馬主ならぬ「象主」になれます――。
11月にJR東海(販売元はJR東海ツアーズ)が、こんなユニークな「旅行商品」を打ち出した。価格はなんと30万円。旅行商品としては確かに高額かもしれないが、馬主になったり、ペットを購入したり……という観点で考えれば高額ともいえない。
実はここでいう「象主」とはゾウの所有者になれる権利をもらえるものではない。よくある「一日警察署長」のように、1年間限定で愛知県豊橋市にある「のんほいパーク」が飼育するアジアゾウの名誉「象主」になれることを指す。
のんほいパークは象主になった客に、他では味わえない体験を提供する。例えば飼育体験を提供したり、象からグリーティングカードをもらえたり、対象となる象の誕生日に像へフルーツバスケットをプレゼントしたりなど工夫を凝らした。のんほいパークも「象主の方にはのんほいパークの総力を挙げておもてなしをする」と話しており、職員が案内する「㊙バックヤードツアー」やセグウェイ散策なども用意している。
特に面白いのは「オリジナル象主名刺」だ。本業以外のいわゆる「2枚目の名刺」として使えば、「実はアジアゾウの“象主”もやっておりまして……」といった決めぜりふを言いながら、あいさつや営業の場面で威力を発揮しそうだ。
しかし問題は、なぜJR東海がこんな「くだらない」とも思えるとがった商品を用意したのかだ。担当者が語る。
「象主のプランを造成するにあたり、のんほいパークの方々と話をするなかで、野生のアジアゾウが生息域を奪われている状況や、各地の動物園がエサの確保に苦労している現状などさまざまな課題を知りました。
そこでアジアゾウをはじめ野生生物の生息域減少についてのレクチャーを受けたり、旅行代金の約半額をエサ代として動物園に寄付したりするなど、象主プランを通じて、自然環境やアジアゾウの生態、生物多様性などを学べる設計にしました」(JR東海営業本部・尾原崇文氏)
聞けば代金の30万円のうち、15万3300円はエサ代に充てられるという。
旅行商品としては高額な料金設定を含めて、社内で反対意見が出そうなものだ。だが、「社会性が高いコンテンツ内容ということもあり、新しいキャンペーンの新しいチャレンジとしてすんなりGOサインが出ました。多くの方にこの企画を通じて、野生動物の危機や動物園の苦労を知っていただけるとうれしいです」(尾原氏)と話す。
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