次世代エネルギーを事業の中核へ、覚悟を決めたトヨタの環境戦略(前編)電気自動車(3/3 ページ)

» 2015年10月19日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]
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EVは短距離での利用を想定した車両に

 充填(てん)する水素の生成におけるCO2の発生を除き、走行時に限ればCO2フリーな究極のエコカーと呼ばれるFCV。トヨタは今回の発表であらためてFCVの普及に注力する姿勢を示した。一方でEVやPHEVについてはどういった戦略をとるのだろうか。EVについてはCO2フリーという観点ではFCVと同じはずだ。これについてもトヨタは今回の発表で一定の方針を明らかにした。まず図6にトヨタのHV、PHEV、EV、FCVなどの各車両のすみ分けを表した図を示す。

図6 各モビリティのすみ分け(クリックで拡大)出典:トヨタ自動車

 まずEVに関しては小型モビリティなど「近距離用途で利用する車両」として開発していく方針だ。EVの普及に向けた課題を考えた場合、1充電当たりの走行距離と充電時間の問題が挙げられる。伊勢氏は「バッテリー容量の増加に向けた開発は進んでいるが、充電時間を短縮できる技術のめどが全く立っていない。そのためEVは近距離用途の車両が最適なのではないかと考えている」と述べている。また、ガソリンエンジン車に慣れたユーザーには、数分で水素を充填できるFCVの方が適しているという考えのようだ。

PHEVを電気利用車の柱に

 一方PHEVについては「電気利用車の柱」にしていく方針を示した(図7)。先ほどの図1で示した販売台数の推移グラフにおいて、2050年にPHEVはHVと並んで大きな割合を占めている。PHEVのメリットは一定距離まではバッテリーの電力で走行し、長距離走行ではエンジンを利用できる点だ。EVで不安視される走行距離の課題をクリアしつつ、HVよりバッテリー容量を大きくして家庭用電源から充電可能にすることで、低CO2な電動走行の可能距離を長くできる。HV車よりCO2削減効果は高いだろう。さらにEVやFCVのように家庭に電力を送る「V2H(Vehicle to Home)」としての利用も可能だ。

図8 トヨタが訴えるPHVのメリット(クリックで拡大)出典:トヨタ自動車

 こうしたメリットがあることから、最近ではドイツの自動車メーカーを中心に続々と日本国内にPEHVモデルを投入し始めた(関連記事)。欧州で普及が進んでいたディーゼル車市場がVW問題でどう転ぶか分からなくなったことで、今後のエコカーの中心としてさらにPHEVに注目が集まる可能性も高い。

 「電気利用車の柱」になるとするものの、現時点ではトヨタが販売しているPHEVは「プリウスPHV」のみ。その他の日本メーカーでも生産しているのはホンダと三菱自動車だけだ。今回の発表でトヨタは長期的にPHEVの数を増やしていく方針を示したが、今後量産を拡大するたにはバッテリーがポイントになるだろう。現時点でトヨタが多くのエコカーに搭載しているバッテリーはニッケル水素電池が基本だ。ニッケル水素電池はコストや信頼性の面で優れるが、外部充電を行うPHEVにはエネルギー密度の点から見ても搭載できない。PHEVで必要になるのは必要になるのはリチウムイオン電池だ。

 トヨタは駆動用バッテリーとして現行の「プリウスα」に加え、4代目の新型プリウスの一部グレードにリチウムイオン電池を採用する。しかし現時点で大量生産/調達できる体制を整えているわけではない。今後トヨタがどのタイミングでPHEVに注力するのか、同時にその他への車種の搭載も含めこれまで採用に積極的でなかったリチウムイオン電池をどう扱っていくかはポイントになるだろう。

自動車業界にとっては「天変地異」

トヨタ自動車 専務役員の伊勢清貴氏

 ここまでトヨタの2050年に向けたHV、FCV、EV、PHEVへの取り組みについて紹介してきた。これらの4種類の車両がトヨタの主力車種となり、2050年には純エンジン車がほぼゼロになる計画だ。伊勢氏は会見でこの計画を自動車メーカーにとっては「天変地異に等しい」と表現している。今回の環境チャレンジは、それでもトヨタとしてはCO2削減に向けて取り組まなくてはならないという覚悟の判断だ。グローバル販売台数で世界トップクラスのトヨタがこうした計画を表明する影響は大きいだろう。

 なお、純エンジン車が“ほぼゼロ”となる理由は、新興国などのエネルギーインフラの状況に応じては、ガソリン・ディーゼルエンジン車が求められる可能性があるからだ。さらに将来的にゼロに近づくとはいえ今後も数十年にわたって純エンジン車は多くの台数が使われていく。そのためトヨタは引き続き高効率なエンジン開発にも注力していく方針だ。

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