連載
» 2017年06月07日 06時00分 UPDATE

本田雅一のクロスオーバーデジタル:Appleは今後も開発者に支持されて勝ち続けられるか WWDC 2017の着眼点 (1/2)

珍しくハードウェアの発表が目立ったWWDC 2017の基調講演。うわさされた新製品が続々と登場する中、筆者は別の視点から基調講演を見ていた。

[本田雅一,ITmedia]

 米Appleが年に一度、自社プラットフォーム向けの開発者を集めて開催する開発者会議「WWDC 2017」が、カリフォルニア州サンノゼ市にあるコンベンションセンターで開幕した。期間は6月5日から9日(現地時間)までだ。

WWDC17 「WWDC 2017」初日の基調講演で新製品群を発表する米Appleのティム・クックCEO
WWDC17 カリフォルニア州サンノゼ市にあるコンベンションセンターは、WWDC 2017仕様の外観に

 現在、Appleは「iPhone」と「iPad」向けの「iOS」、「Mac」向けの「macOS」、「Apple Watch」向けの「watchOS」、「Apple TV」向けの「tvOS」という4つのプラットフォームを展開。それぞれについて、2017年に施される改良の一部を説明した。

 加えて例年にないほど多くのハードウェア製品も同時発表している。開発者向けイベントらしく、ワークステーションクラスの高性能を持つ「iMac Pro」を年末に発売することを発表したほか、通常の「iMac」も順当にハードウェアを第7世代Intel Coreにアップデート。「MacBook」および「MacBook Pro」も同様だ。MacBookについてはプロセッサの強化だけでなく、キーボードがMacBook Proシリーズと同等のものに置き換えられている点も大きい。

WWDC17 5KディスプレイやXeonプロセッサ、Radeon Vegaといったワークステーション級スペックに、ブラック系ボディーを採用した「iMac Pro」

 その他、パソコンに近い作業性を目指してファイルマネージャーやドラッグ&ドロップ操作、マルチウィンドウ操作にマルチタスクなどを新しい「iOS 11」と共に実現する「iPad Pro」の新型機も注目される製品だ。

WWDC17 10.5型ディスプレイ搭載の新型「iPad Pro」も登場。「Smart Keyboard」には日本語キーボードが追加されている

 360度取り囲むように配置した6つのマイクアレイと7つのビーム型ドライバを用いたユニークかつインテリジェントなホームオーディオ製品「HomePod」も、その詳細は明らかではないものの、興味を引く製品となっている。

WWDC17 ウワサのSiri搭載スマートスピーカーは「HomePod」という製品名に。ホームアシスタント機能より、オーディオ面でのこだわりの説明に時間が割かれた

支配側に回ったAppleを開発者はどう見るか

 しかし筆者は今回、別の視点でWWDC 2017の基調講演を見ていた。

 自由な発想力を生かしたアイデアをソフトウェアの力で具現化し、新しい挑戦を続けていきたいーーそんなエンジニアたちにとって、Appleは今後も心地よい、あるいはカッコいい、先進的でチャレンジしがいのある「場」を提供できるのか。Appleの元でそうした場が生まれていきそうだという期待感を持ってもらえるようなメッセージを発信できるのか、という視点である。

 現在のWWDCは、沈みかけた船(昔日、最悪期だったApple)の元に集ったMacとAppleに忠誠を誓う開発者の集会ではない。もちろん多くのイノベーションにより階段を駆け上がったAppleにエキサイトし続けている開発者もいるだろうが、現在のAppleはデジタルワールドの中における「支配者」側に回っている。

 筆者はMicrosoftの取材も長く行ってきたが、今のAppleがもたらしているプラットフォーマーと開発者の関係性としては、Windows 95によるイノベーションをWindows 2000〜XP(およびWindows Server 2003)の時代に、1つの完成形として結実させたころのMicrosoftにも近い印象を受けている。

 すなわち、安定したビジネス基盤を支えるプラットフォームとしての慎重さや節度、インストールベースを守っていかねばならない側面と、開発者の持つ発想力を具現化するためプラットフォームの進化をけん引していくイノベーターとしての側面の両方を求められ、バランスを取らねばならない局面に来ていることだ。

WWDC17 iOSとアプリエコシステム、そしてiPhoneやiPadといった同OS搭載デバイスの成功により、デジタルワールドの中における「支配者」側に回ったApple

 もっとも、別の視点から見ればMicrosoftとAppleは全く異なる状況にある。

 MicrosoftのWindowsは個人向けパソコンの基本ソフト(OS)を出発点に、組織を支え、企業全体を支え、そしてクラウドの基盤となる技術へと向かった。

 「Surface」などの事業にみられるように、「個」から遠ざかりすぎないようにはしているものの、軸足はよりエンタープライズやクラウドにある。これは彼ら進んできた道を考えれば理にかなった方向だ。個人ユーザーの視点から距離が遠くなったとしても、彼らとしては理にかなった方向で進んでいる。

 一方、Appleの軸足は個人向けの製品だ。iPhoneはもちろん、ビジネスパーソン向けに劇的なアップデートが発表されたiPad Proも個人にひも付く商品特性を持つ。ユーザーとの接点を大切にし、そこでの体験を丁寧にプロダクトデザインという形で演出するが、それだけでは不十分だ。そこにいくばくかのスパイス(多くの人は何らかのイノベーション、ライフスタイルの変化を願う)を振り掛けることが、個人向け製品には重要となる。

 なぜなら、パソコンであれ、スマートフォンであれ、タブレットであれ、コンピュータをより魅力的なものにするのは、アプリケーション開発者の発想力だからだ。

 画期的なコンピュータ製品、開発環境、ハードウェア、それらの組み合わせに開発者が集い、楽しみながら自らの発想を具現化していくことで、プラットフォーマーが想像もしていないような新しい用途が開拓されてきた。

 古くはIBMやDEC、Microsoft、Appleなどがプラットフォーマーとして成長したのは、開発者たちにとって魅力的な環境を提供してきたからに他ならない。言い換えるならば、新たな発想力を持つ新しい世代の開発者たちを引きつけられるプラットフォームでなくなってくるとモーメンタムは急速にしぼんでいき、保守的な事業スタイルへと移行していかざるを得なくなる。

       1|2 次のページへ

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

この記事が気に入ったら
ITmedia PC USER に「いいね!」しよう