インタビュー
» 2017年03月06日 16時30分 UPDATE

異色のPlayStation VR向けゲーム「ヘディング工場」ができるまで (1/3)

PlayStaiton VR向けに「ヘディング工場」をリリースしたゲーム制作会社・ジェムドロップに新作の見どころやコンテンツ開発の苦労、開発環境を聞いた。

[広田稔,ITmedia]

 日本でVRヘッドマウントディスプレイといえば、PlayStation 4につないで使う「PlayStation VR」が圧倒的な知名度を誇る。そんなPS VR向けに2月17日、ジェムドロップが「ヘディング工場」というヘディングアクションアドベンチャーゲームを発売した。

 その名前の通り、コントローラーを一切使わず、操作がヘディングのみというかなりユニークな設定のタイトル。プレイヤーはアミューズメント施設にあるライドマシンのような板に乗って自動で前進し、先導する砲台キャラが放ってくるボールをヘディングで返して的に当て、パズルを解いてステージを先に進める。空に浮く幻想的な城の美しさ、ヘディングで的に当てる楽しさなど、VRならではの体験を引き出した良質なゲームだ。

名前だけ聞いても何がなんだか分からないPS VRタイトル「ヘディング工場」

 ジェムドロップは、「いけにえと雪のセツナ」や「STAR OCEAN Second Evolution スターオーシャン2 セカンドエヴォリューション」などを手がけてきたゲーム制作会社。そしてヘディング工場はPS VR向けで初めての自社開発タイトルになる。

 今回、何をコンセプトに制作し、どこに苦労したのか。さらにその現場では、どんなPCが使われているのか。代表取締役である北尾雄一郎氏をインタビューした。

ジェムドロップ代表、北尾雄一郎氏に話を聞いた

ヘディングだけなので万人が遊べる

── まず始めに「ヘディング工場」がどんなゲームなのか教えてください。

北尾 すごく簡単にいうと、アミューズメント施設にあるライドアトラクションってありますよね。何かに乗せられて、ずーっと移動して、周囲を見てその変化を楽しめる。さらに銃を撃って周囲にいる敵を倒せるタイプもあります。そうしたライドものと同じで、向こうからボールがポーンって飛んでくるので、ヘディングで返して、いろいろなものを壊したり、謎を解いたりして先に進めて行くゲームになります。

ライドアトラクションとヘディングを組み合わせたユニークな新感覚VRゲーム

── 名前の「ヘディング」は操作で分かるのですが、なぜ「工場」なんでしょうか。

北尾 パッと聞いて何するゲームかなんとなく分かるけれど、何か謎みたいな名前にしたかったんです。元々、2015年の東京ゲームショウにヘディングで操作するVRのデモを出展したところ、それが好評で来場者にもすんなり遊んでいただけた。そのデモにも「工場」って名前が入っていて、じゃあ製品にしてみようと大幅に手を加えて出来上がったのが今の「ヘディング工場」です。

── なるほど。しかし、キャラクター色が強いタイトルが目立つ日本のVR業界において、コントローラーを使わないところも、幻想的な雰囲気というのもなかなか独特ですよね。

北尾 万人が遊べる作品に仕上げたかったんですよね。リアルな世界の再現を目指したり、女の子が出て来てニヤニヤできるゲームって、放っておいてもみんなが作るだろうと思っていて。でも海外展開を考えたときに、こうしたタイトルはそのまま持っていけないことも多い。じゃあ、全世界の人に遊んでもらえるようにするためにはどうすればいいのかと突き詰めて、ゲーム中に文字がゼロであるとか、チュートリアルがまったくないという風に仕上げていった感じです。

操作はゲーム内の砲台キャラクターが放つボールを打ち返す「ヘディング」のみ

── 体験すると分かりますが、文字どころか、最初のタイトル画面やチュートリアルすらないんですよね。それが興味深かったです。

北尾 チュートリアルは、ゲーム本編に組み込まれてる感じですね。例えば、ソーシャルゲームだと「ここで○○しよう」と文字で丁寧に解説してくれますが、「ヘディング工場」ではふんわり伝わるようにしてあります。過去に展示会でも、海外の方が体験するときに説明なしでHMDをかぶせても勝手に遊んでくれるんです。

── それはすごい。クリアまでのプレイ時間はどれくらいを想定していますか?

