「創造的な選択」への入り口クリエイティブ・チョイス

二者択一のワナに陥るな――。われわれは功罪相半ばする選択を日常的に迫られています。どちらかを選ばなければなりません。多くの場合は期限付きで、じっくり考える時間もないのです。しかし問題を「イエスかノーか」に絞り込んでしまうのも性急。選択肢以外の「第三の解」を創り出してみませんか。

» 2009年04月17日 08時30分 公開
[堀内浩二,Business Media 誠]

新連載「クリエイティブ・チョイス」について

 問題を「イエスかノーか」に絞り込んでしまってませんか?――。新連載「クリエイティブ・チョイス」は、選択肢以外の「第三の解」を創り出し、仕事や人生の選択において、満足度を高めることを考えます。4月23日発売の書籍『クリエイティブ・チョイス』から抜粋したもので、今回は序章より。


 ある日電車に乗ろうとした時、以前に仕事でご一緒した小川さんをお見かけしました。遠目からでもそれと分かるくらい、何かを考え込んでいるご様子。声を掛けるのをためらってしまいましたが、結局目が合って、懐かしい声を聞くことができました。そして別れるまでの20分ほどの間に、自分が迫られている難しい選択について話をしてくださったのです。

 中堅の商社に勤めている小川さんに、海外のメーカーA社が接触してきました。日本市場への進出を考えているので、市場調査と顧客開拓を頼みたいというのです。現在の会社を辞めてもらう代わりに2倍の年収を約束する、2週間以内に返答がほしい、というオファーでした。

 それが先週のことで、回答の期限は3日後とのこと。小川さんの悩みの所在をはっきりさせるお手伝いになればと、わざとシンプルに質問をしてみました。

 「2倍なんてすごいじゃないですか! 引き受けたらどうですか?」

 「でも、きっと1年ごとの契約になると思うんですよ。結局日本に進出しないと決めたら、契約はそこで終わりですよね」

 「なるほど、じゃあ止めておいたらどうですか?」

 「でも、成功する可能性は高そうなんですよね。A社みたいな製品を作っている日本の会社はないんですよ」

 「なるほど、そういう評価ができるから、A社も小川さんに声を掛けたんでしょうね。じゃあ思い切って引き受けたらどうですか?」

 「でも、僕ももう四十半ばですからね。これで失敗したら、もう転職できませんよ」

 「なるほど。じゃあ、あきらめますか……」

 「でも、僕なんかにヘッドハンティングの声が掛かることは、もう一生ないと思うんですよね。製品の知識とか海外で働いた経験とかを考えると、この狭い業界だと、できるとしたら自分かな、とも思うんですよ。自慢じゃないですけど」

 「1年だけ挑戦して、ダメだったら出戻れば?」

 「でも堀内さん、そんなことが許される会社じゃないですよ」

 小川さんが降りる駅に着きました。

 「付き合ってくれてどうもありがとう。結局、自分は動かないんじゃないかなと思います……」

 と言って、小川さんは電車を降りました。

二分法的思考

 小川さんにとって、状況は「魅力的だがリスクの高い転職の誘いを受けるか? あるいは、魅力はないが安定している会社勤めを続けるか?」という二者択一の問題でした。

 われわれも、大なり小なり小川さんと同じような選択を日常的に迫られています。功罪相半ばする選択肢から、どちらかを選ばなければなりません。多くの場合は期限付きで、じっくり考える時間もありません。

  • 魅力的だがリスクの高い市場に打って出るか?
  • 短期的な目標達成のために、長期的な戦略に背くか?
  • 利益のために、倫理に目をつぶるか?
  • 組織のために、個人の生活を犠牲にするか?
  • 将来の幸福のために、嫌がる子どもに今受験勉強をさせるか?

 しかし問題を性急に「XかYか?」「イエスかノーか?」と絞り込んでしまうと、ほかにあり得た選択肢を見逃してしまう恐れがあります。いわゆる「二分法的思考」です。「白黒思考」「マルバツ思考」「イチゼロ思考」という表現もありますね。アメリカの教育者ニール・ブラウンは、二分法的思考についてこう解説しています。

 一般的な二分法的思考は、私たちの視野を狭め、推論を限定します。2つの選択肢さえ考慮すればそれでよしとし、その他の多くの潜在的な選択肢、そのいずれかを選んだことで得られたかもしれない肯定的な結果、それらすべてを見逃すことになります。

M・ニール・ブラウン、スチュアート・M・キーリー著『クリティカル・シンキング練習帳』(森平慶司訳、PHP研究所、2004年)

 そうはいっても、われわれの日常は二者択一(としか思えない)問題であふれています。

 小川さんにとって「オファーを受けるか、受けないか」という選択肢以外の道があるでしょうか。転職や結婚、そして市場進出といった大きなイベントは「するか、しないか」であって、「半分だけする」とか「するが、同時にしない」といったような「第三の解」はないと思いがちです。

 本連載では「第三の解は必ず見つけることができる」という立場を取ります。一見すると「イエスかノーか」でしか答えようのない問題にどう取り組み、選択肢をどう創り出し、選択に対する満足度をどう高めるか。それをこれから考えていきましょう。

今日のクリエイティブ・チョイス「まとめ」

「クリエイティブ・チョイス」とは、二分法的思考を乗り越え、選択肢を自ら創造していこうとする姿勢です。

著者紹介:堀内浩二(ほりうち・こうじ)

株式会社アーキット代表。「個が立つ社会」をキーワードに、個人の意志決定力を強化する研修・教育事業に注力している。外資系コンサルティング企業(現アクセンチュア)でシリコンバレー勤務を経験。工学修士(早稲田大学理工学研究科)。著書に『「リスト化」仕事術』『リストのチカラ』の文庫化/ゴマブックス)がある。グロービス経営大学院客員准教授などを兼任。


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