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» 2017年03月29日 06時00分 UPDATE

本田雅一のクロスオーバーデジタル:今のPC市場で「匠の技」は本当に必要か 富士通の島根工場を訪ねて (1/2)

富士通のPC事業が富士通本体から独立し、FCCLとなって1年。ノートPC製造拠点の島根富士通を公開し、長年培った「匠のモノづくり」をアピールした。

[本田雅一,ITmedia]

 2月のことだが、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)はノートPCの生産拠点である島根県出雲市の島根富士通で、富士通本体から独立して1周年を迎えるにあたって報道関係者向けイベントを開いた。招待された報道関係者は約80名。

 参加者の幅は実に広く、1990年代後半にシリコンバレー取材を共にした新聞社の重鎮とも久々に顔を合わせて驚いたほどだ。富士通側の面々も、2000年代前半に取材などで出会った幹部が勢ぞろいしていた。まさにWindows 95以降の富士通PC事業を凝縮したかのような面子だ。

FCCL 1 島根富士通のPC組み立てライン

「匠の技」で少量多品種の混在生産に最適化

 このイベントにおけるテーマを一言で言えば、「匠(たくみ)」であった。

 「匠の技」や「匠のアイデア」などにより、日本発で独自性のあるPC事業が展開できる。さまざまな捉え方があるだろうが、筆者はそう受け取った。邪推するならば、昨今紙面を賑わせている同社PC事業のLenovoへの事業統合検討という話と関連があるのかも……となるが、ここでそうした話はするつもりはない。

FCCL 2 イベントでは、富士通PC事業における「匠の技」が強調された
FCCL 3 匠の技の背景には、国内で開発、製造、サポートまで全て完結する富士通のスーパーバリューチェーンがある

 FCCLのビジネスに関して言えば、企業向けを中心としたPC事業において、適切な運営を続ければ採算は取れるだろう。また、Lenovoとの事業統合があったとしても、富士通本体とのつながりや、企業向け需要の安定性などを考えれば、決してその将来は暗いものではない。

 しかし、匠の技でコンシューマー向けPC市場でも……という文脈になると、匠の技の源泉である「国内生産」にどこまで理由付けができるのか、という疑問が生じるのは自明だろう。

 なぜなら、FCCLが富士通とは独立した企業だからだ。富士通はさまざまな企業向け、あるいは特定事業者向けのソリューションを持っており、その中で独自性を発揮し、部分的にハードウェアとの統合を行いながら差異化をする。あるいは富士通が担当する案件で必要なハードウェアをそろえるといったことはあるだろう。

 しかしPC事業単体として見たときに、どこにFCCLの独自性が生かされるのか、という点については疑問を感じる部分もある。FCCLのPC生産設備がダメだと言いたいのではない。出雲工場におけるPC組み立てのラインは、実に効率的で生産性という面でトップクラスであることは間違いない。

 現在のPCは仕向けごとに、あるいは個人向けならばオーダーごとに仕様が異なるのが当たり前だ。同じ商品を大量に作るのと、多種多様なモデルをそれぞれに異なる仕様で生産するのには大きな違いがあるが、出雲工場はまさに少量多品種の混在生産に最適化された生産ラインと部品供給システムが行われ、組み立てスキルを向上させることで生産サイクルを詰めていた。

FCCL 4 組み立てラインは混流生産が特徴だ。1本の組み立てラインで1種類の製品を生産するわけではなく、仕様の異なる複数の製品を1台ずつ生産できる。例えば、PCとタブレットのパーツが交互に流れてきて、それぞれ組み立てる。製品によってラインを組み替える必要がなく、少量多品種の生産に適している
FCCL 5 混流生産により複雑化する部品のピッキングを間違わないよう、作業者はカートに搭載されたタブレットの指示に従い部品をピッキングし、RFIDリーダーで照合する仕組みを取り入れている
FCCL 6 VPS(Visual Product Simulator)によるシミュレーションを活用し、設計段階で組み立てにおける問題点を解消。VPS化により、組み立て手順書の作成工数削減も果たした
FCCL 7 Intelとの協業によって、修理工程内の状況をセンサーで可視化。不具合品の所在やステータスを表示し、作業の優先順位を可視化することで、時間短縮を図り、出発時間の早いトラックも定刻で運行できるようになったという
FCCL 8 ノートPCのメインボードなどに使われるプリント基板も多品種で小ロットの生産に対応。写真は基板を加熱してはんだ付けするリフロー炉
FCCL 9 基板の検査、試験、分割工程ではロボットの活用による無人化も実現。ロボットにより人員を削減する意図ではなく、機械の稼働と人の作業を組み合わせた効率改善を目指しているという
FCCL 10 カバー印字やラベルの貼り付けといった外観のカスタマイズにも対応。カバー印字はシルク、インクジェット、レーザーなど用途に合わせて複数の選択肢がある

