インタビュー
» 2009年08月10日 09時38分 公開

斬新とは省略すること――「AR三兄弟」川田さんひとりで作るネットサービス(2/2 ページ)

[田口元,Business Media 誠]
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 当時、就職のことはまるで考えていなかった。ただ、ひょんなことから今勤めているメーカーの取締役に会う機会があった。当時生意気盛りの川田さん(金髪、坊主、鼻ピアス)を見てもその人は臆することなく話しかけてきた。「君は今、何をやっているんだ」「Webを作ったりしています」という会話からとんとん拍子に就職が決まっていった。ただ単位の計算を間違っていた川田さんは1年留年。就職は決まっていたが1年保留にし、その間は正社員ではなくバイトとして雇ってもらうことにした。そしてそのバイト期間で川田さんはさらに新しいスキルを身につけることになる。

 「バイト期間中、1つ大きな仕事をまかせてもらったのですが、それが大変で大変で……。お客様がインターネットを通じて発注した契約をデータベースに保管し、ほかの企業のデータベースと連携させながら帳票をつくって確認票を送って……といったシステムをひとりで作ることになってしまったのです」。ホームページはともかく、サーバ、データベース、帳票、業務フローといったシステムを作るのはもちろん初めてだった。さまざまな苦労があったが、必死に勉強し、なんとか完成にこぎつけたという。

履歴書の“経歴欄”に「目標を書き込んで提出した」

 そして1年経つころ、自信をつけていた川田さんは履歴書の経歴欄に自分の目標を書き込んで提出した。「普通、経歴の部分は大学卒業のあとは空欄ですよね。でも僕はそこにこの会社でいつ何を成し遂げたいかを羅列していったのです」。また、「自分はビジネスにインターネットを活用するための部署を作りたい、そしてそこの部長にしてくれ」といった希望を添えることも忘れなかった。

 「なんといってもメーカー系列会社ですから、部長職はみんな50代の方ばかりです。若者が何をいっているのだ、とあきれられましたよ」。川田さんは苦笑する。ただ前年度の実績があったため、アルバイトを雇ってチームは作ってもいい、という許しは得られた。「そこからがやはり大変でしたね。チームはあっても実績はありませんから」。そこで川田さんは飛び込み営業をして実績作りに奔走する。「大手代理店に飛び込んで『仕事下さい!』とお願いする毎日でした」

 そうした努力が実り、ぽつぽつと仕事をもらえるようになった。メーカーや薬品会社のホームページを作ったり、Flashのゲームを作ってはこつこつと実績を積み重ねていった。そうした実績が評価されはじめ、ある日「今年の新卒サイト、作ってみるか?」と上司から打診された。喜んだ川田さんは当時珍しかった音声を活用したFlashのサイトを作り上げた。「よく先輩の声というコンテンツがありますが、あれって声じゃないですよね。だから本当の“声”にしようと思いまして」

 そこからはとんとん拍子だった。本社のサイトを任せてもらったり、メーカーが進めていたハードウェアとインターネットをつなぐ特許発案チームの一員になったり、世界中の協力会社へネットを介して発注できるシステムも構築していった。川田さんのチームは社内で独自の地位を固めていき、研究開発も兼ねてさまざまな新技術を試すことが仕事になっていった。「AR三兄弟」もその一環である。

人との出会いが今後につながる

 「今はAR三兄弟がどう会社の役に立つかはまだ分かりません。しかしユニークな試みをすることで内外の注目を集めることはできます。こうして取材していただけるのもその成果の1つだと思います」

 「ARを勉強することでセカイカメラの井口さんともTwitterで会話できるようになりました。こうした人との出会いがいずれメーカーを動かす企画へと育っていくのだと思います」。川田さんは今後の展望をそう語ってくれた。会社員でありながらも独自の地位を築き、ネット上へ発信していくことで自分も会社も成長していく。川田さんが行ってきた活動に学ぶことは多いのではないだろうか。

デモムービーにも登場する、マーカーが印刷されたAR三兄弟Tシャツ。背側の首元には「AR家族」のロゴとURLが入っている

いつも持ち歩いているぺんてるのサインペン。定番製品だが「1種類しかないこの太さがしっくりくる」という

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