また、この革命を支えたのがITだった。
30年前に作り上げた「Viscotecs(ビスコテックス)」というシステムは、現在もセーレンの製品開発に欠かせない大黒柱となっている。ビスコックスとは、小ロット、短納期、カスタマイズなどを実現し、「ほしいものを・ほしいときに・ほしいだけ」作ることができる独自のデジタルプロダクションシステムのこと。例えば、世界に1着だけのオーダーメイドなども可能である。
バブル景気のころ、多くの日本企業が不動産など本業とは無関係なものに投資する中、セーレンはビスコテックス構築のために200億円もの費用を注ぎ込んだ。
ところで、あの当時、ITを唱える日本の経営者はそう多くなかった。きっかけは何だったのか。
「まだコンピュータが世に出始めたころで、ITという言葉はあったけど、一般的ではありませんでした。ただ、会社の将来を見通したとき、コンピュータを経営にどう取り入れていくのかが、生き残るためのテーマだと思ったわけです。あとは、当時、富士通の社長だった山本(卓眞)さんなどの影響もありましたね。彼らと話をしていて、ITの時代になってくるのかなという予感はありました」
一連の革命はセーレンをどう変えたか。
1972年には染色加工が同社の売上高の97.3%を占めていた。川田氏の社長就任時にもまだ51%あったが、2021年度はわずか6.0%に。衣料事業の減少も顕著だ。社長就任時は非衣料ビジネスの割合がまだ40%だったが、現在は83%と倍以上に増えている。
加えて、全体売り上げは社長就任時の約500億円から1000億円超えになった。日本の繊維業界は、1991年の12.4兆円をピークに、2018年には3.8兆円まで激減しているが、セーレンの業績はそれと反比例する。これは、あの時の川田氏の経営判断が間違いでなかったことを証明する。もしセーレンが旧態依然としたビジネスモデルに固執し続けていたら、果たしてどうなっていただろうか。
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