「Apple Watch Series 4」 時計業界を席巻したスマートウォッチの最大の進化(1/3 ページ)

» 2018年09月19日 21時40分 公開
[林信行ITmedia]

 世界一売れている時計、「Apple Watch」が第4世代にして、ついに大きく生まれ変わった。Appleのこの製品に対する姿勢は、1人でも多くの人に知ってほしい。

Apple Watch Series 4

丁寧なものづくりの次なる「飛躍」

 私はApple Watchを、時折大胆なチャレンジを挟みながらも、近年のデジタル製品の歴史にはない丁寧なものづくりが行われた特筆すべき事例だと見ている。

 エルメスの職人たちは、毎年、その年のテーマを決めてはインスピレーションを求めて旅に出るという。そうすることで、例えばスカーフ1つにも「地中海の港町」や「ナイル」と言った深いストーリーが与えられるようになる。

  Apple Watchの開発チームも製品のストーリーを大事にする姿勢に変わりはない。初代Apple Watchを作ったとき、開発チームは厚さ5cmにも及ぶ分厚いコンセプトブックを用意した。

 その中には、もしクラシカルなミッキーマウス時計をデジタル時計で表現するとしたらその動きはどのようなものか、人々を高揚させる自然美とは何かを試行錯誤した結果としての、無数のクラゲや蝶、花の写真、どの盤面で使われる文字はどうあるべきかなど、Apple Watchの1つ1つのフェース(盤面)で表されるストーリーが写真や絵図を伴って詳細に描かれていた(Apple Watchユーザーにはおなじみのクラゲのフェースを作る際に、専用のスタジオで285時間をかけ2万4000枚のクラゲの写真を撮った、というのは有名な話だ)。

初代Apple Watchから採用されている「クラゲ」の盤面は285時間をかけて撮影された2万4000枚のクラゲの写真をもとに作られている

 製品のカスタマイズオプションの1つに、これだけの時間と労力をかける会社を私は他に知らない。冒頭で挙げたエルメスなど老舗のブランドであればともかく、まだ“若い”デジタル業界で製品に込められたストーリーをここまで大事にする会社を見かけることはほぼ皆無だと思う。

 それだけに、Apple Watchがスマートウォッチとしてだけでなく、時計全体の中でも世界の売り上げの1位に輝いたという事実は、非常にうれしく思っている。愛情を込めて本当に丁寧に作られた製品は、それを選ぶ顧客にもきちんと響くものなんだと再確認できたからだ。

エルメスコラボモデルでは、上下のバンドで別々の色を使うデュオトーンのバンドを用意。それにあわせて盤面も2つの色を楽しめるエルメスモデル専用のものが用意されている

 毎年の製品リニューアルが欠かせない日進月歩のテクノロジー業界で、Apple Watchもやりすぎないレベルで防水機能やLTE通信機能などを追加してきたが、製品の形を変えることはなかった。

 そのApple Watchの形が、今回発表されたSeries 4によってついに変わった。それは身につけるファッションアイテムとしての側面から見ても、ウェアラブルというまだ正解の見えない新しい道具の役割という側面から見ても、「飛躍的」な進化だった。

大きく薄く、進化したエレガンス

 Apple Watch Series 4で、まず心を打つのはそのエレガントなフォルムだ。

 これまでのApple Watchも、市販されている他のスマートウォッチと比べるとズバ抜けて美しかった。ただ、美しさというのは難しい概念で、人によって好みの違いもある。中にはスポーツに特化したフォルムに美しさを感じる人もいるだろうし、好みのブランドの文法であったり、歴史を反映した造形を好む人もいるだろう。

 Appleは、iPodやiPhoneなどの他の製品にしてもそうだが、最も大勢の人に響く無色透明の美しさを追求する。余計な装飾部分をそぎ落とし、そのものの本質とは何かのarchetype(原型)を追求し、形にする。

 パッと見にはやぼったく感じることもあるが、見れば見るほどに親しみが湧き、心に馴染んでいく形だ。初代Apple Watchの開発では、腕時計というものの歴史をさかのぼり、これまでに付加されてきた文脈もひもときながら、あの形にまとめた。

 その上で、交換式バンドという新しい発想を融合させ、一人一人の個性にも最適化できるという斬新なアイデアを用意したことで、デジタルライフスタイル時代のファッションアイテムとして世界を席巻できた。

 しかし、良いデザインというのものは、突如現れたかと思うと、それまで「良い」と信じていたものを急に古く見せてしまう。今回、発表されたApple Watch Series 4は、まさにそれをやってみせた。

 この製品の仕様上の最大の特徴は、ディスプレイが30%広くなったことだ。だが、ディスプレイを大胆に大型化する一方で、本体そのものは薄型化している。 このおかげで製品としてのフォルムがシュっと引き締まり、より高級なアナログ時計らしさがでてきたのだ。

これまでに比べて30%大きくなったApple Watch Series 4。画面いっぱいに広がったパスコード入力画面を見ると、その広さが強調される

 Apple Watchの使用中、ユーザーの目は画面上の情報を見ているが、画面が30%広がったにもかかわらず本体が薄くなったおかげで、既にApple Watchを使った経験がある人はこの薄型化を強く実感するはずだ。

 大型化で小さいモデルのケースは38mmから40mmへ、42mmのケースが44mmへとサイズ表記で2mmずつ大きくなった。ちなみに、新しい40mmモデルのディスプレイサイズは、旧大型モデルの42mmとほぼ同じのディスプレイサイズになっている。

 これまで42mmを「腕に対して少し大きめ」と感じていた人は「かなり大きめ」になる覚悟はしておいてほしい。筆者はまさにそうだった。しかし、きちんと腕にはめることさえできれば、この大きさは次第に慣れてくるものだし、やはり画面の大きさはそのうち心地よさに変わってくる。

 Series 4を側面から見ると、ディスプレイがきれいなアール(丸み)を描いてステンレスのケースに溶け込んでいく美しさに心が踊りだす(アルミケースのモデルもあるが筆者はゴールドのステンレスケースを試用している)。

ディスプレイが本体に溶け込むようなエッジの処理は本当に美しい

 ガラスのディスプレイとステンレスのケースという2つの異なるマテリアルの間のギャップも、これまでのApple Watchと比べて小さくなった。指でなぞるとまだ多少の段差は確認できるが、ここまで美しいレベルで融合を果たした製品は、宝飾品でもなかなかないだろう。

 セルラーモデルの象徴であった、デジタルクラウンの先の赤い塗りも、1mm幅もない細い赤い円に置きかわり、製品の引き締まったイメージを強調している。さらにクラウンを回すとカチカチカチという振動を指に返してくる。この振動は画面に表示されている情報にあわせて、テンポや触感が変わり、より正確な操作を促すという側面もある。

 この本体ケースを見た後だと、これまでのApple Watchのケースが色あせてしまう。薄型化した後のiPodを手にした後に初代iPodを振り返ったときのような印象を受ける。やはり、スリム化は美しさを引き出す最強のアプローチだ。

今回から製品パッケージも大きく変わった。開封すると、中から2つ箱が出てくる。バンドが別の箱になり、Apple Watch本体はウルトラスウェードの専用ケースに大事に収められている。開封にはコツが必要だ
※記事初出時、「ゴールドのアルミケース」と記載しておりましたが正しくは「ゴールドのステンレスケース」です。おわびして訂正いたします(2018年9月20日9時55分訂正)
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