Apple Watch Series 3先行レビュー 林信行が読み解く「デジタルダイエットの提案」(1/4 ページ)

» 2017年09月20日 20時00分 公開
[林信行ITmedia]

 Apple Watchに第3世代目となるSeries 3が登場した。より高性能で、それでいて省電力版の上り下りなどで上下移動が分かる新センサーの搭載も目を引くが、最大の目玉はやはりセルラーモデルが追加されたことだろう。

新たにセルラー通信モデルが追加されたApple Watch Series 3。セルラーモデルはデジタルクラウン(リュウズ)の先が赤くなっているのが特徴だ(Photo by 保井崇志)

 これはApple Watchにとって大きな転換点だ。スマートフォン依存を軽減し、iPhoneなしでもほぼ1日過ごせる。さらにはあなたの健康状態を学習し、見過ごしていた身体の危険信号を教えてくれるかもしれない。既に腕時計業界で売上高世界1位となったApple Watchだが、これからはますます手放せない人が増えていきそうだ。

スマホ漬けからの解放:デジタルダイエットを提案するApple Watch

 Apple Watch Series 3は、この製品のターニングポイントとなるモデルだ。だからこそ、まずは改めて製品の元来のコンセプトを振り返りたい。

 初めての携帯電話を手にして「いつでも、どこでも」つながることの便利さと安心感を知ったとき、多くの人はもう後戻りはできないと思ったのではないだろうか。しかし、時代は流れ、これが世界の日常になると少し変化が出てくる。仕事でも遊びでも1日中、スマートフォンの画面を見ている人が増え、恋人や友だちとの食事中もスマホをいじっている人、「歩きスマホ」で人に迷惑をかける人、自ら怪我をしてしまう人たちもいる。

 便利だったはずの「いつでも、どこでも」は、いつのまにか情報中毒を引き起こし、我々の日常から「何もしない時間」の豊かさを奪っていった。

 Apple Watchは、元々、そうした情報への過剰依存から人々を解き放ち、精神と肉体のバランスを再調整しようと誕生した。既にあった他社のスマートウォッチの多くは、さらなる「便利さ」と「新機能」の追加を売りにしていたが、Apple Watchはその逆でむしろ便利さと情報を間引くことが目的だったのだ。

 iPhoneがとなりの部屋やカバンの中にあっても、大事な連絡があればApple Watchが腕をトントンと叩いて教えてくれる。だからこそ、iPhoneと少し距離をおいた状態でも安心していられる。そんな適度な距離感を助けてくれる製品として作られている。もちろん、それ以外にも役割はある。

Apple Watchをつけていれば、iPhoneはカバンの中に入れっぱなしでも大事な通知を見逃さない。1日の通知受信量が多い人は快適に使うためにも、まずは通知の断捨離を行おう(不要な通知はOFFにしよう)

 どうせ腕につけっぱなしにするなら、日々の生活の中で運動量やそれに対する身体の反応(心拍数)を記録し、悪影響のある座り過ぎを注意したり、ストレスが溜まる前に深呼吸を促したりと、身体のメンテナンスも行なってくれる。

日々の何気ない生活の中にも身体にいい動きがある。Apple Watchはこれを計測し赤、緑、青の3色のリングで表してそうした動きを促す

 Apple Watchの画面は小さいが、マイクやスピーカーを内蔵し、Bluetoothヘッドフォンにもつながるので、電話がかかってきたときに慌ててiPhoneを探さなくても、いったんApple Watchで電話を受けて、必要ならiPhone経由に通話を切り替えられる。Apple Watchを使っている人は、部屋から部屋へ移動するときに、いちいちiPhoneを充電ケーブルごと持ち歩く必要から解放され、必要な時だけ取りに戻るという使い方に徐々に移行しているはずだ。

