思います。どのような点がVAIO株式会社の強みになっていくのでしょうか?

関取氏 実際にVAIO事業に戻って来てみると、以前とは異なる状況だったことは確かです。しかし、VAIO事業再生の鍵は、何よりもよい製品を作ること。よい製品を生み出すための組織としては、全員とはいきませんが、純粋に技術力や商品開発の意欲のあるエンジニアが残ってくれました。

 また、安曇野の生産技術者たちは、本当に難しい設計のモデルの国内生産を支えてきた独創的なアイデアの持ち主たちです。シンプルに、真っ直ぐよい製品を作ることに向かって前に進める体制ができたと思います。とりわけソニーEMCSからの移籍者が多く生産技術に長けた体制になりました。

VAIO株式会社の本社 VAIO株式会社の本社は、ソニー時代からVAIO事業の拠点だった長野県安曇野市にある(今回のインタビューは新橋の同社東京オフィスで行った)

―― VAIO株式会社の発足記者会見では「組織が小さいことの利点も多くある」と話していました。例えば、どのような点でしょうか?

関取氏 ソニー時代と異なるのは、みんなが自分の主業務以外にも目配せをして、ときには手伝ったり意見を言いながらも、よりよい方向へと進めなければ会社が前に進んで行かないことです。

 しかし、一方で設計技術の人間が経営感覚を持って商品について考えたり、生産技術側から「もっとここは攻めた設計にして商品力を高められる」といった協業もやりやすくなります。大きな組織では、自分のテリトリーを守るために職務以外のことを理解しない方向に行きがちですが、小さな組織ならば組織全体を高めて行かなければ自分のテリトリーを守れません。

 例えば安曇野の本社ですが、1階は生産ラインや試作ラインなどがあり、2階がオフィスになっています。この2階は本社機能から商品企画、設計、生産、流通などあらゆる部門が物理的な壁を取り払い、同じ部屋に共存させて風通しをよくしています。もちろん、社長室や役員室などもありません。

―― VAIOは「高付加価値」に特化した製品作りへとフォーカスすると話しています。具体的には、どのような体制で高付加価値、高品質を実現していくのでしょうか?

関取氏 PC市場にはいくつかのセグメントがあります。まず、アフォーダブルな(購入しやすい)主に企業向けの製品です。これらはODMによる生産をパートナーが行います。

VAIO Fit 15E 15.5型ノートPC「VAIO Fit 15E」

 ただし、これまでは世界中に出荷するため、海外のODMパートナーから直接、各国の流通へとつなげていましたが、VAIOは国内だけの営業になりますから、一度、安曇野本社でワンストップをかけて最終的なOSのインストール、品質チェックなどを行ったうえで出荷します。現行機種では「VAIO Fit 15E」が相当する製品になります。

 もうひとつは“JDM”と社内で呼んでいるスタイルです。ODMでは設計をパートナーの生産技術水準に合わせて行う必要がありますが、もう一歩踏み込んで“Joint”で設計をパートナーと行うもので、ODMよりも一歩進んだものになります。設計マージンを詰めて、詰めるためにどう生産すべきかも含め、パートナーと話し合う。これは「VAIO Pro 11/13」で確立した手法です。

 これにVAIO Fit 15E同様、安曇野でのワンストップを入れることでさらに品質を上げられます(この安曇野での最終工程を同社では「安曇野FINISH」と呼んでいる)。

 最後に設計、生産を一体化させ、安曇野に商品企画、設計、生産までが相互に情報交換をしながら作り上げる「VAIOだからできる」ものづくりです。これは今、まさにエンジニアが開発をしている真っ最中です。

VAIO Pro 11VAIO Pro 13 11.6型モバイルノートPC「VAIO Pro 11」(写真=左)と13.3型モバイルノートPC「VAIO Pro 13」(写真=右)

―― すなわち真価が問われる安曇野組み立ての製品が登場するのは、現在設計中のモデルからということになります。登場は年内でしょうか?

関取氏 VAIO株式会社としてゼロから設計した1号機でその真価を問われるということは、もちろん意識しているので、VAIOの力を出し切った製品にします。ただし、製品の投入時期に関しては、我々だけでは解決できない部分(キーコンポーネントの出荷タイミング)もありますので、現時点ではなんとも言えません。

―― おそらくインテルの次期2in1デバイス向けプロセッサ「Core M」(開発コード名:Broadwell-Y)を前提とした設計をされていると想像しています。Core Mでは大幅に発熱が減るため、VAIOが得意としてきた「薄い」「軽い」PCを作るためのハードルが一気に下がるでしょう。

Core M 公開されたリファレンスデザインのCore M搭載モデル。12.5型ディスプレイを採用し、厚さ7.2ミリ、重量が約670グラムを実現した

 今は「Surface Pro 3」が薄いと話題ですが、それよりもずっと軽くて薄い、バッテリー駆動時間も長い試作機が、現段階でインテルからリファレンス設計として示されています。そうした中で、VAIOがどのように差異化できるとお考えでしょうか?

関取氏 プラットフォームが新しくなる際には、その要素(今回は発熱・消費電力の大幅な削減)を用いて、どのように商品の魅力へと転嫁させるかが、腕の見せ所となります。設計の自由度が高くなるのであれば、その要素を最大限に生かして、パフォーマンスとフォームファクタのバランスを取っていきます。

 単に薄い、軽いだけでなく、デザイン性、入力デバイスの使いやすさ、そしてフォームファクタ。この1号機から、「次世代プロセッサを用いたWindows PCの完成形」と言われるような提案を行います。

―― つまり、少しづつ設計を詰めて、デザインを変えながら熟成させていくのではなく、最初から頂点となる完成形と言える製品を突き詰めるわけですね。よりコストをかけ、突き詰めた設計を基礎に、従来より長いモデルサイクルとすることが狙いでしょうか?

関取氏 そうした要素もあります。そもそも、シーズンごとのモデルチェンジをVAIOは考えていません。シーズンではなく、顧客にとっての付加価値を高められるタイミングで、適切なアップデートを行っていきます。

 また、長く使っていただけることを強く意識した設計もポリシーの1つになっています。3〜5年は買い換えなくても満足できる製品として、長期間かけて設計・開発のコストを回収していこうという考えです。

 ただ、そのためには長期間、魅力を失わない製品にしなければなりません。そのために必要なことは、やはり「本質を外さない」といことです。

 ここでいう本質とは、おまけとしての機能ではなく、モバイルPCならば「モバイルPCにとって大切な要素、本質とは何か?」ということで、そこを見極め、ポイントを外さずに集中して開発力やコストを投入していきます。自転車操業的に次々に手を変え品を変えではやっていけませんからね。

※記事初出時、今後発売されるVAIOが搭載する次世代プロセッサについて言及がありましたが、VAIO株式会社から現時点で仕様は未定との連絡を受け、一部発言を修正しました(2014年7月28日10時15分)

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