特産品を都内でPR 新幹線物流を生かしたJR東日本のフードビジネス戦略JR新大久保駅ビルに食の催事場(1/2 ページ)

» 2021年11月26日 08時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

 地域の特産品を都市部でPRする動きが加速している。地方自治体が東京都内などに「アンテナショップ」として専門店を出店する動きは以前よりあった。近年では新幹線や航空機を使用した輸送も盛んだ。

 例えば、2015年に北陸新幹線が金沢まで開業した際には、富山県の名産「鱒鮨(ますずし)」が新幹線によって東京に運ばれ、その日作られた鱒鮨が都内のアンテナショップで販売された。また、全国各地の漁港で取れた魚介類を、航空機や新幹線を利用して速達輸送する取り組みも進んでいる。

 新幹線などを用いた荷物輸送は、特にJR東日本管内の新幹線で盛んだ。この取り組みはコロナ禍以前から実証実験などの形で何度も実施されている。例えば、19年6月にはJR東日本の子会社「JR東日本スタートアップ」と、水産物の卸・小売を手掛けるフーディソン(東京都中央区)が協働する形で、新幹線物流を用いた実証実験が実施された。

 この時の実験では、新潟県の佐渡沖でその日の朝に水揚げされた生の甘エビや、岩手県の三陸沿岸の塩水加工した生ウニを新幹線で輸送し、品川駅構内の鮮魚店で販売する施策が実施された。

JR新大久保駅ビルにあるフードラボ「キムチ、ドリアン、カルダモン、、、」(リリースより)

JR新大久保駅ビルにフードラボを開業

 これまでの取り組みは、地域の特産品を東京でそのまま販売する形が主体だった。今年に入り、こうした食材を活用した飲食店を展開する取り組みが実施されている。

 JR東日本が手掛ける山手線ブランド「東京感動線」が新大久保に開業したフードラボ「キムチ、ドリアン、カルダモン、、、(以下K,D,C,,,)」もその一つだ。

 K,D,C,,,は山手線の新大久保駅に直結する「JR新大久保駅ビル」の3階と4階に位置していて、3階は4店舗が出店できるスペースになっている。デパートにおける食の「催事場」のようなスペースで、入れ替わりで地域の食材を活用した店や料理人が出店できるというわけだ。

 地産の食材や地域独自の食文化を伝えるイベントが、「Slow Neighborhood(スローネイバーフッド)」と題して不定期で開催されている。10月はこの第一弾として、新潟県佐渡地域と、福島県会津地域の特産品を活用したイベントが実施された。

 狙いは何か、JR東日本で「東京感動線」を手掛ける企画・地域共創課の古田恵美副課長はこう話す。

 「地域には『収穫量が確保できない』などの理由から、全国的な流通はされず、その地域だけで消費される知られざる食材が少なくありません。また、その調理方法も地域に暮らす人でなければ分からない独自の食文化が存在します。こうした魅力を駅利用者や東京に在勤・在住の若年層の方々を中心に届けたいという思いで始めました」

JR東日本の古田恵美副課長(左)とMENDIの横山裕代表

 食材は上越新幹線による新幹線物流を活用して、新鮮なものが使われているのが特徴だ。佐渡からは、佐渡産のコシヒカリやもずく、「おけさ柿」と呼ばれる柿や、なすやピーマン、黒豚やブリなどを使用した料理が。会津地域からは、ブルーベリーやリンゴやトマト、また、国内屈指の天然炭酸温泉として知られる金山地域に湧出する炭酸水などが活用されている。

 料理の質にもこだわりを見せる。単に食材を料理として提供するのではなく、フレンチ料理人の椎名健児さんも参画し、佐渡や会津の食材をフランス料理としてアレンジした食事を提供していた。

フレンチ料理人の椎名健児さん

 「スローネイバーフッド」で提供されるのは料理だけではなかった。若年層をターゲティングとして、現在西会津町に地域おこし協力隊アート担当として住む若手クリエイター・西尾佳那さんの映像作品も展示されていた。店内には天井や壁を「大画面のスクリーン」として映し出せる空間を多く用意していた(現在は終了)。

椎名健児さんが提供したフレンチ料理
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