「Apple Watch」の圧倒的な完成度とそれでも拭えない不安本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/4 ページ)

» 2015年05月08日 12時15分 公開
[本田雅一ITmedia]

想像以上にライバルとの差は大きいが……

 ハンズオンでは完全に理解できなかった要素には、使い勝手の調整やアプリとの連動、実際にどのようなアプリがどう動作するのか、といった部分もあった。自分のiPhoneとペアリングし、普段使いのアプリとの連携の様子を知ることはできず、またフィットネス系のアプリや毎日の活動量を計測する機能は、短時間では評価できなかったためだ。

 しかし、結論から言うと完璧ではないものの、ライバルとは比較にならない完成度だ。理由は多岐に渡っているが、第一にApple Watchというデジタル機器が、ライバルのスマートウォッチ……例えば、Android Wearと比較したときに独立したコンピュータとしての役割が大きく割り振られていることを挙げたい。

 Android Wearは、Androidスマートフォンで受信した情報から腕時計側に「シール」として情報を配信して表示させる。Android Wear自身にも自律性はある程度あるものの、情報のやり取りはダム端末に近い印象を持っていた。

 Apple Watchもスマートフォン側で選別された情報の通知を受け、端的にそれをユーザーに知らせ、表示するという意味では大きくは変わらない。しかし、通知を受けてからの振る舞いがまったく違う。Apple Watchのコンピュータとしての自律性が高く、ユーザーからの操作に対してもリニアに応答してくれる。

 これがアナログ的な操作を助けるデジタルクラウン(電子竜頭)や、高精細のOLEDディスプレイ、操作感のよいタッチパネルと相まって、小さな画面・ボディにもかかわらず、インタラクティブな操作がやりやすい。Pebbleぐらいに割り切った構成ならば、どちらの手法がよいかは好みに依存する……と言いたいところだが、目指す方向性がよく似ているAndroid Wearと比べると操作時におけるストレスの差は明らかだ。

 例えば、Apple Watchでは情報の通知は上端からのスワイプ、より詳細なアプリ詳細画面のショートカットアクセスは下端からのスワイプで呼び出す「グランス」に分かれており、それ以外のアプリはホーム画面のアイコンをクリックする。アプリとのコンタクトを3レイヤーに分割しており、Android Wearの通知+左右スワイプによるシールの切り替えよりも目的の情報は探しやすい。

 またデジタルクラウンによるスクロールについても、小さい画面に情報を表示するスマートウォッチ向けとしては、タッチパネルとボタンに依存する多くのスマートウォッチに比べて情報へのアクセスが楽だ。

文字盤でデジタルクラウンを押すと表示されるホーム画面には、円形のアイコンがすき間なく並ぶ。タッチ操作に対応しているだけでなく、デジタルクラウン(電子竜頭)を回すことで、拡大/縮小が可能なほか、拡大し続けると中央のアプリを起動できる

文字盤で下端から上にスワイプすると、「グランス」にアクセスでき、特に頻繁に表示する情報の確認や設定が行える。この画面では機内モード、おやすみモード、消音のオン/オフ、そしてiPhoneを呼び出す機能が利用できる。ちなみに文字盤で上端から下にスワイプすると、通知を確認することが可能だ

 さらにスマートフォン側の設定も、Apple Watchアプリは複雑な連携をシンプルにまとめている。とりわけスマートフォンで受け止めた情報を、どの程度Apple Watchに通知するかの設定は細かく行え、Apple Watch対応iPhoneアプリ(Watch Kitと呼ばれる機能を用いたアプリで、対応しているとApple Watch側にもアプリが導入される)、非対応アプリに分けて設定が行える。

iPhoneのApple Watchアプリから通知の設定は細かく行える

 ただし、スマートウォッチをサポートする基本ソフト側の機能としてはよく整理されており、Apple Watch側での操作性、情報の切り分けは上手にできているものの、「できること」に関してライバルとの違いが大きいわけではない。

 Apple Watchに対する評価が分かれるのは、ユーザーインタフェースやシステムの実装といった面で大きな差を付けている一方、期待の大きさに対して機能面でのリードがあまり見られないためだろう。視点の置き方や評価の切り口で、この製品の見方は大きく変わる。

まだ使い切っていない「可能性」

 しかし高いインテリジェント性や、優れたユーザーインタフェース、竜頭操作に対する応答性のよさなどが、ユーザーや開発者、世の中全体の興味をひくのであれば、今後状況は改善していくかもしれない。Apple Watchが本当に手放せない道具になるかどうかは、対応アプリ次第だ。

 例えばiMessageでやりとりする相手に対して、アップルは手書きイメージの送受信や音声認識によるメッセージ送信(音声とテキスト変換両方を選べる)、それにアニメーションアイコンなどを簡単に返信することが可能になっているが、当然ながらアプリ側の対応に依存する。

 TwitterはApple Watchに対応しているものの、あくまでトレンドを見る程度の使い道にしか利用できない。LINEは新着メッセージのモニターと、スタンプ返信のみApple Watchから行えるが、まだ対応度は高くないように見える。

Apple WatchでのTwitterアプリ。小型ディスプレイなので一度に表示できる情報量は限られる。上下にスクロールしてタイムラインをチェックできる

 Facebookに関してはMessengerを含め、(評価時点では)まだApple Watchに対応しておらず、iOSの通知をそのままApple Watchで受け取るのみにとどまっている。

 iBeaconを用い、店舗に入店するとセール特価品のクーポンがもらえるといった機能も、iPhoneに届くとApple Watchでクーポンを開くことが可能だが、まだiBeaconを使った事例は一般的とは言えない。日本ではApple Payによる決済機能は、ごく限られた条件(対応国のクレジットカードを登録したアカウントで、グローバルでApple Payに対応した一部店舗で決済するなど)でなければ使えないため、「Apple Watchがどうしても必要」と思える状況には至っていない。

 これはフィットネス系のアプリケーションでも同じことだ。今後、Apple Watchと連動する活動量計とも接続され、記録データのアグリゲーションなどが行えるようになったり、トレーニングに関して細かなメニューやアドバイスが行われるアプリケーションが登場すれば、もっと可能性は広がるだろうが、まだデバイスとしての能力をアプリ側が使い切っていないように思える。

 Android Wearに比べると、Apple Watchははるかによいスタートを切り、アプリケーション開発者の興味をひいている。現時点では「機能面で差はあまり感じない」と書いたが、アップルがApple Watch対応アプリのコミュニティを上手に立ち上げることに成功したなら、結果的にそれが「できることの違い」として、Apple Watchの優位性になっていくだろう。

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