あなたは越えられるか――『キャズム』:藤沢烈の3秒で読めるブックレビュー
技術に優れた会社が撤退し、劣っているはずの会社が成長することがある。その理由を「キャズム(落とし穴)」の乗り越え方にあるとした、マーケティング理論書が『キャズム』。主要ビジネススクールの課題図書でもある。あなたはキャズムを越えられるだろうか。
技術に優れた会社が撤退し、劣っているはずの会社が成長することがある。その理由を「キャズム(落とし穴)」の乗り越え方にあるとした、マーケティング理論書が『キャズム』。著者のジェフリー・ムーアはマーケティングコンサルタントであり、本著はスタンフォードなど主要ビジネススクールの課題図書となっている。
市場拡大における5つの顧客
事業の成長に伴い、対象顧客は変化する。技術を愛好するマニアとも呼ぶべき革新者(イノベーター)が最初の顧客。最新技術を取り込むことでビジネスを革新させようとする先駆者(アーリーアダプター)が続く。他社の導入事例を確認してから購入する実利主義者(アーリーマジョリティー)。商品と提供会社のサポートが安定してから導入する保守派(レイトマジョリティー)。そして新技術は自ら使用しない懐疑派(ラガード)と続く。
キャズムとは何か
キャズムは、アーリーマジョリティーである実利主義者が導入を検討する段階で発生する。技術に優れた会社は革新者や先駆者で構成する初期市場で成功したとしても、実利主義者・保守派によるメインストリーム市場では苦戦するからだ。その理由は、2つの市場が互いに矛盾する要素を持ち合わせるからだという。
初期市場では、技術による変革が求められるから、他社が導入していないことや、既存製品と関連がないことは有利に働く。メインストリーム市場では、技術の革新さよりも、安定稼働と他社事例もポイントになる。初期市場の成功要因は、メインストリーム市場で裏目に働くのだ。
キャズム越えの要件とは
ではいかにキャズムを乗り越えるか。著者は、売上を目標とすることを一度やめ、注力する市場を狭めて提供価値を見直せ――という。技術優位を持つコアプロダクトに限らず、顧客ニーズを満たすための付属品やサービスを含めたホールプロダクトとして製品を提供すべきだという。
Twitterなどのソーシャルメディアでは「キャズムを越えたか?」といった議論が時折繰り広げられる。本著が示す“キャズム越え”を果たすためには、単純に利用者が増えるだけでなく、ユーザーのコミュニケーションニーズを満たすために各種サービスをパッケージ化する必要があるのだろう。
著者紹介 藤沢烈(ふじさわ・れつ)
RCF代表取締役。一橋大学卒業後、バー経営、マッキンゼーを経て独立。「100年続く事業を創る」をテーマに講演・コンサルティング活動に従事。創業前の若者に1億円投資するスキームを企画運営し、話題を呼ぶ。「雇われ経営参謀」として500人以上の経営・企業相談を受けてきた。ブログに毎日書評を掲載し、現在1200冊超。
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