PCや周辺機器にとって「雷」は大敵だ。日本では7〜9月にかけて雷が多く発生し、落雷によって発生する高い電圧によって、IT機器に甚大な影響が及ぶ。高価な機器が使えなくなってしまうのも痛手だが、大切なデータが一瞬で破壊されて読み出せなくなってしまうのは、業務ではまさに致命的と言える。
落雷が厄介なのは、同じ施設内の機器はまとめてダメージを受ける可能性が高いことだ。つまり複数の機器が同時に故障する危険があるのはもちろん、データがそのバックアップもろとも失われる危険もある。たとえ過電圧には耐えられたとしても、それによって発生したブレーカーのシャットダウンでディスクが破壊されるなど、間接的な被害も起こりやすい。
いずれにせよ、単一の機器が経年劣化などで故障するのに比べて、その被害のスケールは桁違いだ。加えて言うならば、落雷による機器の故障は、その多くが保証期間内であっても有償修理となるので、金銭的な損失も大きくなりがちな傾向がある。
さて、雷による被害やその対策を論じる際によく登場するキーワードが「雷サージ」だ。雷サージについて知っておきたい要点は以下の3つだ。順に説明していこう。
雷が付近に落ちると、建物に引きこまれている電源や電話線、アンテナなどを伝って、瞬間的に高い電圧が流れ込む。どこから入り込むかにもよって電圧は異なるが、PC関連の機器がつながっている低圧配電線を経由する場合はおよそ3000〜5000ボルト、高ければ1万ボルトにもなると言われている。家庭用の電源は100ボルトないしは200ボルトなので、その差はじつに数十倍だ。この高い電圧によって機器の基板が破壊され、故障に至る。
この過電圧のことを俗に「雷サージ」と呼ぶわけだが、雷サージを防ぐ最も優れた方法は、電源ケーブルやLANケーブルなど、あらゆるケーブルを抜いてやることだ。雷サージは大気中を伝って侵入する場合もあるので、ケーブルを全て抜けば完璧というわけではないが、主な経路であるケーブルがなくなることで、雷サージが侵入する確率はかなり低減できる。ちなみにケーブルはそのままで機器の電源だけをオフにしても、侵入経路はそのままなので、あまり効果はない。
ただし、雷が鳴っている最中に、こうしたケーブルを全て抜いて回るのは、かなり危険な行為である。というのも、ケーブルに触れている最中に万一雷サージが発生しようものなら、その高い電圧が人体に流れてしまい、それだけで死に至る危険もあるからだ(雷鳴が聞こえている段階で既に危険なレベルに達していると言われる)。
こうしたことから重宝されるのが、雷サージ対応の電源タップや無停電電源装置(UPS)だ。雷サージを吸収する性質を持つ素子を、この雷サージが通過する経路に仕掛けておけば、いざ雷サージが侵入してきても、機器の手前で吸収されて消滅する。主に電源ケーブルを経由して侵入してくる雷サージの性質を考えると、電源タップや無停電電源装置などの機器にこの雷サージ吸収素子を内蔵しておけば、効果的というわけだ。
この雷サージ吸収素子は「バリスタ」と呼ばれるが、どの程度の電圧まで耐えられるかはバリスタごとに決まっており、対応製品に「最大サージ電圧」という値で記されている。例えば、最大サージ電圧1万2500ボルトと記載されていれば、それ以下の雷サージには基本的に耐えられるというわけだ。
逆に言うと、雷サージの電圧がこれを超えてしまうと、いかに雷サージ対応の製品に接続されていても、効果はない。またここまで見てきた雷は「誘導雷」と呼ばれる、付近への落雷によって発生するタイプだ。対象そのものに直接落ちる「直撃雷」では電圧が数百万ボルトにも達するので、どれだけ高性能なバリスタを搭載した雷サージ対応製品を使っていても、効果は見込めない。
それゆえ、SOHO/中小企業レベルで可能な雷対策というのは、前述の誘導雷への対策に限られる。直撃雷については、むしろ建物をいかに落雷から守るかというレベルで論じられる問題であり、末端でどれだけ対策をしても効果はないわけだが、頻度から言ってもそう頻繁に発生するわけではないため、雷の度に広範囲に影響を及ぼす誘導雷に絞って対策を行っておくことは、十分に意味がある。
なお、各社が雷サージ対応製品に表記している最大サージ電圧は主にJEC210、もしくはJEC212という規格に基づく測定値となる。測定方法について特に言及されていない場合は、この方式であると考えて間違いない。IEC6100-4-5という規格での測定値もあるが、こちらはJEC210/212に比べて低い値が出るのが一般的だ。JEC210/212と併記されることがほとんどで、単体で記載されることはあまりない。
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