北尾 だいたい2〜3時間くらいです。一応、周回要素もあるので、知識ゼロで極めようとしたら、3〜4時間は軽くかかると思います。とにかく酔わないように作っていて、2016年の東京ゲームショウに4日間展示して、約300人のお客さんに体験していただいたときでも、途中で気持ち悪いと言ってHMDを外す人は0人でした。

── ライドもののようにプレイヤーの体が動いていないのに視界だけ進んで行くタイプはVR酔いしやすい気がしますが、どういった工夫で防いでいますか?

北尾 すごくゆっくり移動したり、急激なカーブをなくしたりとか……。そもそもライドものなので、次どこに移動するか目で見て予想しやすい。このため、三半規管と視覚とのズレが起こりにくいんです。それも含めて酔わないように作っています。

── 興味深いです!

北尾 とはいえ、当初やっぱり移動し始めや止まるときに気持ち悪かったりしたんです。最初はゆっくり止めたほうが気持ち悪くならないだろうと思っていましたが、それが逆で、ピタッと止まったほうが酔わないんです。推測ですが、車でブレーキを踏むときも、どれくらいの速さで止めるのか運転している側じゃないと分かりづらい。それだったら、ピタッと止まってくれるほうが気持ち悪い期間が短くて済む。こうした感覚的な部分はトライ&エラーを重ねて詰めていきました。

── 制作期間はどれくらいでしたか?

北尾 2年前の東京ゲームショウで作ったものをいったん破棄しているので、だいたい構想と制作で1年くらいです。私とプログラマーの2人で半年くらいかけて試作し、それを元に2016年の7月ぐらいからデザイナーたちも加わってブラッシュアップしていった感じです。ストーリーやキャラクターも後付けで考えていきました。

── VRでどういう体験が面白いのかというフレームワークが先にあって、その後にストーリーやキャラを加えていくというのは、通常のゲーム制作過程と違う印象です。

北尾 他社さんでもそうした例を聞いたことがあります。最近のコンテンツ重視のゲームだと、まずキャラクターやストーリーありきで、じゃあRPGにするからバトルシーンを……という感じですが、そうではない。

 今回は特にVRなので、既存のゲームと入力も出力も装置が違うし、みなさんにとって多分初めての体験になるので、そこにキャラクターをあてはめてもうまく噛み合わない予感がありました。VRに親和性の高い小説やマンガをモチーフにする手もありますが、よほどうまく作らないと「やっぱ違うよな」と思われてしまいがちです。なので、ストーリーやキャラ設定からスタートしない作り方を選びました。

VR HMDを通して視界に広がる幻想的な風景。何の説明もなく別の世界に放り込まれたような気分で謎を解いていく

── チュートリアルや文字がないのも、そうしたストーリーやキャラありきではないからなせる技なのかもしれません。

北尾 今、現実世界でお話ししているのが、ゲームの世界になってしまうと目の前にウィンドウがビヨーンって出て来て、「やぁ!」とか文字が現れるわけです。何か行動するときにも「トイレに行く」とか選択肢出て来たり、周囲のキャラにもウィンドウが現れていちいち「君はトレイに行きたいのかい? トイレはあっちだよ!」と教えてくれたり。そういうのを全部排除したかったんです。

 だからチュートリアルもタイトルも、一切画面が出て来ません。勝手にオートセーブ、勝手にオートロードなので、やめたいときに外せばいい。コントローラーも一切使わないし、文字も出していない。現実世界と同じ状況に落とし込みつつも、リアルな生活とは違う世界観を目指しました。

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