Apple WatchとBliuetoothヘッドフォン、特にApple製のAirPods(やBeatsの最新ヘッドフォン)はベストパートナー。トントンと叩くだけでSiriを呼び出してさまざまな質問や命令をすることができ、腕を見ずにSiriの声で答えを知ったり、音楽も楽しんだりもできる

 iPhone依存度がさらに低くなってくると、iPhoneを自宅に置いたままApple Watchだけを腕にはめてジョギングや散歩に出かける人も出てくるかもしれない。Apple Watchは、Wi-FiやBluetoothでiPhoneと接続できなくなっても、単体で運動量を記録したり、あらかじめApple Watchにダウンロードしていた音楽を(ワイヤレス)ヘッドフォン経由で再生したり、Apple PayのSuicaで飲み物を買ったりすることはできる。

「次の予定は」、「今年は平成何年?」、「今日の日没は」など質問をしたり、「自宅までのルート」や「○○さんに電話」などの命令をしたり。Apple Watchだと画面が小さいのでタッチして操作をするよりSiriを使って音声操作をする機会が増える

 ただ、これまでのApple Watchでは、大事な仕事の電話は帰宅して着信履歴を見ないと分からないし、ジョギングで遠出しすぎて道に迷っても単体ではインターネット接続ができないので、地図の表示や帰宅ルートの検索ができなかった。そこで切望されていたのが、iPhoneに頼らず単体でも通話・通信ができるセルラーモデルだ。Apple Watch Series 3では、まさにそれが追加された。

 例えば、家にiPhoneを置きっぱなしで、Apple Watchだけを身につけて出かけたジョギング先でも、腕を上げて「Hey Siri、自宅までのルート」と話しかければ、腕に現在位置を表示してどの方向に向かえばいいかを示してくれる。そして自宅に向かって走り始めると、画面を見なくても、腕をトントンっとノックするそのリズムで曲がる方向を教えてくれるのだ。

セルラーモデルのApple WatchならiPhoneを家に置いてきても現在地を調べたり、ナビをさせること、インターネットで簡単な調べ物をすることができる

 バッテリー動作時間は平均的使用で18時間。そのままどこかへふらりと旅に出かけて1泊する、というわけにはいかないが、いつも通りきちんと家に帰るつもりならiPhoneなしでも、とりあえず重要な用事はApple Watchでこなすことができる。

 長文メールには向かないものの、音声認識などを使ってメールの返信を書くこともできるし、SMSやiMessage、LINE、Facebookメッセージの送受信も可能だ。Twitterもツイートすることこそできないが、気になるツイートの表示ならできる。凝ったインターネット検索は、製品の本来の目的に反するのであえてできなくしてあるが、Siriを使った音声命令で画像検索やWikipediaで概要を調べることはできる。

 画面も小さいし、見る姿勢も辛いからこそ、やり過ぎない程度に、適度に今日のデジタルコミュニケーション社会につながっていられる――それがApple Watchだ。

 最近、情報への浸かりすぎをやめるために、スマートフォンやパソコンから離れて数日を過ごす「デジタルデトックス」が流行っている。だが、無理して一時期だけやめてみても、その間、心配やストレスが溜まるし、終わったらすぐまた情報漬けのリバウンドが起きてしまっては意味がない。それよりは、Apple Watchを使って日々のスマートフォンとの距離感そのものをリバランスしていったほうが精神的にも肉体的にもいいのではないか。

 登場直後のiPhoneには、そんな側面が少しあった。画面も小さかったし、性能も劣っていたので、できることが限られていた。だから、長々としたメールに短文で返信をしても、その末尾に「iPhoneから送信」と入っていれば、それが1つの免罪符になっていた。しかし、今ではスマートフォンも画面が巨大化し、人々は1日中メッセージを送り合って長文の入力に慣れてしまった人も多い。

 Apple Watchは腕につけるという利用形態からして、今後もそれほど画面が巨大化することはない。そういう意味では、人の身の丈に寄り添ったデジタルデバイスだからこそ、適度なデジタルとの関係性、つまり「デジタル完全カット」ではなく、低デジタルな生活を促す「デジタルダイエット」で、日々の生活のバランスを取り戻してくれる。

 セルラーモデルの登場で、この情報依存度を抑えた低デジタル量生活の提案が、ますます大きな安心感と説得力を持つようになった。

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