風力発電が太陽光に続く、小型システムは企業や家庭にも解説/再生可能エネルギーの固定価格買取制度(5)

太陽光発電に続いて風力発電の取り組みが活発になってきた。小型の風力発電は買取価格が55円/kWhで最高額に設定されている。建設費が高いためだが、適した場所を選べば企業や家庭でも設置できる。大型の風車を使った大規模な風力発電所も東北や北海道で増加中だ。

» 2012年09月05日 09時48分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 日本では風力発電は太陽光発電と比べてマイナーなイメージが強い。ところが実際に電力会社が買い取っている再生可能エネルギーの電力量を見ると風力発電が一番多く、2010年度で太陽光の2倍以上もある(図1)。今後さらに拡大できる余地は十分にあり、特に東北や北海道の海岸沿いなど風が強い地域で有望視されている。

図1 電力会社による風力発電と太陽光発電の買取量。出典:電気事業連合会

 風力発電も太陽光発電と同様に、設備の規模によって大型と小型に分かれる。ただし太陽光の場合は発電用のパネル1枚の大きさは同じで、パネルの設置枚数によって規模を変えられるのに対して、風力の場合は発電用の風車の大きさそのものがまったく違う。

 このため建設費の単価も大型と小型で相当な開きがあり、買取価格に2倍以上の差がつけられている。小型の風力発電の買取価格は55円/kWhで太陽光の42円/kWhよりも高く、大型は22円/kWhと小型の半分以下に設定された(図2)。

図2 発電方法別に定められた固定買取価格。出典:資源エネルギー庁

風が強くて日当たりの悪い場所に向く

 これまで一般にはなじみのなかった風力発電だが、最近は駅の屋上などに設置されるケースが増えてきた。小型の風力発電システムであれば、住宅や店舗でも屋上や庭などの空きスペースに設置可能だ。設備の構成要素は風車の部分を除けば太陽光発電システムとほとんど変わらない(図3)。

図3 小型風力発電システムの仕組み。出典:日本小型風力発電協会

 家庭用の小さな風車だと直径が2メートル程度で、発電能力は1kWくらいが一般的である。企業がビルの屋上に設置するような大きめの風車になると10kWクラスの製品もある。発電能力は風車の直径の2乗に比例するので、10kWの製品は風車の直径が6メートルくらいになる。かなりの大きさであり、風力発電の難点のひとつである。

 例えば太陽光パネルを住宅の屋根全体に設置すると4kW程度の発電能力になる。それと同等の発電能力を実現するためには、直径2メートルの風車を4基も設置しなくてはならない。設置の容易さでは太陽光発電よりも劣る。

 建設費も太陽光発電と比べて高く、固定価格買取制度では小型の風力発電は1kWあたり125万円と見積もられた。太陽光発電の建設費に対して3倍弱である。寿命は同等で20年程度と想定されている。

 こう見てくると風力発電は導入メリットに欠けるように思えるが、風の強い地域では話が違ってくる。風速によって得られる電力量に大きな差が出る(図4)。電力量は風速の3乗で増えていくからだ。

図4 小型風力発電システムの推定発電量。出典:日本小型風力発電協会

 海岸沿いの場所で平均の風速が5メートル/秒の場合、1kWの風車で年間の発電量は1500kWh程度が見込める。太陽光発電は日照時間によって発電量が決まり、全国平均で1200〜1300kWh、少ない地域では1000kWh以下になるケースもある。日当たりが悪くて風が強い場所では、買取価格の高い風力発電のメリットが大きくなる。目安は平均の風速が6メートル/秒を超えるかどうかだ。

風力発電所は太陽光発電所よりも規模が大きい

 大型の風力発電においても設置場所の条件は同様で、風の強い海岸沿いや高原などが向いている。最近は海上に風車を設置する「洋上風力発電」も注目されており、陸上よりも風が強いために発電量が大きくなる利点がある。

図5 郡山布引高原風力発電所。出典:Jパワー

 現時点で国内最大の風力発電所は、福島県の郡山市にある「郡山布引高原風力発電所」で、66MWの発電能力を誇る(図5)。太陽光発電所で最も大きい「扇島太陽光発電所」の13MWと比べて5倍の規模だ。年間の発電量は1億2500万kWhにのぼり、一般家庭の電力使用量に換算すると3万5000世帯分に相当する。この発電規模の大きさが風力発電の最大の魅力である。

 大型の風力発電の建設費は1kWあたり30万円が現在の相場で、太陽光発電とほぼ同じ水準だ。この単価は規模の大小によってほとんど変わらない。問題になるのは小型と同様に風速だ。大型の風車を使った風力発電所は、平均の風速が5.5メートル/秒以上になる場所が適している。気象庁の定義によると、「砂埃が立ち、紙片が舞う。小枝が動く」という状態が風速5.5〜7.9メートル/秒である。

 風速と発電量の関係を見るうえで重要な指標が「設備利用率」だ。設備利用率は発電能力に対して実際に得られる電力量の割合を表す。設備利用率が20%だと、1kWの発電能力で1時間あたり0.2kWhの電力量になる。風力発電では風速が大きいほど設備利用率は高くなり、6メートル/秒で約20%、8メートル/秒になると約35%に上昇する。ちなみに太陽光発電の設備利用率は12〜13%程度である。

 設備利用率をもとに年間の発電量を計算すると、平均の風速が6メートル/秒の場合は1kWの発電能力に対して1750kWh、8メートル/秒の場合は3000kWhが見込める。それぞれに買取価格の22円を掛けると、年間の収入は3万8500円と6万6000円になる。

 買取制度では建設費が1kWあたり30万円、運転維持費が年間6000円と想定されていることから、5年で33万円、10年で36万円のコストがかかる。この金額を上記の年間収入で割ると、風速が6メートル/秒の場所ではコストを回収できるまでの期間は10年、8メートル/秒の場所であれば5年で済む。風の強い地域で大型の風力発電が有望視される理由がここにある。

 ただし土地代は別で、風力発電は太陽光発電よりも広い空き地を必要とする。風力発電所に使われる大型の風車は羽根ひとつの長さが30メートル以上もあり、全体の高さは地上100メートルにも達するため、周囲に相当のスペースを確保しなくてはならない。さらに太陽光発電にはない騒音の問題もある。

 発電能力が10MWクラスの風力発電所を建設するためには0.5〜1平方キロメートル程度の土地が必要になると想定される。太陽光発電所の場合には、京セラグループが鹿児島に建設する70MWの規模で約1.3平方キロメートルの土地で済んでいる。土地の利用効率の面では太陽光発電のほうが有利と言えそうだ。

 当面は広い土地を確保しやすい北海道や東北を中心に風力発電所の建設が進んでいく。将来に向けては洋上風力発電の拡大が期待されている。海洋生物に対する影響が懸念され、漁業権の問題を解決しなくてはならないが、発電所を建設できる余地は陸上よりもはるかに大きい。

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連載(1):「日本のエネルギー市場を変革する、新制度がスタート」

連載(2):「電力を高く売るための条件、少しでも安く使う方法」

連載(3):「買取拒否と接続拒否ができる、新制度に残る運用上の問題」

連載(4):「太陽光発電の事業化が加速、10年で採算がとれる」

連載(6):「水力発電に再び脚光、工場や農地で「小水力発電」」

連載(7):「地熱発電の巨大な潜在力、新たに「温泉発電」も広がる」

連載(8):「バイオマスは電力源の宝庫、木材からゴミまで多種多様」

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