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» 2010年06月04日 17時00分 UPDATE

神尾寿のMobile+Views:快進撃はいつまで続く?――本格普及期に入ったiPhone(前編) (1/2)

量販店の販売ランキングでトップの常連となるなど、本格的な普及期に入ったiPhone。購買層にも変化がみられ、今や新規ユーザーの40%を女性が占めるという。こうした需要の変化を支えるのが、アップルストアの取り組みだ。

[神尾寿,ITmedia]

 「『日本でiPhoneは売れない』と言ったメディアやアナリスト、業界関係者は、ぜひ謝罪してほしい」

 ソフトバンクの代表取締役社長 孫正義氏が、少し冗談めかしながら皮肉る。ここ最近の同社の記者会見で、よく見かける光景だ。

 孫氏があてこするのも無理はない。2008年の「iPhone 3G」発売に前後して、一部の新聞・雑誌や業界関係者が「iPhoneは日本で売れない」とコメント。販売開始後、一時的に当初の勢いが落ちると、「iPhone失速」「戦後処理が必要な段階」とまで言いつのるアナリストまで現れた(2008年10月の記事参照)。しかし、蓋を開けてみれば、iPhoneは2008年後半から着実に販売を伸ばし、2009年のiPhone 3GS発売後は各商戦期で販売ランキングトップを独走する売れ行きを示した。孫氏が「2009年に日本で1番売れたのはiPhoneだった。iPhoneはダントツに売れており、今も販売台数は右肩上がりで伸びている」と胸を張るのは無理もない。

 日本市場におけるiPhoneは、今どのような状況にあり、なぜこれほどまでに売れているのか。そして、iPhoneの快進撃はいつまで続くのか。

 来週開催されるWWDCでの、新型iPhone発表が噂されるなか、日本における“iPhoneショック”の現状と今後を考えてみたい。

新規ユーザーの4割は女性。需要に変化

Photo 新たなユーザー層を獲得しているiPhone 3GS

 「iPhoneの新規ユーザーのうち、今では40%以上が女性になっている。女性が増えている、という手応えは強く感じる」

 今年5月、孫正義社長がiPhoneの現況についてそう語った。冒頭で述べたとおり、iPhoneは昨年度もっとも好調な端末になっており、MM総研によるとシリーズ合計の出荷数は約169万台(09年4月〜10年3月)。2009年度のスマートフォン総出荷数に占めるApple/iPhoneのシェアは72%。携帯電話市場全体は、最新機種や高性能端末が売れない底冷えの状況下で、“iPhoneひとり勝ち”の結果を残したのだ。

 しかし、もっと重要なのは「iPhoneの売れ方」が変わり、新しいユーザーの顔ぶれが変化したことだ。とりわけそれを象徴するのが、若い女性ユーザー層の拡大である。孫氏が話すようにiPhoneの新規需要における女性比率は日増しに高くなっており、2009年後半から女性誌でのiPhone特集が目立つようになった。例えば直近では、6月2日発売の「anan」(マガジンハウス)で、「iPhone for★girls!」という大きな特集が組まれている。20〜30代前半の女性にとって、iPhoneは確実に、おしゃれな日常アイテムになっている。女性誌のiPhone関連の特集や記事を読むと、iPhoneが女性層にしっかりと浸透していることが分かる。

 筆者は以前のコラムで、今の日本で新たなテクノロジーや製品・サービスが一般化するには、女性による「認知と承認」のプロセスが必須であると書いた。女性が承認しないかぎり、どれほど革新的なものであろうと、一部のマニア層が好むガジェットで終わる。しかし、女性に認められて好んで使われるものになれば、それは広く一般化し、新たなライフスタイルを象徴するものになるのだ。

 女性の承認プロセスを経たことで、iPhoneの売れ方そのものも大きく変化している。筆者はこの3カ月ほど、大手携帯電話販売会社や家電量販店幹部に取材を重ねたが、販売現場での変化は明確に現れていた。ある大手販売会社幹部は話す。

 「iPhoneを購入する女性が増えてきたことで、iPhone購入者も変化しました。当初は30〜40代の男性が、今までのケータイと併用する2台目でiPhoneを買うケースが多かった。しかし、昨年後半から“iPhoneの1台目需要”が顕著になりました。今やiPhoneは、これまでのケータイに変わるものとして売れている」

 周知のとおりiPhoneは、ワンセグやおサイフケータイ、赤外線通信など“日本のケータイ”の基本機能を内蔵していない。そのため当初の需要は2台目としてが中心だったのだが、現在は「従来型のケータイからiPhoneに買い換える」ユーザーが中心になっているのだ。この背景にはiPhoneが女性層に認められ始めた時期と前後して、ソフトバンクモバイルがiPhoneの絵文字対応をAppleに働きかけたり、キャリアメール(MMS)対応を積極的に行うなど、iPhoneが1台目としても使えるよう環境作りを行ったことも奏功しているだろう。いずれにせよ、iPhoneはもはやケータイに変わる存在になってきているのだ。

 このようにiPhoneは1台目の新たなケータイとして売れている。この余波は、AndroidやWindows Phoneといったスマートフォンにも影響している。複数の販売会社や量販店幹部が「スマートフォンは1台目として使える条件・魅力的な要素を持っていなければ売れない。スマートフォンで2台目需要を狙うという戦略はナンセンスだ。それでは最初はマニア層に売れても、販売の勢いが持続できない」と口をそろえる。AppleのiPhoneがひとり勝ちする中で、販売現場の状況が一変してしまったのだ。日本市場で未だ2台目市場狙いのモデルしか出せていないAndroidやWindows Phone陣営は、iPhoneに対して後れを取ってしまっている。

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