全文公開! Ustream初出演、池上彰さんの仕事術(後編)Real Time Webな働き方(4/4 ページ)

» 2011年01月06日 13時00分 公開
[藤村能光Business Media 誠]
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記者は出世を求めちゃいけない【1時間22分41秒前後】

池上 今の日本のメディアが抱えていることはいっぱいあります。敢えて1つに絞って言えば、素人に毛の生えたような人が記者になって取材をしているということなんですね。

津田 うんうん。

池上 記者クラブ制度も例の1つですが、記者クラブという閉鎖的なものがあるものですから、非常に専門的なフリーの記者が会見に参加できないという問題がありますね。記者クラブに入っている大手のメディアの記者たちってみんなローテーションで回されているわけです。そうすると20代後半から30代ぐらいで厚生労働省を持ったり文部科学省を持ったりしているわけですよ。

 その何十年間の厚生労働省の行政、教育行政のことをきちんと知らないまま取材していますね。そうすると結果的に、官僚のレクチャーを受けて「ああそうなんだ」と思って右から左に書いてしまっている。結果的に底の浅いものになったり、官僚にコントロールされるような記事が出てしまうと。

津田 そうですね

池上 あるいは政治の世界で政策の勉強をしないまま政治取材に入ると、政界・政局のニュースばっかりになるんですよ。民主党の小沢派と反小沢があーだったこーだったとか、両方が赤坂の路上でばったり出会ってののしりあったとか。そういう話ではないでしょう。どういう政治を進めていくかが分からないまま、結果的に底の浅い話になっている。

 米国の大統領の記者会見に行けば、それこそ髪の毛がなかったり真っ白な60〜70代の人がオバマに質問をしているんですよ。オバマに対して「そうはいうけどルーズベルトやクリントンはこうだったよ」という形で比較して歴史的な中で話ができます。そういう記者がいないんですよ。

 私は鳩山がぱっとやめたときに、これは細川と同じだと思ったんですよ。細川と鳩山が投げ出したことの歴史的な位置付けが、その場で記者達から出てこない。つまり細川を取材した記者が現場にいないから。それが非常に底の浅い報道になっているのかなと。それは何に関してもそうですよね。いつまでも現場にいられるような仕組みにしていかないと。

 記者が出世を求めちゃいけないんですよ。書かない、取材をしない記者があまりに多くなりすぎている所に大きな問題があるだろうと。記者会見場にいった時に後ろから見ると、頭がぴかぴか光っていたり真っ白だったりすれば、記者会見に出てきた人だって身構えますよね。そこで初めて、身のある、緊張感のある記者会見ができる。そこからメディアの内容が変わっていくと私は思います。

津田 素人の記者が増え、記者クラブ制度がある中で、今日のUstreamの話もそうですが、Twitter、ブログを含めたボトムアップ型のネットジャーナリズムは今後伸びていける可能性はありますか?

池上 ありますよ。記者会見上での様子がTwitterで中継されちゃうわけでしょ。テレビで生中継が入っている記者会見と、そういうことがない閉鎖的な記者会見があるでしょ。後者はなれあいになりがちです。そこに異質な人がいて、Twitterでそのやり取りが外に出るとなれば、緊張感があるものになりますよね。

津田 上杉(隆さん)さんがやっていますよね。

池上 それが実はとても大事なことなんですよ。だからTwitterが大切になる。これを“わがたみずひき”(我田引水)と言います(会場爆笑)。


津田 いやーお話が尽きないのですが、汐留に次の方を待たせているということで、そろそろ締めなければいけません。池上さん、今日のまとめをお願いします。Ustreamはどうでしたか? 

 Twitterのタイムラインを見ていたら結構おもしろくて、テレビより面白いよ、つまんないよという人がいたりして。テレビとの比較ではなくて、Ustreamの番組のコンテンツが、これからUstreamとして成長していけばいいかなと思っているんですけど。

池上 その通りなんですよね。テレビや新聞と比較して、ではなくまったく新しいメディアが生まれているわけでしょ。そのメディアの可能性をいろいろ実験してみることがとっても大切なんです。

津田 トライアルアンドエラーがなぜできるかって、安いんですよ、ほとんどただですからね。機材さえ買えばただでできる、これがネットの可能性の1つだと思いますね。

池上 そういう可能性を皆さんで実験してもらいたいと思っています、かつてメディアが初めて出たころは新聞が出て、瓦版だったでしょ。文字の読み書きが不十分な人のため絵が書いてましたよね。それでやがてテレビになり、絵が出て、ヴィジュアルで見せるという形で、どんどんメディアは発展し、変貌してきました。

 でも、「あることをある人に伝える」という本質は変わっていないわけです。新聞でも「あることをある人に伝える」という役割もあるし、「自分の意見をある人に伝えたい」というメディアの役割は本質的に変わっていないでしょう。今ここでTwitterをすることで、現場にいられない人達に対して「現場にいること」を伝えていますよね。

 これがメディアの現場であり、つっこみや感想を入れたりしていることが自分の意見をいっているんだということです。メディアの本質って変わっていない。その中でどのような新しい可能性を生み出すのか。それを是非実践していただければなと思っています。

津田 これから伸びていく新しいメディアに、池上さんがたくさん出ていただければと思いますし、もう第2回(のUstream放送)はいつですかという質問、要望も出てきていますよ(笑)。

池上 いえいえ。池上バブルはいつはじけるかというのは、本だけではないんですよ。

津田 違います。本とは違いますよ。インターネットはさらしてこそいいものなので、さらすことを繰り返すことによって、さらに池上さんの価値が上がっていくと思います。

池上 いや、何とか露出を減らしていきたいと思っているんですね。駅の立ち食いそばが安心して食べられるような環境にしていきたいなと(笑)。

津田 そういう場合はUstreamで、駅の立ち食いそばで見かけても声を掛けないでくださいといえば、それを見た人は配慮して声をかけないと思うんです。そしてTwitterで「見ましたよ」と後でそっと来る、みたいな。それくらいの方が思いやりがあっていいんじゃないですか。

池上 そうですね。「駅そばなう」なんて書かないでくださいね(会場笑)。

津田 my WorkStyle on Real Time Web powered by Lotusの第5回目、ゲストはジャーナリストの池上彰さんでした。どうもありがとうございました。

池上 ありがとうございました。

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