電力会社の独占状態を変革する手段のひとつに、電力を売買できる取引市場がある。国内で唯一の「日本卸電力取引所」では、発電事業者と小売事業者の増加に伴って取引量が徐々に増えてきた。さらに電力の流動性を高めるために、短時間で売買できる「1時間前市場」を新設する計画もある。
従来は電力会社が発電した電力を中心に、電力会社みずからが需要家に販売してきた。2000年から始まった小売の一部自由化によって、電力会社でなくても企業向けに販売ができるようになったものの、小売事業者には売るための電力を十分に確保できない構造的な問題が残っている。
結局のところ、小売に参入した新電力の販売量は全体の2%程度に過ぎない状況だ。一般の企業が自家発電した電力を含めて、大半は電力会社を相手にした中長期の契約で固定化している(図1)。新電力にとっては必要な時に必要な量を調達できる取引所の存在は大きな意味がある。
国内には電力を取引できる場が1カ所だけある。10年前の2003年に創設された「日本卸電力取引所(略称JEPX)」だ。9つの電力会社と大手の発電事業者が共同で設立した取引所で、「先渡市場」と「スポット市場」の2種類を運営している。2012年からは一般企業の自家発電設備による電力を取り扱う新市場も始まった。
この取引所が扱う電力を拡大できれば、小売事業者が臨機応変に調達量を増やして、顧客層を広げることが可能になる。そのためには現在よりも柔軟性のある取引の方法が求められる。1つの案は先渡市場よりも取引時期を早くした「先物市場」を新設して、需要の増加を想定した電力量を早めに確保できるようにする。もう1つは短時間の売買を可能にする「1時間前市場」の実現である(図2)。
電力の取引は前日までに立てた需給見通しをもとに、計画的に実施することが望ましい。とはいえ当日になって需給状況が変化することは頻繁に発生する。その一方で調達した電力が余ってしまう小売事業者もいるわけで、1時間前まで取引できる市場があれば需給状況の改善に役立つ。
合わせて取引に参加できるメンバーを拡大することも必要だ。従来の取引所では事業者だけが会員資格を得て取引に参加することができた。会員数は現時点で電力会社を含む72社にとどまっている(図3)。これでは取引所が電力市場で果たす役割も限定的になってしまう。
今後は電力を利用する需要家もメンバーに加えて、よりいっそう取引を活発にしていく(図4)。株式や為替と同様に電力の取引で収益を上げるトレーダーやディーラーといった金融機関の参加も想定できる。ただし電力の実需からかけ離れた取引が横行して、肝心の需給状況に悪影響を及ぼさないようにすることが課題だ。
取引所の参加者が拡大すれば、電力不足を回避するためのデマンドレスポンスも取引所を通じて実施できる。需要家を相手にデマンドレスポンスのサービスを提供する事業者が、削減分の電力を取引所で売買できるようになる。デマンドレスポンスの対価が明確になり、協力する需要家が増える。すでに米国では1時間前市場の中でデマンドレスポンスの取引が始まっている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.