既婚ビジネスパーソンの文章上達法“修羅場添削”――配偶者を活用せよ樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

筆者が文章を書き始めた時、自分の書いた文に自信を持てなかった。それに自分で書いた文は自分自信でなかなか修正できない。周りで筆者の文章を読んでくれそうなのはヨメサンだけ。ボロクソに言われそうなのは分かっていたが見せてみた――。

» 2009年06月19日 10時30分 公開
[樋口健夫,Business Media 誠]

 文章を書くための面白い素材はそろえた。次は、それをいかに料理するかである。ビジネスパースンの多くは、ちゃんとしたビジネス定型文を書くことができるのに、エッセイや小説など、他人が読んで楽しめる文章となるとなかなか難しい。

見せたくなかったが……

 筆者がエッセイを書き始めた時、自分の書いた文に自信を持てなかった。文章が固すぎたり、柔らかすぎたりしたようだ。だからと言って、自分の書いた文を、自ら鳥瞰して不備を訂正するほどの能力を持たなかった。自分で書いた文は自分自信でなかなか修正できないものだし、自分の屁は臭くないのだ。

 幸か不幸か、筆者は当時サウジアラビアのリヤドに駐在していた。周りをみると、筆者の文章を読んでくれそうなのはヨメサンだけ。(筆者に出会った)大学まで秀才で通したヨメサンには、できれば筆者は自分の書いた文を見せたくなかった。ボロクソに言うのが分かっていたからだ。

 うちのヨメサンにせよ、ほかの家のダンナさんにせよ、結婚してから数年もたつと遠慮や配慮の欠損が見られる。原稿を見せた時には、こうした遠慮や配慮が足りないと、言いたいことを言いたいように言うわけだ。

 しかし、筆者としても原稿を送る必要があって背に腹は代えられない。ヨメサンに「すまんが、一読してくれないかなあ。時間のある時にでも……。申し訳ないなあ、忙しいだろうが」と低姿勢に出た。「分かった。読めばよいのでしょう。そこに置いておいて」と受け付けてくれたが、3日放置された。

 「おい、もう送る必要があるんだから」と急かす。読んだヨメサンは「全体に、チグハグな感じがするわ」「こんな文を読まされるのは、まっぴらね」「『です・ます』と『だ・である』が混ざっているわよ。やめてよね」「同じことの繰り返しが多いわ」「自分1人が面白がっているわ」などと言いたい放題。

 くそー、と思いながらも「そうか、それでどこをどう直せばいいかな」と聞くと、「ちょっと修正は難しいのでは」と。そこまで言うか。

 「分かった。もう一度、書き直してみる」。筆者は悔し涙を隠して、再度書きなおしたものだ。こんなことを繰り返して半年、自分で書いていて慣れると、自分の文体のようなものが見えてくる。

 そうした文体に収まる、収まらないという判断基準ができると、自然と自己チェックできるようになってきた。併せて自信が持てるようにもなってきた。ヨメサンのコクコメ(酷なコメント)は必要なくなってきたし、見せてもコクコメが出なくなってきたのもこのあたりだ。ヨメサンが筆者の文体に慣れた、感染した、免疫ができた――のかもしれない。こうして、筆者は自分のエッセイを独走し始めた。

知的修行こそ結婚生活の最大活用

 その後、ヨメサンが原稿を書く破目になった。当然ながらヨメサンは、筆者に原稿を読んでほしいときた。こちらも積年の気持ちを素直にぶつけた。「全体に盛り上がりが欠けとる」「要は面白くない」。これですっきりとしたものだ。

 そうだ。夫婦の最大有効活用法として、夫婦間の知的修行があるのだと気がついた。それだけでも結婚する値打ちがある。夫婦の間ほど遠慮がなくなる人間関係はほかにはなかなかない。このパワーは見逃されている。

 30年前はワープロもPCもなかった。手書きで面倒だった。そんな昔と違って今はPCのおかげで、書きなおすことも以前と比較にならないほど簡単になった。だから、配偶者に何を言われても、書き直せばよいだろう。

 ボロクソに言い合いながら、筆者とヨメサンは共著で8冊も本を出した。これは奇跡としか言いようがない。ヨメサンやダンナの知的添削力を活用できるなら、恋人ではどうだろうかと思うかもしれない。これは慎重にやった方がよい。文というのは、自分の好きな文章や読みやすい文体があるし、不慣れであることから読みづらいこともある。

 「こんな文章を書く人とは一生一緒にいられない」「こんなひねくれたコメントをするのか」と思うと関係が崩れる可能性がある。筆者は一切責任を持てない。

今回の教訓

 「あ、あなたの文章キライじゃないんだから」――こんなツンデレヨメなら許す。


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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちらアイデアマラソン研究所はこちら


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