2019年は「エッジAIがもたらすソフトウェアの進化」に注目 しかし停滞を招く要因も本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/3 ページ)

» 2019年01月07日 07時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

AppleよりGoogleに大きな期待を持つ理由

 昨年末のコラムで書いたように、エッジAIに力を最も注いでいるのは、恐らくAppleだ。

 Huaweiもカメラへの応用を意識し、かなり多くのトランジスタをAI処理に投入(NPUの規模を前年度プロセッサの3倍に)したが、AppleはAI処理能力を5倍、電力効率を10倍にしている。あらゆる場面で「Neural Engine」を常時回すようになっても、バッテリー消費へのインパクトを最小限に抑えるためだろう。

 そうした意味では、今年のWWDC(Appleの開発者向け会議)が一つの注目点になる。AppleはこのところのWWDCで、機械学習モデルを開発するためのライブラリ「Core ML」の普及に努めてきた上で、一昨年にNural Engineを発表し、昨年は一気にパフォーマンスを上げた。

 ということは、次はハードウェア処理によるアクセラレーションを前提に、「どこまでできるか」をサードパーティーとともに事例として作って行くフェーズに入るだろう。Appleにコミットしているデベロッパーに声をかけ、Neural Engineを用いたアプリ開発の成果をWWDCで紹介することは間違いない。恐らくCore MLなどのアップデートや開発ツールの強化などもあるだろう。

Core ML 2 Appleは2018年のWWDCで機械学習フレームワークの最新版「Core ML 2」を発表。従来比で30%処理速度が向上した

 しかし、個人的にはGoogleにより大きな期待を持っている。

 Google I/O(Googleの開発者向け会議)の発表などを見ると、彼らはクラウドAIにかなり傾倒しており、人を驚かせるようなプレゼンテーションを行っている一方、エッジAIに対しては専用プロセッサを開発してはいるものの、強い訴求はしていない。

 しかし、Googleのスマートフォン「Pixel 3」シリーズを見る限り、エッジAIに関してもトップクラスどころか、Apple以上の実力を持っているようにも思える。

 例えば、最も典型的な応用例であるシングルレンズカメラでの背景と被写体の分離。Appleは人物しか分離できないが、Googleは人物以外も分離できる(もちろん、間違いも多いのだが)。現時点ではささいな違いだが、こうした違いがクラウドAIの開発から得られた知見なのだとすれば、もっとエッジAI側で何かやってほしいと思うのだ。

Pixel 3 Googleのスマートフォン「Pixel 3」は、シングルカメラながら被写体と背景を分離し、背景がボケた写真が撮れるなど、機械学習を生かした撮影機能を複数備えている

 プライバシー問題でクラウドAIに対する視線が厳しくなってきている中、エッジでのAI技術開発はAndroidをベースとする製品全体にもフィードバックされ、批判をかわす材料にもならないだろうか。

 ただし懸念点もある。Googleがエッジでの処理結果に関して、クラウドに送信しないとは思えないからだ。

Googleに期待すること

 以下は、あくまでも一般論としての話である。

 Amazon.comが何らかのAI技術を導入し、利用者に対して的確に欲しいものをサジェストするとしたら、それは彼らのシステム内で閉じたものになるに違いない。その情報によって自分たちの売り上げが伸びることに加えて、在庫やセール品価格などの最適化を図れるからだ。いくら値下げを行い、こんな人たちにオススメすれば、何%売り上げが向上する……そんな知見を彼らは既に持っている。

 しかし、だからこそ個人データを売ったりはしないし、Amazonの中で閉じた情報として購買行動に関する情報を閉じ込める。販売サイトなのだから当然であるし、ユーザーのプライバシーを侵害しているわけでもない。

 AppleはAI技術をエッジにとどめ、端末内に閉じることを誓っている。「iCloud」を通して学習結果を同期することはあるものの、単なるデータベースの同期であって学習結果をクラウドの中で再活用することはない。なぜなら彼らは端末メーカーだからだ。

 Googleは自ら「邪悪(Evil)になるな」と言い続けてきた企業文化を背景に、恐らくデータを悪用などしていない“だろう”が、彼らが販売しているものは広告である。限界費用がゼロという特殊なGoogleのビジネスモデルを考えるなら、恐らく今後も成長を続けるだろうから、彼らがEvilになる必要はない。

 従ってGoogleがわれわれの行動データを収集し、それを用いてAI機能の精度を高めていくことは有益であり、最も多く使われているエッジデバイスであるスマートフォンや、今後、どんどん増えていくIoTデバイスからエッジデバイス経由で入ってくるさまざまな学習データに関しても、どんどんGoogleの運営するクラウドに送り込んでいく方が、社会的にはプラスなのだ。

 ……と、Googleは考えているだろう。それに賛同する者も多いかもしれない。

 社会を俯瞰するならば、彼らの考えは正しい。筆者は社会的な考えを持つことから、Googleの考えにも賛同したいところだが、多くの人は「見たままのもの」「あるがまま」をよすがとし、物事を判断する。つまり、端末内で起きていることが、予想外に端末外に届いていると知ったとき、不快に感じたり、不信感を抱いたりするものだ。

 例えば「Gmail」でいうと、Webで使う中でその行動がトラッキングされても不思議には思わないし怒り出すこともないが、スマートフォンを使っている中で(同じGmailであるにもかかわらず)メールを使う行動が追跡されているとしたら、気色悪いと思う人はいる……ということなのだと思う。

 クラウドAIの開発、深層学習を深めた上で、素晴らしい機能をエッジでも実現していってほしいという期待はあるものの、プライバシー情報に関して「ツールを提供して可視化する」のは当たり前として、デバイス上での学習結果はデバイス上にとどめるというポリシーに改めた上で明文化してほしい……というのが期待だ。

 しかし、恐らくGoogleもそうした方向に行かざるを得なくなるのではないだろうか。

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