筆者が文章を書き始めた時、自分の書いた文に自信を持てなかった。それに自分で書いた文は自分自信でなかなか修正できない。周りで筆者の文章を読んでくれそうなのはヨメサンだけ。ボロクソに言われそうなのは分かっていたが見せてみた――。
文章を書くための面白い素材はそろえた。次は、それをいかに料理するかである。ビジネスパースンの多くは、ちゃんとしたビジネス定型文を書くことができるのに、エッセイや小説など、他人が読んで楽しめる文章となるとなかなか難しい。
筆者がエッセイを書き始めた時、自分の書いた文に自信を持てなかった。文章が固すぎたり、柔らかすぎたりしたようだ。だからと言って、自分の書いた文を、自ら鳥瞰して不備を訂正するほどの能力を持たなかった。自分で書いた文は自分自信でなかなか修正できないものだし、自分の屁は臭くないのだ。
幸か不幸か、筆者は当時サウジアラビアのリヤドに駐在していた。周りをみると、筆者の文章を読んでくれそうなのはヨメサンだけ。(筆者に出会った)大学まで秀才で通したヨメサンには、できれば筆者は自分の書いた文を見せたくなかった。ボロクソに言うのが分かっていたからだ。
うちのヨメサンにせよ、ほかの家のダンナさんにせよ、結婚してから数年もたつと遠慮や配慮の欠損が見られる。原稿を見せた時には、こうした遠慮や配慮が足りないと、言いたいことを言いたいように言うわけだ。
しかし、筆者としても原稿を送る必要があって背に腹は代えられない。ヨメサンに「すまんが、一読してくれないかなあ。時間のある時にでも……。申し訳ないなあ、忙しいだろうが」と低姿勢に出た。「分かった。読めばよいのでしょう。そこに置いておいて」と受け付けてくれたが、3日放置された。
「おい、もう送る必要があるんだから」と急かす。読んだヨメサンは「全体に、チグハグな感じがするわ」「こんな文を読まされるのは、まっぴらね」「『です・ます』と『だ・である』が混ざっているわよ。やめてよね」「同じことの繰り返しが多いわ」「自分1人が面白がっているわ」などと言いたい放題。
くそー、と思いながらも「そうか、それでどこをどう直せばいいかな」と聞くと、「ちょっと修正は難しいのでは」と。そこまで言うか。
「分かった。もう一度、書き直してみる」。筆者は悔し涙を隠して、再度書きなおしたものだ。こんなことを繰り返して半年、自分で書いていて慣れると、自分の文体のようなものが見えてくる。
そうした文体に収まる、収まらないという判断基準ができると、自然と自己チェックできるようになってきた。併せて自信が持てるようにもなってきた。ヨメサンのコクコメ(酷なコメント)は必要なくなってきたし、見せてもコクコメが出なくなってきたのもこのあたりだ。ヨメサンが筆者の文体に慣れた、感染した、免疫ができた――のかもしれない。こうして、筆者は自分のエッセイを独走し始めた。
その後、ヨメサンが原稿を書く破目になった。当然ながらヨメサンは、筆者に原稿を読んでほしいときた。こちらも積年の気持ちを素直にぶつけた。「全体に盛り上がりが欠けとる」「要は面白くない」。これですっきりとしたものだ。
そうだ。夫婦の最大有効活用法として、夫婦間の知的修行があるのだと気がついた。それだけでも結婚する値打ちがある。夫婦の間ほど遠慮がなくなる人間関係はほかにはなかなかない。このパワーは見逃されている。
30年前はワープロもPCもなかった。手書きで面倒だった。そんな昔と違って今はPCのおかげで、書きなおすことも以前と比較にならないほど簡単になった。だから、配偶者に何を言われても、書き直せばよいだろう。
ボロクソに言い合いながら、筆者とヨメサンは共著で8冊も本を出した。これは奇跡としか言いようがない。ヨメサンやダンナの知的添削力を活用できるなら、恋人ではどうだろうかと思うかもしれない。これは慎重にやった方がよい。文というのは、自分の好きな文章や読みやすい文体があるし、不慣れであることから読みづらいこともある。
「こんな文章を書く人とは一生一緒にいられない」「こんなひねくれたコメントをするのか」と思うと関係が崩れる可能性がある。筆者は一切責任を持てない。
「あ、あなたの文章キライじゃないんだから」――こんなツンデレヨメなら許す。
1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら。アイデアマラソン研究所はこちら。
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