ジャック・マー氏“失踪”直前のスピーチ全文(前編)浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(4/5 ページ)

» 2021年01月14日 12時00分 公開
[浦上早苗ITmedia]

 2つ目に言いたいことは、イノベーションには犠牲が伴うということです。私たちの世代は責任から逃げるべきではありません。

 習近平主席は以前、「成果を得られるなら功績が私にある必要はない」とおっしゃいました。私はこの言葉を未来、明日、次世代のために責任を負うことだと理解しました。中国を含む世界が抱える問題の多くは、イノベーションでしか解決できません。しかし本物のイノベーションは、人が(人に)道を示すことはできず、責任を背負って取り組む人が必要です。

 イノベーションには過ちがつきものですが、どうやって誤ちを避けるかではなく、その後に修正を図りながらイノベーションを続けることが鍵です。リスクを取らないイノベーション活動は、イノベーションを殺すことと同義です。リスクのないイノベーションは世界のどこを探してもありません。多くの場合、リスクをゼロにすることこそ最大のリスクです。

 「(三国志に登場する)赤壁の戦い」を考えてみましょう。曹操が船を連結したアイデアは、「空母」につながるものです。しかし、火を着けられたことで、その後1000年、そのアイデアは封印されました。火攻めにされるリスクを考えると、誰もこの革新的なアイデアを実行できませんでした。これは歴史的なイノベーションを闇に葬るという過ちです。

 7、8年前、私はインターネット金融構想を打ち出しました。インターネット構想に不可欠な3つの要素は、豊富なデータ、ビッグデータに基づくリスクコントロール技術、ビッグデータに基づいた信用体系の3つだと言い続けてきました。この3要素の有無で判断するならば、P2Pはそもそもインターネット金融ではありません。

 しかしP2Pがインターネット金融ではないからといって、インターネット技術が金融業界にもたらしたイノベーションを否定してはいけません。中国がこの数年でなぜインターネット金融企業を数千社も生み出せたのか、そして数千社のP2P企業が登場したのか、きちんと考える必要があります。

 今、中国における監督管理は確かに容易ではありません。イノベーションは市場から、末端部分から、若者から発生し、監督管理の課題はますます厄介になっています。監督と管理は別物で、「監」は発展、成長を目的にし、「管」は問題があるときに管理します。中国は「管」の能力は強い一方、「監」の能力は足りません。良いイノベーションは監督管理(規制)を恐れませんが、しかし、古いやり方で監督管理されることを恐れます。鉄道駅を管理する方法で、空港を管理することはできません。過去のやり方で未来は管理できません。

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