まだある、モバイルトラフィック問題を解決する新技術――エリクソンの藤岡氏が解説(1/2 ページ)

» 2012年09月05日 20時07分 公開
[日高彰,ITmedia]

 エリクソン・ジャパンは8月30日、「新たな無線ネットワークの展望と周波数展開に関する課題」と題したセミナーを開催した。現在、技術的な検討や標準化作業が進められている新たな通信技術や、世界の各地域によって異なるLTEの導入周波数の現況などについて説明した。

飛び飛びのバンドでも束ねて高速化できるキャリアアグリゲーション

 データトラフィックの増大によるネットワーク容量の逼迫は、全世界的な課題となっており、この問題に対する最も抜本的な解決策が新たな周波数帯域の追加だ。LTEでは、現在、ほとんどの事業者が5MHzまたは10MHz幅のキャリア(搬送波)でサービスを提供しているが、仕様上は最大20MHzまで定義されており、当然のことながらより多くの周波数帯域を使えばネットワーク容量も増大する。

 この20MHzという幅を超え、さらなる高速大容量の通信を実現するのが「キャリアアグリゲーション」と呼ばれる技術だ。複数のキャリアを束ねて使うことで、最大5キャリア・100MHz幅での通信が可能となる。

 とはいえ、移動体通信に適した周波数は、どの市場においても業界間・事業者間で取り合いになっており、連続した大きな周波数帯域を確保するのは難しい。そのため、キャリアアグリゲーションは、分散した複数の周波数帯域でも束ねられるようになっており、細切れの周波数も有効に活用できるのが特徴だ。

Photo キャリアアグリゲーションで束ねる電波は、非連続でも、バンドをまたいでもいい

 現在3GPPでは、バンド1(2.1GHz帯)+バンド5(850MHz帯)、もしくはバンド1+バンド19(NTTドコモの800MHz帯)という組み合わせの標準化作業が完了している。この仕組みを使えば、例えばNTTドコモは基盤バンドである2.1GHz帯とプラスエリアの800MHz帯の両方を同時に使い、高速化とユーザーの収容効率の向上を図ることが可能になる。このほかにもさまざまなバンド間での組み合わせで標準化が進められており、日本市場に関係する部分では、2.1GHz帯+1.5GHz帯、1.5GHz帯+800MHz帯といった組み合わせが検討されている。

複数LTE基地局の協調動作による通信容量拡大も

 ネットワークのパフォーマンスの観点では、基地局から離れた場所や、セルとセルとの境界などの、セルエッジでの通信速度を向上させることで無線容量を増大させることができる。

 新たな変調方式の導入などでマクロ基地局を増強すると、電波の状態が良い場所では通信速度が大幅に向上するが、セルエッジではその恩恵はほとんど受けられない。それゆえ面的なパフォーマンスの向上にはつながらないというわけだ。

 このため、大エリアをカバーするマクロ基地局に加え、ピコセルと呼ばれるような小型基地局をセルエッジに配備し、それらを協調動作させることでより高い無線容量を得るというのが、今後の基地局展開の方向性になる。

Photo マクロ基地局とセルエッジの小型基地局の協調動作により面的なパフォーマンス・収容効率向上が期待できる

 小型基地局とコアネットワークを接続するバックホールとしてはもちろん、有線回線を利用することも可能だが、LTEネットワークそのものをバックホールとして活用し、より機動的にピコセルを展開するリレー方式も提案されている。

 小型基地局はマクロ基地局を「ドナー」として利用し、端末から見た場合は通常のセルとしてふるまう。ただし、マクロ基地局−小型基地局間の通信と、小型基地局−端末間の通信に同じ周波数を用いる場合、それぞれの電波が干渉して、いわば“自己干渉”の状態となり、通信品質は大幅に低下する。これを防ぐため、リレー方式ではタイムスロットを区切ってそれぞれの通信を分離するといった対策が必要となる。