FCCLが誇る「匠のモノづくり」はAppleと真逆か

 しかし疑問を持たれているのは別の部分だろう。果たして今のPC市場において、こうした匠の技が本当に必要なのか、という素朴な疑問だ。

 例えば先日、朝日新聞がシャープの国内テレビ生産撤退という報道(シャープは否定している)を行い、「世界の亀山モデルに幕」といった論調の記事を掲載した。筆者は本件の真相を知る立場にないが、そもそもテレビという組み立て後の製品に対して「世界の亀山モデル」と報道していることに強い違和感を持った。

 なぜなら、テレビにおいて生産地が品質をあらわす時代はとっくの昔になくなっていたからだ。シャープが「亀山モデル」と吹聴していたのは、亀山に作った当時最新の液晶工場で作られる高品位な液晶パネルで作ったテレビであることを訴求するためだった。組み立てラインの所在地を訴求したわけではない。

 一方で、2017年いよいよ市場に出そろい始めているOLED(有機EL)テレビを見回すと、どれも同じパネルメーカー(LG Display)から調達しているものの、メーカーごとに画質は驚くほど異なる。では、生産が各メーカーの拠点か、と言えばそうだとは限らない。中国のパートナー工場で生産している例など、自社であっても日本国内というケースはほとんどない。

 つまり、テレビという商品に関して言えば、メーカーごとの画質・品質の差は現在でも有意に存在するものの、生産地による差異は必ずしも商品力に直結していないとも言える。ではPCはどうなのか、という話なのだと思う。

 事業規模や立ち位置が異なるため、直接の比較に意味はないが、例えばAppleはむしろMac製品の生産から「匠の要素」を積極的に排除しているように思える。唯一異なるのはMac Proだが、Mac Proだけは米国内で生産されており、また台数が限定的という点で他の製品とは決定的に違う。

 MacBookあるいはMacBook Pro/Airは、マシニングセンターを用いて高精度に製作された筐体を基礎に製品が組み立てられている。マシニングセンターに対する投資は大きいが、高精度な加工ができるうえ、細かな修正をかけやすい利点がある。モデルチェンジする場合でも、大幅な設計変更でなければちょっとしたプログラムの変更だけで対応できる。

 組み立てに関しても、Appleは長らく「組み方」をほとんど変えていない。アイソレーションキーボードを用い、筐体底面を上向きにして部品を組み上げていく、業界では「裏組み」と呼ばれる組み方を始めたのはAppleだったと記憶しているが、この裏組みによる組み立て方法は初代MacBook Air(あるいはその周辺)から始め、細かな調整は入っているものの、かなり長期間にわたって似た組み方で作られてきた。

 これはガラス保護カバーを前面に配置した液晶ディスプレイ部も同様で、MacBook Proで採用して以来、液晶ディスプレイ部と本体部の勘合でゴミなどの侵入を防ぐパッキンの配置手法なども含め一貫している。

 AppleもBTOによる仕様違いなどはあるが、極力、組み立て部分には作業者のスキルを求めない作り方を徹底しており、匠の技が存在しなくとも、安定して高品位の製品を出荷できる体制を整えている。

 もっとも、こうした作り方ができるのは同社が同じプラットフォーム(OS)内で競合を持たず、数少ないモデル数、限られた仕様の選択範囲でもグローバルをカバーできるからであり、Windows PCを生産する富士通に当てはまらない。だからこそ、国内での生産にこだわる必要はないのではないか、というのが、多くの傍観者が感じていることではないだろうか。

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