こうした状況に前々から警鐘を鳴らしていたのが川田氏だった。上記のようなことを、新卒研修時代、毎日のように実習日誌に書いては上司に楯突いた結果、会社の怒りを買う。研修終了後、大卒社員は基本的に本社勤務となる中で、一人だけ工場配属という左遷人事を食らった。ただ、川田氏には信念があった。
「あるべき姿というか、正義感というか、そういう思いは昔から常に持っていましたね」
以降も挫(くじ)けることなく、思ったことを堂々と口にするなど、“異端児”ぶりは健在だった。後年、社長の白羽の矢が立ったことは、周囲だけでなく川田氏自身も青天の霹靂(へきれき)だったと回想する。ただ、経営トップの座についたことで、いかんなく力が発揮されるようになった。それがセーレンの革命につながっていく。
社長になった川田氏が取り組んだことは、繊維産業からの脱却。それを実現するため、5つの経営戦略——「ビジネスモデルの転換」「非衣料・非繊維化」「IT化」「グローバル化」「企業体質の変革」を打ち出した。
中心となったのが、ビジネスモデルの転換である。既に述べたように、細分化された繊維産業の構造そのものが問題だった。セーレンはそうした分業体制から抜け出し、一貫生産体制の確立を目指した。
「分業だと儲からない。われわれが長年やっていた染色加工というのは委託なんですよ。自分でものを作ったり、売ったりしていない会社だったわけです。白い生地をお預かりして、この色に染めろと言われて、言われた色に染めて、お返しして。そうするとお駄賃がもらえる。賃加工であって、売買はない」
これまで染色加工一本足だったセーレンだったが、川田氏はすぐさま整経・製織・編立と、縫製の子会社を設立して事業化した。そして、一貫生産体制に向けた最後のピースとなる原糸の製造のために、業界内の反発を押し切ってまでもやってのけたのが、2005年のカネボウの繊維事業の買収だった。
「再生不可能というレッテルを貼られていた会社を引き取るわけですから、社内外とも大反対でした。繊維業界のトップ企業の社長からは『まったく可能性のない会社。これは国に任せてつぶそう』とまで言われました。しかし、セーレンはプロセス産業から抜け出し、糸から最終の縫製まで全工程を内製化しないと生き残れないと考えていました。繊維業界では非常識で、頭が狂ったんじゃないかと散々言われましたよ。でも、一貫生産体制は夢でしたし、結果的にこれが最大の武器になりました。繊維産業において全てを内製化できるのは世界でもセーレンだけです」
一貫生産体制を築いたことで、繊維のコア技術をさまざまな分野に応用できるようになった。代表例が、全社売り上げの約6割を占めるほどの稼ぎ頭となっている車輌資材事業だ。カーシートの表皮材をはじめ、加飾部品、エアバックなどの企画、製造、販売を行う。同事業で開発された合成皮革の新素材「QUOLE」は本革の4倍の耐久性、2分の1の軽さという機能性の高さが自動車メーカーなどから注目を集め、グローバルでトップシェアを誇る。
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