AI的によいと思われる写真を、本来なら複雑な現像プロセスを経て得るところ、自動的に生成してくれる。撮影するだけで写真が最適化されるのだから、一般のユーザーにとって悪い話ではない。使いこなさなくともよい体験が得られるからだ。
近年のスマートフォンに求められているのは、機能を増やすことではなく、機能を簡単に使いこなせるように機械学習処理でユーザーの行動や使用パターンを学習し、自然に効率のよい使い方をできるようにすることだ。
例えば、ここ数年のiPhoneを振り返ってみても、領域ごとに露出が自動的に最適化されたり、撮影画面からHDR設定がなくなり自動的に最適化されるようになったりと、ユーザーの介入なしによい写真を得るための進化が続いている。
ここで重要なのは、現像後の写真にレタッチを加えるのではなく、レンズ特性をシミュレートしてみたり、現像時に被写体ごと、テクスチャごとの最適化を行ったりするなど、写真としての質にコミットメントしていることだ。この辺りはHuaweiのスマートフォン内蔵カメラが向かっていた方向とはかなり異なる。
カメラは一番分かりやすい例だが、最近のiPhoneを使っていれば、毎日のルーティンで通っている場所があれば「◯◯へ向かうためには××分かかります」といった具合に、いつも行く場所への出発時間をさりげなく知らせる通知をしてくれることに気付いているだろうか。
さらにさりげなく、自分がいる場所によって検索パネルに自動配置されるアプリの順番が変わっていることに気付いている方もいるかもしれない。多くの人がスマートフォンを使うようになっているため、派手な機能のアップデートだけではせっかくの最新機能も使ってもらえない。
だから気付かない部分での進化が実は大きいのだが、それだけでは分かりにくいため、多くの人が注目するカメラを、一種のデモンストレーションの場として使っているのが最近の流れだろう。
ただし、カメラはクリエイターの道具でもある。自分自身が何かを表現するための道具としてiPhoneを捉えるならば、そこには明確な意志を盛り込みたい。これはAI的なアプローチでの自動処理とは真逆の方向だ。
しかしiPhone 13 Proでは、そこに自分自身の意志を介在させる方法が用意されている。
iPhoneはセマンティックレンダリングという手法でセンサーからの映像情報をすさまじい速度で分析し、被写体を推測しながら現像処理のレベルで複雑な自動化プロセスを実行している。しかし自動的に全てを判別して現像するが故に、望んだ結果が得られない場合もある。そんなときにApple ProRAWでの撮影が生きてくるわけだが、iPhone 13 Proでは現像処理を自動的に最適化する「最適化具合」を調整できるようになった。
これは「フォトグラフスタイル」と呼ばれるもので、セマンティックレンダリングの中でこれまで完全自動で判断されていた現像テクニックに、自分自身の好みを介入させることができる。スタイルとあるように撮影ごとに使いこなすというよりも、自分好みのスタイルに設定しておくと、後は自動で処理される。
「トーン」と「暖かみ」という要素での設定は、今までのカメラ撮影テクニックやレタッチ処理とは異なるもののようで、現像プロセスに対して変化が加えられる。実際に使いこなしてみなければ掘り下げた話はできないが、写真全体のトーンを調整し、自分の写真の風合いとして登録しておけるということだ。
これらの調整に加え、シーン判別やスマートHDRのオン、オフを組み合わせることで、自動的な現像処理なのか、それとも意志を持っての絵作りなのかを使い分けることもできるだろう。
こうしたアプローチは、映画的表現を簡単に使いこなせる「シネマティックモード」ではより鮮明だ。シネマティックモードでは被写体を自動的に識別し、自動的にフォーカス位置を自然に変化させるアルゴリズムが盛り込まれている(その前に深度情報を使ってボケ味を生かした動画撮影もできるため、フォーカス位置の変化が映像テクニックとして使えるのだが)。
例えば、フォーカスが合った手前にいる人物が振り向いて後ろにいる人物に目を向けると、滑らかにフォーカスの位置が変化して奥の人物の目にフォーカスが当たり、手前の人物が顔を戻すと滑らかにフォーカスが手前の人物の目に戻るといった具合だ。
しかし、より明確な意志を持ってコントロールしたい場合は画面内で認識されている顔をタップして選ぶことで、その間でフォーカスの位置を変化させることもできる。シンプルな操作で自分の意志を反映できるのだ。
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