本州の最南部にある未開の地で、巨大なメガソーラーが次々に姿を現すエネルギー列島2013年版(30)和歌山

長い海岸線と豊富な日射量を誇る和歌山県だが、再生可能エネルギーの導入量は全国で4番目に少ない。遅れを取り戻すべく、沿岸部の土地を使って大規模なメガソーラーの建設ラッシュが始まった。風力や水力を含めて、恵まれた自然環境を地域の活性化に生かす試みが活発になる。

» 2013年10月22日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 和歌山県内で巨大なメガソーラーを建設するプロジェクトが2カ所で進んでいる。1つは関西国際空港の土砂採取事業で残った広大な跡地を利用したものだ。和歌山市にある36万平方メートルの用地に、関西で最大級の20MW(メガワット)の太陽光発電設備を建設する計画が決まった(図1)。

図1 和歌山市のメガソーラー建設予定地。出典:和歌山市政策推進部

 大和ハウスグループが和歌山市から土地を賃借して、2016年4月から運転を開始する予定だ。年間の発電量は2100万kWhになり、一般家庭で6000世帯分の電力を供給することができる。

 発電した電力は全量を売電して、年間に7億6000万円の売上を見込める。固定価格買取制度で保証される20年間の売上は152億円に達する。これに対して初期投資と運転維持費で115億円かかることから、差し引き37億円の利益を得られる想定である。

 和歌山市は土地の賃借料のほかに、売電収入の3%を受け取る契約を大和ハウスグループと結んだ。収益はLED街路灯の設置など温暖化対策に役立てる方針で、売電収入の3%で年間に約2300万円を使うことができる。巨大なメガソーラーがもたらす恩恵は地域の節電対策にも大きく貢献することになる。

 もう1つの巨大なメガソーラーは、和歌山市から南に下った有田市で計画が進行中だ。石油元売り大手の東燃ゼネラル石油が所有する45万平方メートルの遊休地があり、関西電力グループが30MWの発電能力をもつメガソーラーを建設する(図2)。

図2 有田市のメガソーラー計画地点。出典:関西電力ほか

 年間の発電量は3100万kWhを見込み、9000世帯分の電力使用量に相当する規模になる。和歌山市の20MWプロジェクトよりも早く、2014年度中に運転を開始する計画だ。事業を運営するのは関電エネルギーソリューションで、発電した電力は関西電力に売電する。

 和歌山県はミカンの生産量が日本一であることからもわかるように、日射量が多くて、太陽光発電に適した土地柄である。最近までメガソーラーが存在しなかったことが不思議なくらいで、ここ1、2年のあいだに急ピッチで開発が進んできた。

 最近になって稼働した例を挙げると、和歌山市内の丘陵にある「コスモパーク加太太陽光発電所」が2013年9月に運転を開始した(図3)。この土地も関西国際空港の埋立用に土砂を採取した跡地である。

 和歌山県が企業団地として開発したものの、入居する企業が集まらない状態が続いていた。対策のひとつとして団地の中にある南向きの斜面を使って2MWのメガソーラーを建設したものである。

図3 「コスモパーク加太太陽光発電所」の全景。出典:和歌山県商工観光労働部、ウエストホールディングス

 本州の最南端にある串本町でも、太平洋を見下ろす住宅地の一角に残された広い土地に、1.8MWのメガソーラーが2013年3月から稼働している(図4)。南側に海が広がる絶好の立地に、傾斜角10度で7500枚の太陽光パネルを設置した。全国でメガソーラー事業を展開する三井物産グループが南海電気鉄道から土地を賃借して運営している。

図4 「南海いずも台ひかりパーク串本」の全景。出典:和歌山県商工観光労働部、JFE電制

 これまで和歌山県の再生可能エネルギーは他県から大きく遅れ、導入量は全国で44位の低さだった(図5)。今後は太陽光発電の導入量が急速に増えていくことは確実で、ランキングの上昇が期待できる。

図5 和歌山県の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

 太陽光に続いて風力発電も有望だ。県の南側と西側がすべて海に面していて、沿岸部には丘陵が続いている。今のところ大規模な風力発電所が4カ所にあるだけで、開発できる余地は大きく残っている。

 現在までに風力発電所が建設されている地域は、海をはさんで四国に対面する西側の沿岸部である。その中では2011年に運転を開始した「由良風力発電所」が最も新しい(図6)。2MWの大型風車5基で10MWの発電能力がある。すぐ近くには16基の風車を並べた「広川明神山風力発電所」が16MWの規模で稼働中だ。2つとも大阪ガスグループが運営する。

図6 「由良風力発電所」の所在地と風車。出典:ガスアンドパワーほか

 山と海に囲まれた和歌山県には川が数多く流れていて、水力発電の可能性も大きい。徐々にだが小水力発電の取り組みも広がり始めた。最近の事例のひとつが「島ノ瀬ダム小水力発電施設」である(図7)。

 このダムは農業用水を確保するために造られたもので、放流する水路に小水力発電設備を導入した。2012年9月から運転を開始して、発電能力は140kWある。年間の発電量は75万kWhを見込んでいる。その売電収入を農業用水の維持管理費に充てて、農家のコスト負担を軽減する狙いだ。再生可能エネルギーの開発を農業の活性化にも生かす。

図7 「島ノ瀬ダム小水力発電施設」の全景。出典:和歌山県農林水産部、和歌山県商工観光労働部

*電子ブックレット「エネルギー列島2013年版 −関西編−」をダウンロード

2015年版(30)和歌山:「関西に流れる電力を風力発電で増やす、騒音対策が農山村の課題」

2014年版(30)和歌山:「黒潮が流れるエネルギーの宝庫、海流発電とメタンハイドレートも 」

2012年版(30)和歌山:「火力発電所が集まる半島に、広がり始めた風力と太陽光」

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