Photo 小型基地局はマクロ基地局の電波をバックホールとして活用し、端末に対してはマクロ基地局と変わらないふるまいをする

 また、セルエッジの通信状態改善の方策としては、隣り合う2つの基地局から1つの端末に向けて同じ信号を同時に送信する「ジョイントトランスミッション」が検討されており、Ericssonでも開発を行っているという。ただし、実際の環境においては、セルエッジのパフォーマンスには顕著な改善が見られるものの、場所によってはかえって通信品質の低下を招き、サービスエリア全体の平均パフォーマンスがむしろダウンしてしまうこともあったという。実用にはまだまだ課題の大きい技術となっているようだ。

Photo 1つの端末に対して複数の基地局が協調動作することでパフォーマンスの向上が期待できるが、現在の下りジョイントトランスミッション技術では必ずしも全体の性能が上がらないこともある

さらなるハイバンドの利用と端末間通信が盛り込まれる「LTE-B」

 3GPPではLTEのさらなる進化の形について議論が進められており、2014年ごろの策定完了を目指す「3GPP Release 12」の中にさまざまな仕様が盛り込まれる見込みだ。それらの仕様は、「LTE-A(Advanced)」のさらに次に来る技術という意味合いで、しばしば「LTE-B」の名で呼ばれており、3GPPではこの呼び方が定着しつつあるという。

 LTE-Bでの大きなトピックとして挙げられるのが、主に3GHz帯以上となるハイバンドの活用を前提とした技術だ。現在、携帯電話で使われている700MHzから2.6GHz前後の周波数資源は限られており、今後ますます増大するトラフィックに対応するには、十分広い周波数帯域を確保できる高周波数帯の開拓が必須となる。

 しかし、3GHz以上の周波数では大エリアを1つの基地局でカバーするマクロセルの構築は難しいため、“ユーザーに近い場所に多数のピコセルを展開する”といった使い方が主になる。また、より高い周波数帯では電力効率が良いことに加え、波長が10センチ以下となりアンテナが小型化できるので、多数のアンテナを集積的に搭載して動作させるといった新たな技術的可能性も考えられる。

 高い周波数帯でのピコセル運用のあり方としてエリクソンでは、マクロセルのアシストを受けながら動作するシンプルな基地局を「Soft Cell」の名で提唱している。これは、マクロセル内にスポット的に展開するより簡易な基地局で、位置登録や呼び出しといった制御信号の通信チャネルを持たず、純粋にデータトラフィックの転送のみ担当するのが特徴だ。端末は、従来から存在する2.1GHz帯や800MHz帯の基地局によってコントロールされるが、例えば3.5GHz帯のSoft Cell内に入ると、マクロセルでの制御チャネルは保持したまま、データのやりとりのみSoft Cellに切り替える。

Photo 制御チャネルを持たずデータの転送のみを担当する「Soft Cell」。従来のマクロ基地局とは別の周波数で運用する

 これによってマクロセルからデータトラフィックをオフロードできるほか、端末はより近くのセルとの短距離通信に切り替えられるので、消費電力も抑えられる。制御チャネルを持たないSoft Cellは従来の基地局設備に比べて低コストでの製造・運用が可能になり、高トラフィックの場所により高密度に配備することができる。また、制御をマクロセル側に任せているため、ユーザーが近くにいない場合にSoft Cellの電波を止めて消費電力を抑えることが可能だ。ただし、制御チャネルを持たない基地局はこれまでの3GPP標準では想定されていないため、Soft Cellのアーキテクチャには後方互換性がない点が課題となる。

 そのほか3GPPでは、近距離で高速な通信を行うという高周波数帯の特性を活かし、基地局を介さない端末間の直接通信も標準化のターゲットに入れている。ただし、近くにある端末の発見、電力制御、認証といった部分では通信事業者のネットワークを活用することを想定しており、“マクロセルの支援を受けたデバイス間直接通信”といったアーキテクチャが考えられている模様だ。

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