「日本を代表するメーカーの社外相談役からお褒めの言葉をいただきました。製造業において売り上げが2割減っても、利益を出せる体制を作ったのは素晴らしい。それは大企業でも難しいことだと」
総合繊維メーカー大手・セーレンの川田達男会長はこう明かす。福井市に本社を構える創業133年の同社は、衣料繊維に加えて、インテリア、車輌資材、美容・健康、医療・介護、土木・建築資材、エレクトロニクスといった幅広い事業を展開する。中でも合成皮革など自動車シート表皮材では世界トップシェアを誇る。
押しも押されもせぬ福井のトップ企業ではあるが、新型コロナウイルスの影響は小さくなかった。2021年3月期 第2四半期決算(20年4〜9月)の連結売上高は、前年比でマイナス28.5%の434億9600万円に。一般的に製造業でこれだけ売り上げが下がれば営業赤字になるといわれている。ところが、セーレンは踏みとどまった。前年比で44%減ながらも、営業利益28億4400万円を確保した。
さらに下期は盛り返したことで、同年通期は売上高986億8800万円(前年比17.9%減)、営業利益85億8000万円(同18.3%減)と、見事に黒字で乗り切った。
この裏にはスピーディーな経営判断と、全社一丸となった危機対応があった。
「最悪の場合を想定してすぐさま操業体制を切り替え、就業時間を8割に抑えました。残業削減だけでは済みませんから、一時帰休も含めて思い切った働き方に変えました。当然、仕事は減りましたが、社員もしっかりと理解して、ついてきてくれました」と川田会長は強調する。
加えて、付加価値の低い事業にメスを入れ、利益率の低い製品を大胆に削減していった。それによって全体の利益率を高め、早くも20年中には給料の減収分をボーナスなどで全て社員に還元し終えたというのだから驚きである。
さらに目を見張るべきは、21年度上半期は全ての事業セグメントで増収増益をたたき出し、主力の車輌資材事業では中間期として過去最高益を上げたことだ。勢いそのまま、22年度には売上高1250億円と過去最大額を見込む。
「アクシデントを踏み台として、もう一歩上がっていきたいです。大変苦労したし、思い切ったこともやりましたが、それで会社の体力がついたのではないかと思います」と川田会長は語る。
ピンチこそチャンス——。この姿勢はセーレンの歴史そのものである。
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