「センセイこちらです」
私はやや上ずった声でそう言いながら、秋葉原の中央通り沿いにあるゲーミングPC専門店「G-Tune:Garage秋葉原店」に足を踏み入れた。
照明を抑えた薄暗い店内に最新ゲームの試遊台がずらりと並ぶ見慣れた光景――2カ月前の恥辱にまみれた記憶が蘇る。格ゲー界の最底辺で起きた歴史的な敗北。私は大きく息を吸い込み、背後に立つ小柄な女性に「お願いします」と声をかけた。店内を興味深そうに眺めていた女性は、バッグからアーケードコントローラーを取り出して軽く頷く。復讐の時が来たのである。
ここで時間を少しだけ巻き戻し、これまでのいきさつを説明しよう。以前記者は、マウスコンピューターのゲーミングPCブランドである「G-Tune」の担当者に、人気の格闘ゲームタイトル「ストリートファイターV」で対戦を挑み、本番前の練習対戦で惜しくも敗れたのだった。
対戦相手は「自走のヤス」こと安田氏。身長180cmを超える巨漢ながら、ストリートファイターVではキャミィを使い、軽やかな動きで相手を翻弄するプレイスタイルだ。あくまで練習対戦ではあるが、屈辱的な敗北だったことは認めよう。安田氏の見た目とキャミィのギャップに軽いいらだちを覚え、平常心を失ったのも敗因の1つだったかもしれない。
そもそも記者は格闘ゲームを勘違いしていた。上級者を自認する知り合いに聞いたところ、格ゲーはFPSのように反射を競うというより、キャラ固有の技の組み合わせで互いの選択肢を狭めていき、最後は“必然的”に勝敗が決まる戦略的なものらしい。広い選択肢から瞬時に有利な道筋を見つけ、超早指しの将棋にも似た連続の中で、相手の心理を読み、決定打を与える――最短フレームで確実に狙った技を出すことはおろか、そもそもどんな技があるのか知らない時点で記者はスタートラインにさえ立っていなかったわけだ。
ならばどうするか。冷静さを装って分析っぽいことをしてみるが、安田氏のドヤ顔を思い出す度に頭を抱えて叫び出したい衝動に駆られる。くっそヤスマジゆるさん。そして記者はおもむろに電話をかけた。
編集G 安田さんですか。どーもどーも、先日はありがとうございました
安田 いえいえ、こちらこそ。わざわざ来てもらったのに面白い結果にならなくてすみません
編集G あー、それで、本番の対戦についてなんですけど
安田 はいはい。決着はもうついてますが、再戦を希望してましたね
編集G ……本番まであまり時間がないことですし、私も練習時間があまり取れなくて、大変申し訳ないんですけど、これ、助っ人ありにしませんか?
安田 プレイヤーを代理で立てるってことですか?
編集G はい。私が下手すぎて、話的に面白くなりづらいので
安田 そうですねぇ、結果見えてますし
編集G (くっ……)そうなんですよーははは
安田 まあそういうことなら仕方ないですね、それでもいいですよ
編集G ありがとうございます!
くくく、計画通り
こうして安田氏に助っ人ありの条件を取り付けた筆者は、G-Tune:Garageからほど近い場所に店舗を構えるアキバの老舗ゲーマー向けショップ、パソコンSHOPアークを訪れた。餅は餅屋。同店スタッフは店の特色からガチゲーマーが多く、特にアク子さんの二代目絵師であるひほすけこと野沢さんは、自他共に認める格ゲーマニア。女性限定大会とはいえ優勝経験もある。代理として立てるには申し分ない。
野沢さんは以前の対戦を記事で読んでいたとのことで、記者の申し出に快く応じてくれた。
「でもこれ、もともとG-Tuneさんとの企画なんですよね。いちおう競合店になるわけですし、ウチ(アーク)が出てもいいんですか?」(ひほすけ)
確かにそう言われると何か一線を踏み越えているような気がしないでもないが、涙目になる安田氏の顔が見られるなら、そんなことは些細な問題に過ぎない。
「大丈夫です。センセイ、やっちゃってください」(編集G)
――そしてついに復讐の時が来たのである。
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