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» 2015年02月27日 00時00分 UPDATE

牧ノブユキの「ワークアラウンド」:「この人気商品、他の売場でも販売すればいいのに」が実現しないワケ (1/2)

同じ量販店でPC売場のマウスを文具売場に持って行くなど、「これまである売場で展開していた製品を、別の売場で展開する戦略」は、簡単そうに見えて意外に難しい。そこには価格のズレやバイヤーのプライドなど、さまざまな要因が渦巻いている。

[牧ノブユキ,ITmedia]

「他売場への参入」は「異業種への参入」より難しい?

 かつて「異業種への参入」がトレンドになっていた時期がある。バブルが崩壊し、どの企業も先行きが不安視されていた90年代半ばから2000年代初頭にかけて、本業とは別の事業を開拓しつつある企業は、就活の学生に人気を得ていたものだ。

 例えば、ソニーが本業とはやや離れてソニー銀行を設立したのが2001年だったり、たまたま先日撤退が発表されはしたものの、JT(日本たばこ産業)が「桃の天然水」をはじめとする飲料水事業に乗り出したのが90年代半ばだったりと、各社の社史を見るとこの時期に「異業種への進出ブーム」があったことがよく分かる。もう少し後になるが、富士フイルムが化粧品事業を始めたのも2005年だ。

 こうした異業種への参入は、結果的に成功したケースもあればそうでないケースもあり、一概によしあしは決めつけられないが、10年、20年というスパンで持ちこたえているケースはざらにある。本業とはまったく別の事業に資本を投下する以上、数年そこらでは成功か否かは判断できないこともあるだろうが、10年ともなると不採算を続けることが許される年数ではないだけに、一定の成果は上げているとみていいだろう。

 さて、こうした異業種への参入とはまた別に、これまで量販店のある売場で展開していた製品を、別の売場で展開することで売上を伸ばすという戦略がある。例えば、PC売場向けに企画されたAVケーブルを同じ量販店の音楽売場に持って行ったり、マウスやマウスパッドなどコモディティ化が進む製品を文具売場に持って行くというパターンだ。

 これらはすでに販売実績のある製品を別の売場に持っていくだけなので、完全な異業種参入と異なり、ノウハウをためて一から製品を作るような困難さは皆無だ。最終的に商談がまとまれば、新しい販路向けにチラシなどを新規に作る費用が発生することはあるかもしれないが、それらは基本的に販促費から捻出するので、製品の原価に上積みされることはまずない。基本的には、すでに倉庫にある製品をそのまま持って行けば済む。

 ところが、こうしたハードルの低さにもかかわらず、「他売場への売り込み」は、意外にも失敗するケースが多い。その理由はなぜか。今回はこうした裏事情について見ていこう。

「安い製品」を嫌がるバイヤー、「2番手」にゴネるバイヤー

 すでに特定の売場で実績を上げているにもかかわらず、別の売場でうまくいかない理由の1つは「価格が合わない」ためだ。価格が高すぎて合わないわけではない。むしろその逆なのである。

 例えば文具売場では、PC売場から見ると驚くほど高い価格でマウスやマウスパッドが売られていたりするが(もちろん例外もある。あくまでも一般論だ)、こうした売場のバイヤーに「弊社のマウスやマウスパッドのほうが安いですよ!」とばかりに製品を売り込みに行くと、失敗する確率が高い。

 なぜ価格が安いとダメなのか。理由は単純明快、売上数量が変わらないのであれば、個々の製品は少しでも高い値段で売ったほうが、売上高は上がるからだ。例えば1000円のマウスパッドが月に100枚売れていたとして、これがもし800円に値下げされたら、売上額ベースでは125枚売る必要が出てくる。

 もし今、他社の安売り攻勢で販売数がジリ貧になっており、安くすることで売上数が確実に増えるならばそうした施策はありだが、マウスパッドがちょっと安くなったからといって売上が25%も伸びることは普通に考えるとあり得ないし、それだけ値段に敏感なユーザであれば、マウスパッドは家電量販店のセールなど、さらにお得な条件で購入しているはずだ。したがって、わざわざ安い商材に入れ替える意味がない。

 それなら売上ではなく、利益ベースではどうだろうか。例えば売価の30%が利益の製品があったとする。分かりやすいように具体的な数字を挙げるならば、売価1000円、仕入価格700円という製品を思い浮かべてもらえばいい。1個売る度に販売店は300円もうかる計算だ。

 ここにもし、これまで取引のなかった新規のメーカーが、同じく売価の30%が利益で、売価500円、仕入価格350円の製品を売り込みに来たとする。従来の製品と同じ品質でこの価格であれば、お金を払って購入するユーザーからすると大変お買い得だが、しかしながらこの条件で販売店のバイヤーが首を縦に振ることはない。

 理由は先ほどと同様で、売価・仕入価格が半分になれば、利益も半分になってしまうからだ。もしこの製品に切り替えることで売上数量が2倍以上に伸びるならば差し引きしてメリットのほうが大きいが、売上数量がそれ以下であれば、従来製品を従来の価格のまま売り続けたほうが安全というわけだ。

 ここまで読まれた方は、「じゃあ新規メーカーの製品を350円で仕入れて、従来と同じ1000円で売ればいいんじゃないの?」と思うに違いない。そうすれば1個売る度に650円もの利益が発生する。利益率でいうと実に65%、ボロもうけである。

 しかしこうした提案について、売場のバイヤーが首を縦に振ることはない。なぜなら、その製品は、別の売場ですでに500円で販売されているからだ。相場が確立している製品にかけ離れたプライスをつけると、客からは「あの売場は売価が高い」という烙印(らくいん)を押されかねない。

 したがって、よその売場ですでに“相場”が確立しており、新しく持ち込んだ売場の相場とズレがある場合、値段の調整は難しいことから、かえって売上を下げてしまいかねない確率が高くなる。たとえオープンプライスの製品であったとしても同様だ。

 また、こちらも無視できない要因なのだが、他の売場で成功を収めた製品を売り込むことで、ゴネるバイヤーは意外に多い。要するに「なぜ先に別の売場に持っていき、こちらの売場が後回しになったのか」と難癖をつけてくるわけである。

 特に同じ量販店の中で異なる売場、例えばPCアクセサリ売場で成功した製品をAVアクセサリ売場に持っていくような場合、バイヤーの力関係によっては、こうしたトラブルは度々発生する。実にバカバカしい話ではあるが、後追いで導入したとなると社内的には成功事例をマネしただけのように思われるので、プライドの高いバイヤーほどこうした図式を嫌がるのだ。

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