そんなアバター化の現状をここまで書けばお分かりだろうが、冒頭のVIVE Pro Eyeの視線追跡を使うことで、キャラの表情がさらに生き生きとするようになる。
現状、ソーシャルVRのアバターは一応こちらを見ているように設定されているが、VIVE Pro Eyeでコミュニケーションを試してみてドキッとしたのが、相手の目線がまさに自分と合って追従する瞬間だった。「目は口ほどに物を言う」ではないが、ソーシャルVRサービスが対応していくことによって非言語表現力が「マシマシ」になることは間違いない。
HTCの英語と日本語のプレスリリースを比べると、日本語だけ別途、VRライブコミュニケションサービス「バーチャルキャスト」のエンタープライズ版で目線が追跡できるようになったことを明記するなど、ローカルの事情を「分かっている」記載になっている。
ついでにHTCで日本独自というと、取り付けたものの位置をバーチャル空間に反映してくれるハード「VIVEトラッカー」の使い道という点でも興味深い。
2018年8月、ゲーム開発者向けイベント「CEDEC 2018」の講演でHTC NipponのVIVE事業責任者である西川美優さんが明かした話では、もともとトラッカーは業務用のロケーションVRやハンドルに1つだけつけて体感ゲームを楽しむといった利用方法を想定していたものの、日本でフタを開けてみたら人間の体に装着して使う用途の方が目立ったとのこと。
VRChatでも頭と両手の3点に加えて、腰や両足にVIVEトラッカーをつけた「フルボディートラッキング」の方がキャラクターを生き生きと動かせてかわいさを表現しやすいと、ヘビーユーザーがVIVEトラッカーを買い求める向きもある。技術の進歩が、今なおアバターの生々しさを加速させているというのはとても興味深い。
さて、筆者的には、このアバターをリアルタイムで動かしてコミュニケーションできるという要素は、2019年、専門職などのビジネス活用が進むと見ている。例えば、カウンセラーやセラピスト、占い師などは、柔和な見た目の方が人が話しかけやすい。2018年9月のCEATECでローソンとSHOWROOMが展示したバーチャルクルーをはじめ、接客に活用する動きもある。
ある意味、デジタルサイネージなのだが、AIとは異なりきちんと対話できて実際に話すと「これは人だ」と認識してしまうのが面白い。そして設置場所に返答用のWebカメラを置いておくことで、遠隔地からインターネットを経由させての営業も可能になる。ひょっとしたら「バーチャルキャバクラ」や「バーチャルホストクラブ」なども早いタイミングで実現するかもしれない。
筆者としては、バーチャルの身体がVTuberというタレントを目指す「狭き門」だけでなく、人生を豊かにし、ビジネスの成約率を上げる要素としてより広まるのを願ってやまない。それこそがVR機器の普及にも大きく寄与すると信じている。2019年、VR機器の発展とアバター業界に注目しておこう。
(PANORA・広田稔)
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